第13話
薄暗い通路を、当てもなく漂い続けて二時間半。敵はいないけどダンジョンみたいに複雑な作りなので、前に進めているかどうかも怪しいところ。オートマップは通過した場所しかクリアにならないし、本当にこのままで良いのかと不安になる。
卑弥呼さんと遭遇した部屋から愚直にまっすぐ掘り進むのも飽きたから、途中で何となく進路を変えてみた。余計なことをした結果、辿り着いたのは地上ではなく迷宮だった。
やたらと分岐点が多い通路の先にはワープポイントまで用意されていて、とても狭い小部屋に飛ばされることもある。まあそのどこかには別のワープポイントが必ずあるので、行き止まる心配はないけど。
今またワープで飛ばされた先は、先の見えないほど長い直線通路。ここがどこなのかを懸念すべきだろうけど、それよりこの迷宮地図を完成させたい気持ちが無限大。オートマッピングができるゲームだと、全てのエリアを塗り潰したくなるのは僕だけじゃないはずだ。
地上では百人近いプレイヤーが、この世界を楽しんでいるはずだから、僕だって与えられた環境で最大限に楽しみたい。レベル上げもしたいけどマップも埋めたいんだ。
レベル上げ……?
そう言えば、それっぽいアイテムを貰った(違う)ような。インベントリから経験の書をタップして効果を確認してみた。
経験値の書:使うと経験値がもらえる。
うん、そのままだった。レガリアワールドオンラインのイベントでもドロップした、それ系のアイテムだ。使わない選択肢はない。
《レベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
《ΓΒΩはLV10になりました。進化しますか? はい/いいえ》
うわっ! ひとつ使っただけで、めちゃくちゃレベルが上った。しかも進化とか言われてるし意味不明。ジョブチェンジじゃなくて進化。まるでモンスター扱いされている件について。今の僕は妖精の幼体らしいから、これで成体になれるのだろうか。
進化という言葉には正義が宿ってる気がするので、はい、をタップ。刹那、体が発光を始め、収まったときには窮屈な閉鎖空間に閉じ込められていた。
《個体ΓΒΩは蛹化しました。この状態で攻撃されると死亡が確定します》
おいおい、蛹化って虫か!
確かに虫っぽい大きさだけど、それにしたってこの扱いは酷い。抗議の念を込めて地団駄を踏もうとしたら、狭すぎてほぼ体が動かないことに気づいた。力をどれだけ入れても足を伸ばせない。腕は微妙に動かせる感じ。この状態で攻撃されたら死亡確定ってフザケてる。まだこの世界の風景すら見てないし、他のプレイヤーとも出会ってないのに。
とにかくステータスを確認だ。そこに何か打開策があるかも知れない。
こしあん
HP1 MP400
個体 ΓΒΩ(pupa) LV1/20
戦闘 近✕/中✕/遠✕
支援 治✕/バ◯/デ◯
生産 武◯/道◯/他◯
固有スキル 浮遊LV3 吸収LV3 傀儡LV1
一般スキル 雷光LV1 錬金LV1
SP 27
打開策どころか絶望を突きつけられた。戦闘関係が全て【✕】になってる。しかも今までなかったHPMP表示が現われて、生命力を表す数値が【1】しかない。これは詰んだ、終わってしまった。不用意に進化しなければ良かったんだけど、今更言っても後の祭り。メガネ博覧会よ、さようなら。
……まあでも、ここにモンスターがいないのは確認済みだし、もしかするとワンチャンあるのかも。動けないけどメニュー操作だけはできるから、この状態で色々と探るしかない。
ΓΒΩ(pupa):ΓΒΩの蛹化形態。時間経過で経験値を微量獲得。
浮遊LV3:重力を無視して空中移動ができる。LV10で飛翔になる。
吸収LV3:大気中から魔力を常時吸収。
傀儡LV1:傀儡人形を作り出し戦闘させる能力。
雷光LV1:雷属性の遠距離単体魔法。使用には遠距離の素質が必要。
錬金LV1:アイテムを合成する能力。使用には生産全ての素質が必要。
SP:HP・MP及びスキルを強化するポイント。有限。
さすがは粘りに粘って突然変異を重ねたキャラクターだ。ゲームの初期状態とは思えない能力が並んでいる。しかも説明を読むに何とかなりそうな感じがしなくもない。
蛹化形態とは即ち、動けない代わりに自動的に経験値が増える状態なのだろう。安全な場所にさえいれば、いつか羽化してこのデバフは解除されると思う。それに経験値が必要なのなら、例のアイテムでこの形態をすっ飛ばせる。
それが出来なくても傀儡人形を作り出せば安全度は大きく上昇。さらにSPを使えばHPを増やすことも可能らしい。【1】しかないのは不安でしかないから、ひとまず10ポイントぶっ込んでみた。SP1で増えるHPは10らしい。HPが101になったのでまずは安心。
何にしても、思ったより危機的状況ではなかった。まあ冷静に考えたら、あり得ないほどの危機なんだけど。
だって初期スキルはほぼランダムだったし、それによっては打開策が見いだせない状況に陥ったかもしれない。卑弥呼さんの部屋を見つけたのは偶然だし、そこにあったアイテムを頂いた(だから違う)のもたまたまだった。なぜか分からないけど、この場所にモンスターがいないのも奇跡的だし、ひとつ何かが違っていたらTHE・ENDだった。
キャラクターメイキングの時点で罠を設けるなんて、さすがメイダスだとしか言いようがない。どちらにせよ、この蛹化状態は早く脱しておいたほうが良いだろう。
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