第69話
「絶対睡眠にゃ!」
ニャン汰さんがダメ元で放った状態異常魔法、絶対睡眠。それをまともに受けたエルダーデーモンはガクンと膝を折り、その場で動かなくなった。
「き、効いたにゃ……」
「効いたね……」
「効果ありましたね」
絶対睡眠は新大陸のモンスター、ナイトメアが持っていたEXに分類される魔法スキル。その効果は自分よりレベルの低い敵一体を、耐性に関係なく眠らせる……というもの。
かなり凶悪で優秀なスキルだけど、今までニャン汰さんが使わなかったのは【自分よりレベルの低い敵】とスキルの説明に明記されていたからだと思う。
エルダーデーモンのレベルは【???】。これだと高いのか低いのか分からない。むしろ、これだけ強いのだから自分より高いと考えるのが普通。
そして実際、通常フィールドで同等のステータスをした敵に出会ったとすれば、僕たちより遥かに高レベルなのは間違いない。でも今はイベント期間中。【???】はレベルなし。つまり、低いとする考えにも該当する仕様のようだ。
「ニャン汰さん、エルダーデーモンたちに絶対睡眠をかけまくって!」
「了解にゃ!」
冒険者ギルドに押し入ってきた一体、そして今まさに街へ乱入しようとしていた一体、さらには街の入口で猛威を奮っていた二体も絶対睡眠で無力化に成功。
何だよ、レガリアワールドオンライン! 攻略のヒントがなさすぎて泣きそうになったわ!
「ニャン汰さん、睡眠の効果時間はどれくらい?」
「全く育ててにゃいから、一分にゃ。マックスで五分ににゃると思うにゃが……」
たった一分。しかも睡眠だから、手を出したら効果が切れる。でもそれを十二時間続けるしか、防衛手段は残されていない。ニャン汰さんが寝ずに頑張れるなら……。そんな過酷なこと、本当にできるのだろうか。
いや、待てよ?
【???】はニャン汰さんよりレベルが低いと判定された。つまり、もうひとつの【自分よりレベルの低い敵】に有効なスキルも効果があるってことじゃ……!
「僕が攻撃したあと、すぐに絶対睡眠をお願いできる?」
「何か思いついたのかにゃ?」
「うん、でも失敗するかもだから保険の意味で」
「分かったにゃ。こしあんくんのやりたいようにやるにゃ」
これでダメなら、もうニャン汰さんの頑張りに期待するしかない。でももし成功すれば仮眠時間は確保できるはず。
冒険者ギルドの壁を破壊した敵に近づき、スキルのコマンドをタップした。
「次元断!」
【1000000】【500000】【250000】【125000】【62500】【31250】【15625】【7812】【3906】【1953】【976】【488】【244】
怒涛の十三回連続攻撃でポップアップする被ダメージ。よしっ、通じた!
次元断は港町シェレナ周辺に出現するモンスター、堕ちた剣士から入手したスキルだ。その効果は、自分よりレベルが低い敵のHPを半減させる。それだけでも強力だけど、速度の高いキャラが使用すると凶悪さがすごい。
「絶対睡眠にゃ!」
残り僅かなHPになって動こうとするも、すぐに動きを封じられて膝を折るエルダーデーモン。
「トドメを!」
「任せるにゃ!」
《congratulations 経験値と500000Gを獲得!》
《クランポイント1000を獲得!》
《討伐ポイント500を獲得!》
《経験値玉手箱(超々特大)を3つ獲得!》
《討伐ポイント玉手箱(超々特大)を3つを獲得!》
《Dシールドを3つ獲得!》
《Dウィップを3つ獲得!》
「やった……」
「倒せたにゃ……」
「さすが、こしあんさんです」
「ウソ……倒しちゃったの?」
「やるわね、こしあん」
「やっぱ最高~みたいな」
どこまで行ってもこれはゲーム。ゲームなら必ず打開策があるはず。それが見つからないから苦労するだけで、見つけてしまえば意外とどうにかなるものだ。
そんなこと……頭では分かってたつもりだけど、理屈を抜きにして今は嬉しい。
「全員に次元断のスキルブックを配るから、すぐに覚えて」
僕とヴァネッサとニャン汰さんは、もう習得済みだ。あとは、いつでもミルクティーの面々にも習得してもらえば、グッと戦況が楽になる。
次元断は職種や武器に関係なく放てるスキルだけど、近接攻撃なのが玉に瑕。物理防御力の低い賢者やビショップが本来覚えるスキルじゃない。
「次元断でHPを減らして、最後にアタック。このコンボで楽勝にゃ!」
「うん、これなら強制睡眠に頼らなくても大丈夫だね」
「護れます、これなら宿場町を私たちの手で……!」
「次は入口付近のエルダーデーモンにゃ! 全員突撃にゃ!」
コンボがハマり、強敵エルダーデーモンを瞬く間に一掃できた。すぐに新たなエルダーデーモンがポップアップしたけど、もはや僕たちの敵じゃない。
エルダーデーモンLV??
HP 2000000
MP 5000
物理攻撃力 2000
魔法攻撃力 500
物理防御力 200
魔法防御力 200
速度 15
幸運 0
【能力】
二回攻撃・即死無効・麻痺無効・混乱無効・再生
【持っているもの】
N 経験値玉手箱(超々特大)
R 討伐ポイント玉手箱(超々特大)・クランポイント玉手箱(超々特大)
UR Dブレイド・Dロッド・Dボウ・Dシールド・Dウィップ
Dブレイド 物理攻撃力+500 攻撃回数+1 麻痺30%
Dロッド 魔法攻撃力+400 攻撃回数+1 毒30%
Dボウ 物理攻撃力+350 攻撃回数+1 即死30%
Dシールド 物理防御力+100 被ダメージ15%ダウン
Dウィップ 物理攻撃力+0 弱体化10% 混乱30%
「オスカーさんのところは、正午まで何人くらい残れそうですか?」
「クリームとエミリア、その他に三人と……ええい! 私も残りましょう。職場には仮病を使います」
「ちょ、大丈夫なんですか?」
「皆勤手当が飛びますけど……それ以上に、ここを護るほうが大事ですから」
大人の女性って感じでカッコいいなぁ、オスカーさん。言ってることは、かなりおかしいけど、それが正しいように聞こえる不思議。
いつでもミルクティーの社会人がログアウトした後は、残った九人でローテーションを組んだ。四人と五人に分かれて、五時間づつの休憩を取れるようにした。最後の二時間は全員参加……みたいな感じで。
そして迎えた九月一日の正午。
《シンボル防衛イベントを終了いたします》
《参加して下さったクランの皆さま、お疲れさまでした》
《なお、イベントで稼いだポイントはクランハウス内で利用できます》
「やっと終わった!」
「キツかったにゃ」
「まだまだ行けます」
「私たちの手で街を……」
「眠い、ログアウトする……」
「超良い感じ~みたいな」
「お疲れさまでした~」
「はぁ~疲れた~」
「明日から学校か~行くの嫌だな~」
残っていたエルダーデーモンは光の粒子となって消え、宿場町を脅かす驚異はいなくなった。そして画面が切り替わり、破壊された冒険者ギルドの壁も元通り。BGMも普段のものになって、久しぶりに安心感が押し寄せてくる。
僕たちは全員でバンザイのアクションを取り続けて、互いの健闘を称え合った。とても絆が深まった、そんな気がする。
こうして僕の初参加イベントは終了し、同時に夏休みも終わりを告げた。
五章 防衛イベントでオンライン 了
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