エピローグ わりと最強で最高な主人公でオンライン

「フッ、それは残像だ……」

「ライジングサンにゃ!」


 新大陸の第二拠点周辺。アークキマイラのかぎ爪攻撃を、短距離ワープでかわして背後へ転移するこしあん。相手の攻撃モーションが終わった瞬間を狙い、ニャン汰さんが大技を叩き込む。


「ガアァァァ!」

「無駄です、オールカバー!」


 ブレス攻撃の体勢に入った敵。その前に大盾を構えて立ちはだかるヴァネッサ。範囲攻撃の連続ダメージを全てその身に受けてなお、彼女のHPは半分以上残っていた。


「ヴァネッサさん! ハイヒール!」

「フレイムピラーじゃ!」


 減ったHPをピエールが回復し、バロスが単体攻撃魔法を叩き込む。五人のうち三人がAIだとは思えないほど、息の合った連携。


 アークキマイラのHPは風前の灯火。対してこちらのHPは全員が満タン。そろそろこの辺りの敵だと手応えがなくなってきた。


「スラッシュにゃ!」


《congratulations 経験値と60000Gを獲得!》

《サソリの尻尾を3つ獲得!》

《ヘビの皮を3つ獲得!》

《獅子のたてがみを3つ獲得!》


「こんなもんかな」

「余裕にゃ」

「楽勝です」


 シンボル防衛イベントから一ヶ月。僕たちラッキーサクルのメンバーに、NPCヒーラーのピエールとNPCメイジのバロスが加わった。NPCレンジャーのハートマンはもうちょっとで好感度が上がる感じかな。今回は連れてきてないけど、ちょいちょい雇用してる感じ。


 レベルも現在のキャップ上限に追いつき、こしあんに至っては最上位ジョブ【怪盗】にジョブチェンジしてる。


 アイテムドロップ率50%アップの特性に加え、ハイパースチールから進化したミラクルスチール(スチール成功率【100%】アップ)を備えた、まさに怪盗。どんなアイテムでも簡単に入手できる。


 しかもスキル・神出鬼没(短距離ワープ)で相手を翻弄しまくれるし、盗賊の目が進化した怪盗の目で敵のステータスも分かるようになった。


 最上位ジョブになっても攻撃スキルはさっぱり覚えないけど、こしあんの役目はアタッカーじゃないからね。それでも即死や麻痺や弱体化(相手のステータスを一時的に下げる)を駆使してパーティの役に立てるから嬉しい。


 結果論だけど僕の考えたキャラって、わりと最強で最高なんじゃないかな。


「じゃあ今日はこのくらいにしておこうか」

「そうだにゃ、明日も学校にゃ」


 バイバイのアクションをしながらログアウトボタンをタップ。今日も三時間くらいゲームできて満足だ。やってないこと、知らないこともまだまだあるから、しばらくは今のモチベーションを維持しながらレガリアワールドオンラインを続けられると思う。


「さてと……」


 寝る前に、ニャン太郎様のサイトを見てみるかな。イベント後は検証に力を入れてなかった僕と違って、彼女は精力的に日々検証をこなしている。


 真の十二神イベント発生条件も新たに三つ解明してたし、最上位ジョブに至る条件もいくつか解明してた。それを惜しげもなくサイトに掲載するあたり、僕如きが追いつける領域にはいないすごい人だ。


「おっ、また新しい情報が」



 ◆紫電の森

 場所:新大陸第一拠点南西部

 宝箱:あり

 敵LV:65~70

 ※ 宝箱と通路に時間停止の罠あり。シーフ系必須。

 詳細マップはこちら▼



 新しいダンジョンの詳細だ。さすがニャン太郎様、攻略にも余念がない。それにしても紫電の森……シーフ系必須の場所か。


 防衛イベント終了後から、ガチ勢の中にもシーフ系に転向する人が出てきたらしい。各クランでもシーフ系の育成が急務なのだとか。不遇とみなされていたジョブだったけど、ようやく光が当たり始めたようだ。そりゃあれだけの大金を払って耐性スキルを買うのなんて、みんな金輪際ご免だろうからね。おかげで僕はマハラジャになったけど。


 イベントといえば、入手したクランポイントで【クラン効果枠】を三つ交換した。今ではラッキーサークルの恩恵は【幸運】【物理攻撃力】【物理防御力】【魔法攻撃力】の四つだ。


 効果上限を引き上げるアイテムも交換したから、最大【5%】だったクラン効果は【10%】まで伸ばせるようにもなった。でもポイントが足りないから、まだマックスにはできてない。また次のイベントで稼がなくては。


 討伐ポイントの交換一覧には強い装備もあったけど、シーフ系の僕が装備できるものは少なかった。それに盗んだ激レアアイテムのほうが良い感じだから、交換はしてない。貯蓄しておいて、いつか有用なものと交換できるイベントがあれば使おうと考えてる。


 そんな感じの日常だけど、イベント後にプレイヤーがひとり入団してくれた。


 なんとそれはオスカーさん。ドレスゼロ的な礼装に身を包んだ、メイジ系の頼れるお姉さんだ。いつでもミルクティーの団長をクリームに託して押しかけてきた。


「私の矜持ですので」なんて言ってたけど、多分イベント中のあれやこれやを清算したいからだと思う。


 ちなみに、あのとき売ったアイテムの代金はまだもらっていない。






 僕の考えた最強でも最高でもない主人公オンライン


         第一部  了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る