第67話

 ニャン太郎様のサイトにあった動画を見たときも思ったけど、敵が強すぎると作戦なんて意味をなさない。厄介な攻撃手段を持っていなくても【シンプルに強い】、ただそれだけで充分な脅威になる。


 全身漆黒で、ライオンのような顔。背には蝙蝠の羽、臀部からは細長くて鞭のようにしなる尻尾が生えている。エルダーデーモン、それがここ宿場町のラスト・モンスターだ……と思う。この人数でこれ以上強い敵と戦うなんて、さすがに想像できない。この敵のことも想像できなかったけど。


 それに昨日まで微かに流れていたゲーム内BGMが、決死の攻防を盛り上げるようなものに変化してる。これでラスト・モンスターじゃなかったら詐欺だ。


「……ミナゴロシ……」


 ゾウよりも大きな、筋肉隆々の巨体から放たれる、ただのパンチ。


【494】【494】


「うっく……」


 たったそれだけで、ヴァネッサのHPが半分ほど削られてしまった。レベルも【63】になって、ここまでに入手したSP全てを防御系統のステータスにしか振ってない彼女のHPがだ。


 いつでもミルクティーのパラディン三人衆は瞬殺されたので、リザレクトでの蘇生後、後方に下がってもらった。


「賢者の石! 盗賊の目!」

「ハイヒール!」

「ハイヒール!」



 エルダーデーモンLV??


【持っているもの】

 N 経験値玉手箱(超々特大)

 R 討伐ポイント玉手箱(超々特大)・クランポイント玉手箱(超々特大)

 UR Dブレイド・Dロッド・Dボウ・Dシールド・Dウィップ



 名称は分かる、入手可能なアイテムも分かる。でも、正確なステータスが分からない。ヴァネッサがくらったダメージから逆算すると、奴の物理攻撃力は【2000】前後で、速度は二回攻撃ができる【10から19】の間。


「フレイムピラー!」

「フレイムピラー!」

「フレイムピラー!」

「フレイムピラー!」

「フレイムピラー!」

「ライジングサンにゃ!」


 敵は一体だけなので、メイジ系唯一の単体攻撃魔法【フレイムピラー】で応戦する賢者たち。ニャン汰さんの最大威力攻撃も炸裂。


 でも奴のHPは数ミリしか減少してない。


「……フキトベ、ゴミクズドモ……」


【494】【494】


「くはっ!」

「ハイヒール!」

「ハイヒール!」

「ハイヒール!」

「くそう、アタック!」


【0】【0】【0】……と、虚しくポップアップする、こしあんの与ダメージ。しかも即死や麻痺が効いてない。さすがにラスボスだけあって耐性持ちっぽい。


《ハイパースチール成功 経験値玉手箱(超々特大)×3》

《ハイパースチール成功 クランポイント玉手箱(超々特大)×3》

《ハイパースチール成功 Dブレイド×3》

《ハイパースチール成功 Dロッド×3》

《ハイパースチール成功 Dボウ×3》

《ハイパースチール失敗 敵から盗めるアイテムはもうありません》

《ハイパースチール失敗 敵から盗めるアイテムはもうありません》

《ハイパースチール失敗 敵から盗めるアイテムはもうありません》

《ハイパースチール失敗 敵から盗めるアイテムはもうありません》

《ハイパースチール失敗 敵から盗めるアイテムはもうありません》

《ハイパースチール失敗 敵から盗めるアイテムはもうありません》

《ハイパースチール失敗 敵から盗めるアイテムはもうありません》

《ハイパースチール失敗 敵から盗めるアイテムはもうありません》


 こしあんが【LV60】で覚えたドロップ数アップの効果で、盗んだアイテム数は三倍になる。イベント初日には【LV1】だったけど、溢れるモンスターのおかげで、順調にマックスレベルへと成長した。


 それは嬉しいけど、状況を打破できるようなものは持ってなかったようだ。まあでも敵は一体だけだし、ヴァネッサも崩れてないし、時間さえかければ倒せるはずだ。


 討伐ポイント玉手箱(超々特大)、Dシールド、Dウィップの三点は盗めなかったので、ドロップアイテムなのだろう。


「えっ?」

「マジかにゃ!」


 削ったエルダーデーモンのHPが全快してる!?


「再生持ちにゃ、厄介すぎるにゃ」


 再生。即ち、パラディンのリジェネレートと同じくHPが徐々に回復する能力だ。桁外れに高いHPなのに再生能力まであるなんて、ニャン汰さんが嘆くように厄介すぎる。


「相殺、できるかな……ポイズンミスト!」


 スキルブックで覚えた毒付与の魔法、ポイズンミスト。メインで使ってなかったからレベルが上がりきってない。それでも十秒間に、最大HPの三パーセントづつスリップダメージが入る。


「フレイムピラー!」

「ライジングサンにゃ! 兜割りにゃ!」

「……コソバユイワ……」


【494】【494】


「くっ……!」

「ハイヒール!」

「ハイヒール!」


 毒耐性は持ってないようで、スリップダメージは入り続けてる。でもすぐに回復されて、振り出しに戻る感じが悲しい。この人数じゃ、倒すのは永久に無理な気がする。


「ダメにゃ、埒が明かないにゃ」

「こしあんさん、新たな敵が!」


 切羽詰まった声で、オスカーさんが叫ぶ。その方向を見やると最悪が、いや厄災がこちらに近づいていた。


「二体目って!」

「ヤバいな、二体じゃヴァネッサは耐えられない」


 一体が一度攻撃するだけで、ヴァネッサのHPは半分なくなってしまう。それが二体いれば、同時攻撃で消滅する計算になる。そうなると蘇生している間に、エルダーデーモンが街へと入ってくる可能性が……。


「あわわ、マスター! 三体目が現れました~」

「何ですって!」

「うわ、ホントだ」

「これは、ちょっと……かなりマズいにゃ」


 二体でも無理っぽいのに三体目って!


 運営は何を考えてんだよ。そんなに街を潰したいのか。それとも、切り抜けられる可能性を見越してなのか……。


「オードリーさんたち、ヴァネッサさんの後ろでタウントを!」

「了解!」

「少しでも時間を稼いでやるっ」

「人柱です~怖いですぅ~」

「ビショップの皆さんは、リザレクトの用意を!」


 可能性可能性可能性……探せ探せ探せ探せ探せ探せ!

 このままだと確実に宿場町が廃墟になってしまう。

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