第49話

《最上位ジョブに至る資格を獲得ました》


 シャインスライムの群れを倒すと同時、そんなメッセージが表示された。


「次が来るわよ!」


 深く考える暇もなく連戦に突入。こいつらを倒すまで気が抜けない。僕は賢者の石とHPポーションを使ってヒーラーの真似事を。そして、ふたりのMPが切れないよう、MPポーションを投げつける役も担当している。


 こんなに忙しい戦闘は初めてだ。新大陸に行けば、さらに忙しく立ち回る必要があるのかな。それまでにピエールとバロスを育てておきたいところ。


 二十二回目の戦闘。シャインスライムを合計百三十五匹倒したところで【LV50】に到達した。でもまだ殲滅が終わってない。


 深夜になってテンションが上ってきたのか、クリームは「うひょー」とか「とりゃー」みたいな奇声を上げるようになった。たまに「あははははは」と高笑いもしてる。早く切り上げて寝かせてあげたい。でも次から次へとシャインスライムの群れが押し寄せてくる。


 結局、四十八回。シャインスライムを合計三百三十五匹倒したところで殲滅が完了。そこから急いで下層へと走り、出会い頭の事故みたいな戦闘だけをこなしてアルカ遺跡から脱出した。かなり疲れたけど、得られたものも大きい。こしあんもヴァネッサも、セカンドキャラまで【LV50】に到達してしまった。


 クリームとエミリアよ。五千万G分の働き見事であったぞ。ふぉふぉふぉ。時計を確認すると深夜二時。うん、さすがに僕も壊れかけてる。


「楽しかった~、みたいな」

「まぶたが、もう……ここでログアウトする……」


 エミリアは夜型なのか、まだまだ元気そうだ。対してクリームは、お子ちゃま仕様な感じ。「じゃあね、おやすみ……」と言い残して本当にログアウトしてしまった。


「あ、消えた。安全地帯にログイン設定してるのかな」

「私たちはクランハウスにしてるから大丈夫だよ~、みたいな?」

「エミリアも今日はありがとう」

「え~、もう終わり~?」

「え~、終わらないの~?」


 口調を真似するくらいしか、柔軟な対応を思いつかない。ソロだとこれくらい疲れていてもプレイするけど、他人がいるとやりにくい。それにエミリアとは、今日まで話したことすらない関係だったし。


「こしあんくんがボッチだから、遊んであげるよ~みたいな」


 いやいや、ありがた迷惑なんだけど。何ほざいてるんだこのくまモン娘(©2010熊本県くまモン)は。


「それにここからだと、秘密の店も近いし~みたいな」

「秘密の……店?」

「あれっ、知らなかった? 攻略サイトにも載ってるのに~」


 何っ! エミリアのほうが攻略サイト上級者だとでも言うのか。サイト管理者のニャン太郎様とフレンド登録している、この僕よりも。


 まさかこの女……僕の攻略サイト愛を試しているのか!


「ああ、秘密の店ね。知ってる知ってる」

「だよね~、じゃあ行こっ」

「お、おう。行こうぜ」


 森林地帯沿いに西へと歩き出すエミリアを追って、こしあんとヴァネッサが続く。何度か戦闘を重ねながら辿り着いたのは、レガリア大陸の最南端。日本地図的に言えば山口県の最西部に相当する更地だった。


 木も草も生えていない見事なまでに何もない場所。そこには当然、店らしき建物も見当たらない。僕はもしかして、からかわれてるのかな。


「ここは第一回目のシンボル防衛イベントで、モンスターに潰された町よ……」

「潰されたんだ」

「うん。それはもう完膚なきまでに~みたいな」


 防衛に失敗したら町が廃墟になるって書いていたけど、まさか本当だったとは。しかも廃墟どころか、人の暮らしていた痕跡さえなくなっている。シンボル防衛イベント、恐るべし。


「そのとき私とクリームも、ここの防衛担当だったのよね~」

「え、そうだったの?」

「ここを防衛してたのはウチのクランだけだったから、失敗は仕方なかったんだけど……ちょっと悲しかったな……」


 確か防衛するクランが多い拠点ほど、攻めてくるモンスターも強力になるって書いてあった。だから単一クランで守っていたここは、弱いモンスターしか攻めてこなかったはずだ。それでも防衛に失敗したってことは……モンスターの数が多すぎたのか、それとも【弱い】の基準が高いのか。


 そんなしんみりとした話をしながら更地の中ほどまで進むと、急に画面が切り替わって街中になった。どことなく商業都市バンドルに似てる街並みだけど、妙に寂れた感じがある。それに人が歩いてないし、何だか画面全体が淡い。


 まるで幻のような、記憶の残像のような街。


「イベントが終わって何日かしてからかな~。ここを訪ねたら、こうなってたのよ。で、攻略サイトに知らせたのも私なのだ~みたいな」

「エミリアが? すごいじゃん!」

「でしょ~? 泡沫の街って名前で紹介されてたでしょ~」

「へぇ、そうなんだ」

「あれ? 知ってたんじゃ……みたいな」

「実は知らなかったんだよね」


 ちょっとどころか、かなりおバカキャラだと思っていたエミリア。でもその実態は検証魂を内に秘めたアグレッシブな女子だった。僕みたいにアイテム情報を細々報告するのとはわけが違う。防衛に失敗して廃墟になった縁起の悪い街に、もう一回行こうと思う発想がすごい。これはもう、大発見と呼んでも過言じゃないレベルだ。


 幻のような街並みを進むと、一軒だけ電飾でピカピカしたお店が見えてきた。電飾って! ここ、中世ヨーロッパ的な世界観なのに。運営、悪ノリしすぎ! 看板には大きく秘密の店と書かれている。


「よし、到着~。こしあんくんは、お金持ちだから買い放題だね~みたいな」


 何を? と、聞きたかったけど、まあ入ったら分かるかな。


 店をタップすると店内画面に切り替わった。カウンターの後ろには、隻眼でスキンヘッドの大男が半裸で腕組みしてる。


「いらっしゃい。買えるもんなら買ってみやがれ」


 そうして表示された商品は、ほぼ未知のアイテムだった。しかも値段が何桁もおかしい。



 ・転生券 10000000G

 ・転生の果実 50000000G

 ・転生の魔法陣 70000000G

 ・真・転生の魔法陣 100000000G

 ・戦士のエムブレム 100000000G

 ・騎士のエムブレム 100000000G

 ・術士のエムブレム 100000000G

 ・神官のエムブレム 100000000G

 ・狩人のエムブレム 100000000G

 ・盗賊のエムブレム 100000000G

 ・魔人のエムブレム 100000000G

 ・腕力の水 500000000G

 ・魔力の水 500000000G

 ・体力の水 500000000G

 ・精神の水 500000000G

 ・速さの水 500000000G

 ・幸運の水 500000000G



 全ての商品が、レガリア城下町にあったマリリン道具店以上の価格だ。タップしても商品説明が表示されないのは仕様だろうか。


 唯一効果が分かるのは、序盤のオーククエストで貰った転生券だけ。エムブレム系は装飾品、水系は使い捨てアイテムだろうけど、金額が金額なだけに購入して効果がゴミだったら目も当てられない。



 所持金 258077000G



 こしあんの所持金は二億五千万を超えている。買い放題じゃないけど、水系以外なら何とか購入できる。


 どうしよう。未知のアイテムには興味があるけど……。

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