第19話

【珍しいアイテム募集!】


 世の中にはレアアイテムと呼ばれる貴重品が存在する。見つけたらぜひ、私の店に持ってきておくれ。


 クエスト達成条件 三番街のマリリン道具店で、レアアイテムを売る。


 報酬 ヘルメス神を信仰できるようになる。



 ああ、これは信仰対象の開放クエストか。この世界の十一神はオリュンポス十二神の名を冠されているけど、ヘルメス神だけが省かていた。攻略サイトの情報では、このヘルメス神こそ僕の求める加護を与えてくれる。その加護とは【アイテムドロップ率5%アップ】だ。


 どうしてこの神だけが、開放クエストになっているのかは分からない。明らかにシーフ向けの神なのに段階を踏まないと信仰できないなんて、運営の悪意を感じてしまう。こんなところもシーフが敬遠される理由なんだろうな。


 後回しにしようと思っていたけど、今後の効率を考えれば受注しておくに越したことはない。このクエストをやってからレベルアップに励もう。


【珍しいアイテム募集!】の項目をタップして、このクエストを受注した。インベントリの中にはリザードメイルやゴブリンリング、レッサーオークマントがたくさん余っている。この機会に売ってしまうのもアリだろう。


 ミニマップを開くと、街の地図と重なって地区名が表示された。それを見ながら三番街方面へと向かう。結構遠いけど、文字通りいつかは通らなければいけない道だ。三番街の先にはスラム地区もあって、そこで闇市システムの登録もできる。ついでにそれも済ませてしまおう。


 中世ヨーロッパ風の、ザ・ファンタジーゲーム的な街並み。そこかしこでお喋りに興じる多くのプレイヤー。忙しそうに動き回っているNPCたち。そんな風景を横目に、ミニマップを確認しながら目的地へと歩き続けた。


 通りをひとつ隔てた先が三番街という場所まできて、明らかに他の地区とは様相の違う建物が目立ち始めた。屋根が魔女の帽子になっている。いや、つばの広い三角帽子型の屋根と言ったほうが適当かな。


 とんがり帽子の先端部分は煙突になっているらしく、そこから紫色や緑色の煙がたなびいている。室内で何をしてるんだろう。そしてそんな外見の建物全てに、ポーション印の旗が掲げられていた。


 ジェシカ道具店、ドミンゴ道具店、マーク道具店、シトリー道具店などなど。まるでコンビニのドミナント出店方法よろしく、道具屋がこの三番街付近に集中している。


 レガリア城下町に入ってすぐのところにも道具屋はあったけど、ここは言わば道具屋街。店によって売り物や価格が違うのかな。そのうち調べてみよう。優先順位は限りなく低いけど。


 マリリン道具店は三番街の中心、三角帽子の建物に囲まれた場所にあった。右も左も前も後ろも斜め方向だって道具屋なので、道具屋ウォールに守護されている重要拠点みたいに感じた。


「いらっしゃい。今日はどんな用だい?」


 店に入ると、魔女以外の感想が思い浮かばないほど魔女成分過多な老店主が、嗄れた声で挨拶をしてきた。それと同時に表示される商品一覧。



 中級ポーション HPを250回復 1000G

 中級Mポーション MPを250回復 1500G

 万能薬 毒・麻痺・混乱を治す 1500G

 革のブーツ 速度+5 1500G

 ミサンガ 幸運+5 2500G

 盗賊の靴 速度+10 アイテムドロップ率5%アップ 9999999G

 盗賊の腕輪 幸運+10 スチール成功率5%アップ 9999999G



 桁の違う価格で装飾品が販売されていると思ったら、シーフ専用装備だった。特殊効果のついた装飾品を、店で購入できると思えば安い……のか?


 正直、どちらも欲しい。でも所持金が足りないので今回は諦めよう。いつかきっと購入してやる。そのうち、もっと性能の良い装飾品をモンスターから入手できる気もするけど。


 ひとまずクエストを完了させたいので、売却ボタンをタップした。インベントリの中から、ゴブリンリングを選択。これで良いはずだ。


 確かこの後の流れは……


 1 店主に話しかけられる。

 2 地下室へと案内される。

 3 そこにヘルメス神像があるので、信仰できるようになる。


 ……だったはずだ。


「こ、これはゴブリンリング! こんなものを持ってくるなんて、お前さん只者じゃないね?」


 いえいえ、只のシーフです。ひとりだとリザードマンも狩れない虚弱体質です。アイテムドロップ率だけが取り柄のエンジョイ勢です。だからさっさと神像のところまで案内してください。


「ついておいで」


 促されて店の奥に入ると、そこに地下室への階段があった。老店主が迷いなく階段を下りるので、それに付き従う。一体どれだけ一生懸命掘ったんだ? と思うほどに長い長い階段の果て、こじんまりした地下室へと到着した。その中央には神像がある。


「これはヘルメスという忘れられた神の像じゃが……」


 うん、知ってる。もう説明は大丈夫だから、早く加護を受けさせてください。


「こんなもん、ただのゴミじゃ」


 老店主はそう言い放つと、ヘルメス神像を勢いよく蹴りつけた。


 ええっ、何てことしてんだよ!


 あああ……、神像が倒れて粉々になってしまった。これだと加護を受けられそうもない。攻略サイトバイブルの情報と違うじゃないか。

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