第17話

 装備を整え、傭兵ギルドでナイトを雇うと所持金が【250G】になってしまった。でもリザードマンを倒せば一回につき【500G】入手できるので、すぐ元が取れるはずだ。


 それより時間のほうが問題になる。傭兵の拘束時間は三時間。リザードマンのいる地点まで十数分として、実質二時間五十分程度しか雇えない。倒した後のリポップ時間も考えると、気が急いてしまう。


 雇ったNPCの名前はヴァネッサ。女性のナイトで、HPと防御力がとても高い。【LV9】なだけあって、オカンさんよりステータスは優秀だ。対リザードマン戦の壁役として、充分な働きをしてくれると思う。


 ヴァネッサとふたりで寡黙な道中を過ごし、はじまりの街エリアとレガリア城下町エリアをつなぐ橋に到着した。リザードマンが復活していたので、ゆっくり慎重に近づいて行く。


 しかし戦闘に突入するだろう距離になっても画面がズームしない。もしかして一度しか戦えないのかと不安になり、リザードマンに接触する。


《リザードマンと戦いますか? 戦う/素通りする》


 そんな選択肢が表示された。


 当然、戦うを選択すると画面がズーム。一度倒したイベントボスとは、こうやって再戦できる仕組みのようだ。


「よし、ヴァネッサ。行け」

「ガードスタンス!」


 学習型AIが育っていない傭兵にこちらの指示は通らないと分かっていても、何となく声をかけてしまう。それに応えた……わけでもないだろうけど、ヴァネッサはその場でガードスタンスを使用。このスキルは物理防御力と魔法防御力をアップさせ、ナイトの鉄壁さに磨きをかける効果がある。元のステータスでもリザードマンごときの攻撃ではダメージをくらわないのに、さらに硬くなって守りは盤石だ。


 って、違うだろ! 突っ込めよ! タウント発動しろよ!


 その場で防御の姿勢を取り続けるヴァネッサと、僕たちを待ち構えて雄叫びを上げるリザードマン。そして背後を取れないので動けないこしあん。まさかの膠着状態に陥った。


 タウントを発動するか攻撃を加えないと、橋を背にしているリザードマンは動かない。動かないとアタッカーが背後に回り込めない。プレイヤーなら分かりそうなことだけど、学習型AI搭載のNPCには、そこが理解できないようだ。


 ヴァネッサはガードスタンスの効果終了まで微動だにせず、ようやく効果が切れると再度ガードスタンスを発動した。何やってんだ、お前!


 このままでは時間だけが過ぎてしまうので、意を決してリザードマンに突進した。一撃で半分以上のHPを削ぎ落とし、お約束の大車輪をまともにくらう。


【43】の被ダメージがポップアップ。しかし装備を新調したおかげで、こしあんのHPは【2】残っている。すかさず武器を一閃して、なんとかリザードマン討伐に成功した。


 シレッとした顔でガードスタンスの構えを解き、近づいてくるヴァネッサ。


「やる気あるのか! 僕の3000Gを返せ!」


 無駄だと知っていても、抗議せずにはいられない。インベントリから下級劣化ポーションを指定し、ちまちまHPを回復させながら恨み節をぶつけ続けた。


 さて、気を取り直して第二戦目。成長型AI搭載ってくらいだから、ヴァネッサもそのうち成長するだろう。最初はイライラするけど、赤ちゃんみたいなものなので我慢するしかない。


 約一分でリポップしたリザードマンに触れると、再度ズームアップされる画面。響くトカゲの咆哮、ガードスタンスを発動するヴァネッサ……。一度の戦闘では賢くならないようだ。


 時間がもったいないので、こしあんを突撃させて戦闘終了。その後、下級劣化ポーションでHPを回復する。何のためにナイトを雇ったのか、分からなくなってきた。


 リポップを待ち、リザードマンを倒し、HPをちまちま回復させる。そこまでがワンセットだと諦めかけた二十数回目の戦闘で奇跡が起こった。


「タウント!」


 戦闘開始直後に、ヴァネッサがタウントを発動してくれたのだ。聞き間違いかと思って突撃を停止すると、こしあんを素通りして彼女に向かって行くリザードマン。このとき歴史が動いた!


 すかさずバックアタックを決めてからの再攻撃。絶叫しながら崩れ落ちるトカゲ。ノーダメージのこしあん。戦闘時間は十秒以下。ナナファミリーと共闘したときよりも、さらに短時間の決着。


 これだよこれ! 僕の想い描いていた理想の形が、ようやく実現した瞬間だった。


 そこからは無心で戦闘を繰り返し、たまにやってくるクエスト挑戦者にリザードマンを譲ったりしながら、ヴァネッサの雇用時間ギリギリまで戦い抜いた。


 彼女は八割の確率で、戦闘開始直後にタウントを発動してくれるまでに成長。僕との間に深い絆が産まれたようだ。雇用時間終了になると無言で去って行ったけど。


 今回の検証で分かったのは、スキルブックはやはり激レアアイテムだという事実。ドロップ率もゴブリンリングとほぼ同じだった。でも、リザードマンが大車輪のスキルブックしか落さないのかどうかは、まだ検証が足りていない。


 スチールで盗めたのは、トカゲ肉のみ。この結果も、もっと回数を重ねる必要がある。


 今回は最初のスタートダッシュで躓いたり、アイテムを使ってのHP回復に時間を取られたりで六十回ほどしか戦闘できなかった。次回からはヴァネッサも成長したので、少なくとも八十回は戦えると思う。それを二回ほど繰り返せば、一応の答えには辿り着くはずだ。


 こしあんのレベルもひとつ上がり、所持金も大幅に増えた。もうリザードマンからは経験値を貰えないけど、アイテムさえドロップすれば検証に支障はない。


 ひとまずレガリア城下町に帰還して、もう一度ヴァネッサを雇い直そう。



 キャラネーム こしあん

 ジョブ1 シーフLV11

 ジョブ2 なし

 HP 45

 MP 20

 物理攻撃力 7+140

 魔法攻撃力 2

 物理防御力 7+15

 魔法防御力 2+8

 速度 20+5

 幸運 49+5

 ジョブ特性 アイテムドロップ率20%アップ

 ユニーク特性 アイテムドロップ率30%アップ

 ジョブスキル スチールLV4 罠解除LV1


 武器1 プレリュード 物理攻撃力+60 スチール成功率20%アップ

 武器2 クインテット 物理攻撃力+80 攻撃回数+1

 頭防具 厚革の帽子 魔法防御力+8

 体防具 リザードメイル 物理防御力+15 炎属性攻撃5%緩和

 足防具 革のブーツ 速度+5

 装飾品 ミサンガ 幸運+5


 SP 3ポイント

 所持金 30250G

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る