第八音②
そうして浴衣を着た五人は、
「そんじゃ、会場に向けて行きますか!」
大和のこの言葉で歩き始める。その時、慣れない浴衣と下駄のため、どうしても足下を見てしまう鈴の手を、そっと誰かが包んだ。
(え?)
驚いて見上げると、その手は何食わぬ顔をしている和真から伸びていることが分かった。鈴はその瞬間、顔を赤らめてしまう。ますます足下から視線が外せない。そうしていると、祭りの会場への列に乗った五人はゆっくりと進んでいく。所々で今回の花火大会運営者が拡声器を手に列の誘導を行っていた。
人に揉まれながら列を進めているとこれ以上、列が進まなくなり、どうやらここが今回の花火観賞場所になるようだった。
「飲み物とか、大丈夫か?」
和真の問いかけに鈴は大丈夫だよと、答える。
「和真くん、ホントに鈴ちゃん一筋だね」
琴音が自分たちに声をかけてこなかった和真をからかった。しかし和真の頭の上には疑問符が浮かんでいるようで、
「脱水になったら、大変だろ?」
そう返すのだった。
日も沈み、夕焼けが深い青へと変わっていく頃、
ドンッ!
「あ、始まった!」
大きな音と共に、空に大輪の花が一つ咲く。
最初の一発が合図となり、花火大会の会場では大音量で音楽が流れ始めた。その音楽に合わせ、次々と花火が打ち上がっていく。
「こんなに近くで見ると、迫力が違うね!」
カノンは花火の破裂音に負けないように大声で言う。その言葉に鈴も琴音も、うんうんと頷くが、視線は空に釘付けだった。
次々と上がる花火の音は、肺の中の空気を震わせる。そしてパチパチと余韻を残して消えていく花火は美しさと儚さを残していた。
鈴たちがそんな花火に見とれていると、鈴の手を握る和真の手に力が込められる。鈴が隣の和真に視線を移すと、花火の色に顔を染めながらじっと鈴を見て、微笑んでいた。そして鈴と目が合うと、その笑みを深くする。
鈴は恥ずかしくなって慌てて視線を空へと戻した。
花火大会は続く。
儚く、美しい、刹那の大輪の花を咲かせながら、しかしそれらは確実に存在し、この甘酸っぱい気持ちと共にずっと残っていく。
The Three Sounds 彩女莉瑠 @kazuno
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