第七音
第七音①
球技大会翌日、鈴は身体が起こせないくらいの激痛に襲われていた。そのため学校はしばらく休むこととなった。
ギターを触るどころか身体を起こすのもままならない状態の鈴はベッドの中で一人、暇を持て余すのだった。そんな鈴へカノン、琴音、そして和真からメッセージが届く。学校を休んだ鈴を、三人は心配しているようだった。鈴はすぐに三人に返信をする。
『大丈夫だけど、身体が痛くて動けないの。お母さんが今週は休みなさいって言ってたから、月曜日になったら登校する』
鈴のこのメッセージに、三人はそれぞれ同じ反応を返す。カノンは、
『分かった。ゆっくりしておくんだよ』
琴音は、
『お大事にね。無理して悪化しないようにね』
そして和真は、
『早く治ることを祈ってる』
三種三様のその反応に、鈴はクスッと笑ってしまうのだった。
その翌日の金曜日になると、鈴の身体も少しずつ動くようになっていた。まだギターを弾くことはできなかったものの、身体を起こすことはできるようになった。そのため一人で食事も摂れるまでに回復していた。
しかし暇な時間は変わらず、鈴は手持ち無沙汰な様子で日中は自室に閉じこもっていた。そんな昼下がり。
ピロン!
鈴のスマートフォンが一通のメールを受信したことを知らせた。鈴がこんな時間になんだろうと思いメールを開く。そこには、
『おめでとうございます』
そう始まった文章を読んでみると、そこに書かれているのはガールズバンドコンテストからのメールであった。鈴はその文面に驚き、何度も読み返す。そして、自分たち『ルナティック・ガールズ』が動画審査を通過し、本選へと行けることを確信した。
(ホントに、通っちゃった……)
鈴は念のため、メールアドレスも確認する。そのドメインはガールズバンドコンテストのもので間違いがない。
しばらく呆然としていた鈴だったが、急いで『ルナティック・ガールズ』のグループメッセージにメッセージを送った。まだカノンと琴音は授業中に違いなかったが、そんなことを構っていられないくらい、鈴は興奮していた。
(だって、本選だよっ? 東京かぁ……)
鈴の意識はもう、本選の東京へと向いているのだった。
それからしばらくして、カノンと琴音から返信が来る。二人とも信じられないようだったので、鈴はメールの内容のスクリーンショットを撮って、グループメッセージに載せた。それを見て、二人はようやく実感が湧いてきたようで、
『ホントに私たち、東京の本選に行けるんだ……』
『ヤバくないっ? 曲、どうするっ?』
琴音のメッセージにカノンが珍しく興奮した様子を見せている。
『本選って、八月一日?』
琴音の言葉に鈴がそうだよ、と伝える。
『鈴ちゃんのケガ、それまでに治るのかな……』
琴音のメッセージに、グループメッセージ内が一瞬だけ静かになる。しかしすぐに鈴は、
『何とかする! こんなチャンス、めったにないんだよ? 絶対回復させる』
そう宣言する。
『無理するなって言っても無駄だからね! 私、絶対この大会で優勝したい』
鈴の続けての言葉に、カノンも琴音も何も言えなくなってしまったようだ。きっと鈴は止めてもギターを持って東京へ行ってしまうに違いない。ならば、そんな鈴と一緒に大会へ出場することが自分たちの役割かもしれない。
カノンと琴音はそれぞれ、
『鈴が頑張るんなら、私も頑張るよ』
『そうだね。鈴ちゃんがやる気だから、私も心配だけど、頑張る』
そう鈴の意思を尊重してくれる。鈴はそんな二人へ感謝しながら、とにかくギターが弾けるまでに回復しなくてはと、焦る気持ちが出てくるのだった。
大会本戦まで、この時点で二週間と数日。
自主練習する時間やスタジオ練習、夏休みにも突入し、忙しくなる予感がする。
『そうだ! せっかくだから、大会は新しい衣装で出場しない?』
『新しい衣装?』
琴音のメッセージに鈴とカノンが反応する。琴音は、中間テストが終わった後から少しずつ『ルナティック・ガールズ』の新衣装を作成していたことを明かした。涼しげな衣装をイメージして作っていたそうで、秋にある文化祭で着られたら、と思っていたそうだ。
『でも、せっかくだし、大会で着てみない?』
琴音の提案に鈴は考える。
『琴音、負担にならない?』
『大丈夫だよ! 鈴ちゃんも頑張ってるし、カノンちゃんだって頑張るんでしょ? 私も頑張るよ!』
鈴の言葉に琴音が返す。その文面から、琴音が笑顔であることが伝わってきた。鈴はカノンの反応を待つ。カノンは、
『じゃあ、琴音に衣装は任せよう? でも、くれぐれも無理をしないこと!』
『はぁい!』
カノンの言葉で、『ルナティック・ガールズ』は新衣装でガールズバンドコンテストの本選に挑むこととなった。
その日の夕方。鈴の母親のスマートフォンに学校から連絡が入ったそうで、鈴を囲んで蹴っていた女子生徒たちの処分が決まったという。
彼女たちは月曜日から終業式まで停学処分となり、夏休みに出校し、夏休みの課題とは別の課題を行うこととなるそうだ。
「これで安心して、鈴を学校に行かせられるわ」
母親はそう言うと、鼻歌交じりに夕飯の準備を行うのだった。
月曜日。
鈴は球技大会以来の登校を果たした。一週間も休んだわけではないのだが、それでも久しぶりに感じる学校の空気はなんだか新鮮で心が躍る。更に驚いたことに、休む前まであった和真のウワサ話を聞くことがなくなっていた。
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