第六音⑧
それからしばらくして、鈴のスマートフォンに迎えの連絡が入った。その頃になると鈴の身体も大分思うように動かせることができ、支えがなくても歩けるようになっていた。一時的な回復ではあったが、それでもカノンたちの手を煩わせずに済むのは嬉しいことだった。
「カノン、平野くんのこと、待ってなくてもいいの?」
「大和? んー、そのうち追いついてくるでしょ」
大和を除く四人は鈴の親が待っている校門前へと向かう。鈴のスクールバッグはというと、和真が持っている。和真は初めて対面する鈴の親に緊張を隠せない様子だ。心なしかその表情は硬い。
そうして校門が見えてきた頃、校舎から木村が駆け寄ってきた。
「ゆっくり歩いてこい」
木村はそう声をかけてから、鈴たちを追い抜いて校門前へと走り去った。校門前では鈴の母親が校舎の中を見ながら鈴の帰りを待っている。木村はそんな母親の元へと行くと、すぐに頭を下げた。
和真たちはそんな木村の様子を見ながら、鈴に歩調を合わせて歩いて行く。
「お帰り、鈴。あんた、大変だったね」
「お母さん……」
「話は帰りながら聞くから、とりあえず乗りなさい」
「あ、あの……!」
鈴が車に乗せられそうになったその時、和真が声を上げた。その場にいた全員の視線が和真に向く。和真はその視線を全身に受けながら鈴の母親の方を真っ直ぐに見た。
「俺、小林和真って言います。先週末から、鈴さんとお付き合いさせて貰ってます」
「え?」
母親が驚いた声を上げた。そんな母親へ、和真は更に続ける。
「それで、今回はその、俺が至らなかったばかりに鈴に怪我をさせてしまい、すみませんでした」
和真はそう言うと、深々と頭を下げた。それを見ていた母親は一瞬目を丸くしたが、すぐに穏やかな表情になると、
「和真くん、だったかしら? 顔を上げてちょうだい」
和真はその声に顔を上げる。
「鈴のこと、大事に思ってくれて、謝罪までしてくれて、ありがとう。今度ウチに、遊びにいらっしゃい」
母親はそう言うと、にっこりと笑った。和真はその言葉に、はい、と小さく返す。
「さぁさぁ、お前ら。けが人の身体に障る」
木村の言葉に和真が車の中に鈴の荷物を置く。
「またね、鈴!」
「鈴ちゃん、お大事にね」
「二人とも、ありがとう! 和真くん、またね」
鈴はカノンと琴音に返すと、和真に笑顔を向けた。和真はその笑顔に少し顔を赤らめたものの、小さく頷くと車から離れた。鈴の母親はそれを確認してから運転席に乗り込み、そのまま車を発進させる。
和真たちは走り去っていく車を見送り、
「さぁ、お前たちも帰れ」
そういう木村の言葉に、琴音と和真が駅に向かう。カノンは校門前で大和が出てくるのを待つのだった。
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