第9話 反論


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 それからまもなく、教授は「講義にいかねばならないのでね、失礼するよ」と言って出ていってしまった。

 俺たちは仕方なく研究室から出るが、正直に言って、知りたいことが分かったとは言いがたい。

 わけの分からなかったことが、さらにわけが分からなくなっただけじゃないか。

 なぜ、俺なのか?

 知りたいのは、それだ。

「……五条」

「なんだ?」

「俺に、そんなわけのわかんねー力なんてないからな」

「……」

 まっすぐ俺を見てくる五条に、俺はひるみそうになる。

「嘘ついてるように見えんのか?」

「……いや。だが、覚醒していないからこそ、本人が無自覚である可能性は否定できない」

「だからそんなのは――」

「昨日、中庭に襲撃者と教授の二人以外に天使の力が使われたことは事実だ。それは私も把握している」

「それは――」

 脳裏に、俺を殺そうとしてきていた枝が、ついさっきの硬貨と同じように淡い光となって消えていく光景が浮かび上がる。

「天使の人数は少ない。だからこそ、覚醒における事例もまた多くはない。だが、その多くはやはり、自らの死に直面したときに覚醒している」

「……」

「だから、徹なの?」

 美嘉の問いに、五条はうなずく。

「可能性は高い」

「なにが可能性だよ」

 そんなあいまいな理由だけで俺を監視するとか言ってやがるのか。

「山崎、お前もいつもと違うなにかを感じたんじゃないのか」

 皮膚の表面、肌の上を静電気がチリチリとはい回る感覚を思い出して、俺はびくりとする。

「と、徹?」

 美嘉の声が震えている。

「私――」

「俺は俺だよ」

 不安そうな美嘉に、俺はそう言って美嘉の手を握る。

「その天使とかいう力なんて知らねーけどな。どうせこいつらの早とちりだろ」

「……う、うん」

「早とちりかどうかは、すぐに分かる」

「だろうよ」

「教授の話が本当なら、明日、山崎は災害規模の被害をもたらしかねな――」

 またそんなわけのわかんねー話を、と怒鳴ろうとした。なんなら、殴ってやろうかとも。

 勝手に人をよくわからん超能力者扱いして、さらには未来の災害の元凶ときたもんだ。怒らない方がどうかしている。

 しかし、突如響きわたった轟音に、気勢が削がれる。

 一度……そして二度。二度目は、俺たちの立っている場所さえも少し揺れた。

 俺たち三人は、一瞬の沈黙ののち、そろって音のした方を向く。

 なにか巨大な塊がぶつかって、砕け散るみたいな音。……まるで建物が破壊されでもしたような、そんな音だった。

「あれは、高校の方か……?」

 視線の先には、グラウンドを挟んだ反対側にある建物がある。神稜大学附属神稜高等学校の校舎。そのコンクリート打放しの建物の背後から、土ぼこりが舞い上がっている。

「まさか。珪介、燐……っ!」

 五条は青い顔をそうつぶやいたかと思うと、轟音の響いた高校の方へと走りだす。

「お、おい。五条!」

 話は終わってなかったが、向こうの光景に気をとられた五条は、俺たちのことなんて無視して行ってしまう。

「……くそっ」

「徹! ちょっと待ってよ」

「あいつに言ってくれよ!」

 そう言い合いながら、俺と美嘉は五条を追って、高校の方へと向かった。


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