缶詰め隊っ!
姉御系の缶詰め隊の企画責任者、タラバさんは、僕の隣にヤンキー座りで座ってきた。
「カキナ、よく聞いてな。作戦は明後日の夕方、サバ缶詰め合わせ工場の裏で決行する。イチジク団は次のターゲットを、この工場に決めたらしいからな。話を聞いた限り、放課後に破壊を始めるらしい」
「あ、あの……僕まだ協力するとは言ってないんですが……」
「黙りな。アタシの言うことは絶対だ。作戦を無視するんなら、あんたのその可愛らしい鼻にカニの足ぶっ込むぞ」
──手でも足でも、鼻に入れられるのはどっちでも嫌だわ……。もうNoって言えないじゃん……。
「それで、あんたにはこれを着てもらう。副隊長、アレを」
「おいタラバ、俺はテメェより階級は高ぇんだぞ。もっと敬え……んで、カキナはよぉ、これを着な」
副隊長のサバキさんはトランクケースからある物を取り出した。僕はそれを見た瞬間、密かに思っていた嫌な予感が的中した事に絶望した。
「これだ。ナース服だよ。ハロウィンのコスプレ衣装の残り物を調達したんだ。メイド服とか黒バニー服じゃなくてすまんな。これしかなかったんだよ」
「……まだナース服の方がマシですよ。けど、それでどういう作戦を取る気なんですか?」
「簡単な事だ。カキナは明後日、これを着て工場裏で待ち伏せてもらう。ここだけの話だが、イチジク団はナース萌えするタイプらしいから、飛びついてお前を攫うだろうな。その後は、あたいらが潰すからよ。な、簡単だろう?」
「そうそう! いざとなれば、その闇の力を使えばいいんだからさ!」
「ちょっと校長先生! 闇の力は禁句のはずでしたよね!?」
「……そんなの、とっくに知ってるが?」
──え? 何でオデン隊長が知ってるんだ?
「何惚けた顔してやがる、校長からとっくに伝えられてるわ。それに、イチジク団の心に火を付けた張本人、だって事もよぉ?」
「ご、ごごごごめんなさい!! 僕のせいでこんな事に……」
「……まあまあ、カキナには今回の囮になってもらうんだからさ、全部パーにしてあげてくださいよ、隊長」
「副隊長の言う通りだよ、隊長。カキナだって悪気はなかったんだし、これでカキナを攻めたら、あたい達が貫いている正義感を裏切る事になっちまうよ」
「……そうだな。悪ぃなカキナ。つい乱れちまった」
オデン隊長は僕の頭をガシッと鷲掴みした。だが、それは愛嬌のある手だった。
「これはな、カキナにしか出来ねぇ事なんだ。お前が性別上男だから頼める事なんだ。お前だって、本物の女にこんな危険な事は頼めねぇだろ?」
そんな場面、普通に過ごしてたら有り得ないけど、……確かにオデン隊長の言う通りなんだよな。
「それじゃあ、そろそろ俺らも準備を始めるますんで、モモミ校長、ここで失礼させてもらいます。……カキナ、絶対にしくじるんじゃねぇぞ、わかったか」
「が、頑張ります……」
「ばいばーい!!」
色々な方面から圧を掛けられて、僕は作戦に参加せざるを得なくなってしまったのだった。
※
2日後、ついにやって来た放課後。
いちご、びわ、ついでにメロくんに見られないように、工場裏でこのナース服に着替えた。なんだか悪い事してる気分……。
なんやかんや、女装したのってこれが初めてだな。めっちゃスースーする……。
「──カキナ」
「うわあっ!! お、オデン隊長、脅かさないでくださいよ!!」
「お前が勝手に驚いてるだけだろうが……よく似合ってんぜ、そのナース服。何か不思議な物に目覚めちまいそうだ」
「抑えてくださいオデン隊長。マジその先は危険ですので」
男でも突然男の娘に目覚める人がいるから、今のうちに阻止しないと。
「……そろそろ奴らが来る時間だ。配置に着け」
「で、でもサバキ副隊長やタラバさんはまだ来てないし……」
「ああ? そんな事気にしてんじゃねぇよ。お前は自分の任務にだけ集中しろ。そこら辺の責任は、俺にあるんだからよ。ほら、急げよ」
「……分かりました」
折角心配してあげたのに……まあ、僕は缶詰め隊の隊員じゃないから、いちいち首を突っ込む権利はないよね。
僕は今やるべき事を果たすべく、工場の前のシャッターで待機をし始めた。
すると、奥からチンピラのイチジク団の輩が歩いて来たのが目に入ってきた。
「さぁて、今回はここを襲撃かぁ。校長がまた悲しむだろうなぁ」
「ああ、もうそれを想像するだけで頭からうさ耳が生えてきそうだぜひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
うさ耳は生えてこないでしょいくらなんでも……。
「お、なんでこんな所にナースがいるんだ……わぁい!! ナースだナース!!」
「ナースちゃん! お名前なんていうの!?」
タラバさんの言う通り、イチジク団はナース萌えするタイプだった。どうやら、この前いも天ビームを打ってきた奴、とは思ってないらしい。
「工場破壊は一旦中止だ! この可愛いナースを連れて工場に入んぞ!!」
と雑魚A的な存在の人がそう言い出し、僕はお姫様抱っこされながら工場へ連れ去られた。
……本当に気持ち悪い。今すぐ顔面にいも天ビーム打ってやりたい。だが、そうしたら僕だって気づかれてしまう。
悔しい気持ちを押し込み、僕は極限女性っぽくなりすましたのだった。
※
工場内に連れてかれて、僕は柱に縄で括り付けられてしまった。お決まりって感じがするね。
「さて、団長が来るまで、俺たちで頂くとするか……どうする、まずは胸からか?」
「そうだな。おりゃっ! ……あら、どこにもない」
……あ、流石にバレたか?
「……貧乳か!! それもいい!!」
──この変態共が……後でしばいてやる。
「さて、今度は脇嗅いでもらおうかなぁ。俺の脇はドリアンより臭いぜぇ? ほら、行くぞ……」
え、流石に脇はムリムリムリ。ドリアンより臭いとか辞めてエロ同人誌展開じゃん辞めて辞めて……!!
「キャアアアアア!!」
「てめぇら!! 無垢な女にはなんて事してやがるんだぁ!!」
「あたいらがその汚ねぇ心を掃除してやりゃあ!!」
後ろの箱から出てきたのは、サバキ副隊長とタラバさんだった。サバキ副隊長はボウルに入った味噌、タラバさんは全長50cmはある大きな蟹一匹を片手に持っていた。
「な、なんだ!? ぐぉああ!!」
「お前の顔中、味噌で染めてやりゃあ!! 目も開けない位になぁ!!」
サバキ副隊長は団員の一人に泥パックならぬ、味噌パックをお見舞いした。味噌の絶妙な臭いが、団員の嗅覚を狂わせたに違いないだろう。
「おら喰らえ!! 北海道からやって来たうちの自慢のペット、道楽の怖さを味わせてやる!! 蟹ばさみ!!」
タラバさんは蟹を相手に近づけた。するとその蟹は別の団員の鼻目掛け、ハサミでガシッと挟んだ。
「痛たただただただただ!! 離せ離せ!!」
「そいつは無理だ。うちの道楽は反省するまでは離さない、特殊な蟹なんだよ」
うわぁ……俺も言う事聞かなかったらああなってたのか……いやでも俺は足突っ込まれるって言われたし……それも痛そうだわ……。
「わかりましたわかりました!! 反省しますんで話して下さい!!」
「よし、離せ道楽。モブ、出番だ」
ペットの道楽が鼻を離すと同時に、缶詰め隊のモブがイチジク団の隊員を縄で縛り付けた。
その後もどんどんと団員を倒していき、最後の一人まで縛り付ける事が出来た。
「カキナ、よく耐えたな。偉いぞ」
「あ、ありがとうございます、タラバさん」
「俺には礼はねぇのかよ、カキナ?」
「もちろんありますよ、ありがとうございました、サバキ副隊長」
二人で協力して縄を解いてもらい、僕は体が自由になった。
「カキナ、お前の演技、大した物だったぜ」
「た、隊長!! 遅いですよもう!!」
「……ああ、遅かったな。だがよ、これも想定内だからよ。……そろそろ出てきてもいいんじゃねぇのか、団長さんよぉ?」
隊長が声を向けた先には、グサランをかけ、服もボロッボロな、イチジク団の団長らしき人がきいた。
「……そうだな。缶詰め隊よ、我が団員をこんな目に合わせやがって。仲間の仇と合わせて、決着、着けようぜ」
「ああ、望む所だよ。サバキ、タラバ、モブ軍団、そしてカキナ。お前らは残りの団員を見張ってろ」
「「「ハッッ!!」」」
「……っしゃあ!! 行くぜぇっ!!」
ついに始まった最終決戦。オデン隊長は勝てるのか?
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