いも天ビームとチェーンソーっ!
五月の下旬、雨が降りそうな降らなそうな微妙な季節。
そんな事は全く関係なく、流れ星高校への登校中、僕は昨日の事を思い出していた。
僕と同じ闇の力の能力を持ったメロくん。暇つぶしに天ぷらを揚げるやべーやつ。最初は関わりたくはないと思っていたけど、関わらなくちゃいけない存在になってしまった。
僕に眠ったこの力。その謎をメロくんと一緒に解いていこう。とギャグ小説らしくないセリフを言いつつ、目の前に見えたいちごに挨拶した。
「あ、カキナおはよう! 今日は私遅刻してないよね?」
「うん、まだ時間に余裕はあるね。……でさ、なんで片手にごぼう持ってんの?」
「さっきコンビニで買ってきたんだ!ごぼうって映えるじゃん? これをイ○スタに上げればいいねがいーっぱい来て、カンストされるよ!」
カンストどころか、1カウントすらされないと思うけど……。このキラキラした目の輝きを失いたくないし、言わないでおこう。
「それでさ、闇の力はどうなったの?」
「ああ、それがさ……」
(解説中)
「い、いも天ビーム!? ギャハハハハ!! 何それめっちゃセンスいいじゃーん!!」
「やめてよ恥ずかしいな……とにかく、今話した事は他の人には絶対に言っちゃダメだからね?」
「……言わないよ。だって、昔からの仲じゃない。私はカキナが好きだもん」
やめろって! そういう路線に持っていっちゃ駄目だって! ギャグ小説にしたいんだから!
「……? 何か私、変な事言った?」
「いいや、別に……」
……もう少し、そう軽く好きとか言うのやめて欲しいかな……。
※
あっという間に放課後。今日も肩こりが酷いです。
「カキナ。さっきメロさんから、かわいい子ちゃんを連れてきてと言われましたわ。だから、早く2組に行きましょう」
「わかった。いちごも来る?」
「今日は私ね、新作のコンビニスイーツ買ってイ○スタでレビューするから、二人で行ってて!」
「いちごはブレないなぁ……よし、荷物まとめたし、びわ、行こっか」
「はぁい、ではいちご、また明日ですわ」
「うん! また明日ねー!」
いちごに手を振り、俺らは廊下に出た。
「……ねえ、びわ。なんで闇の力の事、信じてくれるの?」
「……決まってますわ。闇の力なんて大した事ないからですわ。私のチェーンソーを操る力の方が、闇の力よりも強い自信はありますから」
「……ほう。随分と強気じゃないか、びわさん?」
二組の教室から聞こえてきた声の主は、足を組んで王様椅子に座っているメロくんだった。どこからそんなの持ってきたんだ……?
「……っ! 聞いてましたの!?」
「聞こえないように話していれば良かったのにねぇ。そんなに自信があるなら、表に出て僕と勝負してみるかい?」
「の、望むところですわ! カキナ、着いてきてらっしゃい!」
……今度はバトル展開? だからこれはギャグ小説だっつーのに……。
「……さあ、カキナくんも僕達の戦いを、そして、闇の力の強力さを、その目に焼き付けておくといいよ」
僕はその言葉に、思わず固唾を呑んだ。闇の力の強力さ……一体、どれ程なんだろうか。
※
びわに案内された場所は、ソシャゲ周回用の小屋の裏だった。最低限のボケはここで補わなくちゃ……。
長いびわの髪が、風で乱れる。辺りに生えている草や木々も音を響かせる。
「……君がここで死んでしまっては、今後のボクの人生にも影響が出るだろう。だから、ルールはこうしよう」
メロくんはポケットに手を突っ込み、何か小さい物を取り出し、びわに向かって投げた。
そして、ピッ○ロから仙豆を受け取るように、力強いSEが出そうな勢いで、びわはキャッチした。
「これは……服のボタン?」
「たまたま二つ、前通っていた学校のやつが入ってたんだ。それを胸ポケットに入れて、先に割った方が、今回の勝者という事で」
「ふん、いいですわ。さあ、いつでもかかってらっしゃい!!」
びわはスタータグリップを上下に引き、チェーンソーのエンジンを起動させた。
「そうかい? じゃあ、こっちから行かせてもらうよ」
メロくんは闇の力を最大限に引き出す為、目を閉じ、じっと静止させた。
確か、闇の力は怒りの沸点に達した時、最大限にその力を発揮出来るんだったような。……これはルーティンなのか?
「……甦れ、我が漆黒の力よ。そして、我が真紅なる#blood__血__#を黒く染めるのだ。行け!! いも天ビーー厶っ!!」
最後ので台無しだよ……やっぱりやめときゃ良かった……。
「……こんなの、学園都市56位の私が絶望する程の力じゃありませんわ。その黒く染まった血を、デスソースよりも赤くなるように、そのいも天ビームとか言うダサダサビームを切り刻んでやりますわ!」
学園都市とかそういう概念ないから! てか微妙な順位!
「はあっ! クリムゾン・チェーンっ!!」
びわが繰り出したのは「クリムゾン・チェーン」。一度使っている事を見たことはあるが、その能力は、光を二つに切ってしまう程の切れ味を持つことが出来るのだ。
そして、今回のいも天ビームも、チェーンソーを縦に持ち、刃に当たったいも天ビームを二つに分裂させた。
「……どうです? 我が#方桑__ほうくわ__#家に伝わる「クリムゾン・チェーン」は?」
「君が強気になる理由が分かった気がするよ。だが、胸ポケットに入っているボタンを見てごらん?」
「何を言ってるのですか、まだ勝負は着いてないです……えっ!?」
びわの手には、煙を立て、何分割にも割れたボタンが散らばっていた。
「あれは8割の力で生み出したいも天ビーム。だけど、裏で残りの2割の力で、目には見えない、透明いも天ビームを出していたのさ」
「な、なんですって!? ……なーんて、そんな事は分かっていましたわ。それより、あなたこそ胸ポケットに手を突っ込んでは?」
「何を、偶然で割れてるとでも思っているの? そんな馬鹿な話ある訳が……な、なにっ!?」
メロくんの手には、綺麗に真っ二つに別れたボタンが置かれていた。
「あなたのいも天ビームを二つに裂かせる前、上に向かって一振りしたのを覚えてらっしゃる? その時、あなたに向かって#見えない__・__#波動を作り、胸ポケットに目掛けて放ったのですわ」
「ぐっ……ボクとした事が……だが、ジャッジするのはカキナくんじゃないか! さあ、どっちが勝ったんだい!?」
突然僕に振られても……いも天ビームに気を取られすぎてまともに見てられなかったよ……。
まぁ、勝負の結果は適当に……。
「引き分け。見えないいも天ビームと見えない波動でボタンを壊したんじゃあ、僕もジャッジ出来ないよ。だから、この勝負は引き分けって事で」
「……確かに、異論はないですわ」
「そうだね。大人しくカキナくんに従うよ」
よかった、何とか収束されて……。でも、ギャグバトル小説も、結構良いかも……。
「ていうか、メロくんは僕を呼び出しただんじゃなかったの? 一体なんの用さ?」
「ああ、そうだったね。……キミはこれから、ボクとどう関わっていきたい? 闇の力を駆使して、#僕のように、より強い力を手に入れてみたい__・__#?」
……え?
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