漆黒に染まる力っ!

突然の出来事だった。



「今日から隣の一年二組に、転校生がやって来る事になった。廊下等ですれ違った場合、みんな仲良くしてあげるようにー」



担任の先生が朝のHRで、こんな事を言ったのだ。


……こんな校則もちゃんとなってない、アホみたいな高校に入ってくるなんて、どんな精神なんだ? まあ、僕にとっては他人事だけど……。



「ねぇカキナ、HR終わったら一緒に隣のクラスに行こーよー! ブレンドコーヒーをあげて、女子力高いアピールを見せてあげるんだから!」



いちごはそういう事に敏感なんだから……。



「僕はパス…… びわと一緒に行ってきなよ……」


「えー、ノリわっっっっる!!」



そんなに溜めて言わなくても……。でも、無理に仲良くしなくてもいいじゃん。僕はそう思うから、この件に関してはいいや……。





三時間目は、2組と合同授業…… じゃなくて合同作業。昨日のラムネ菓子の袋詰めの続きだ。この仕事、僕らじゃなくて職に困ってる人に回せばいいのに……。



「えーカキナちゃんは、B列の6番目に配置だ。早速作業に取り掛かるべし」


「だから先生! ちゃん付けやめてくださいってば! もう……あれ、見かけない人だな……」



僕の隣の七番席にいたのは、なんかプリンス系というか、少女漫画に出てくる先輩系というか、なんかそういう雰囲気の青年だった。少なくとも異世界転生顔ではない。



「やあ、ボクは今日からこの学校に通う事になった、#魚唄__うおうた__#メロ。ヨロシクね」


「は、はぁ……カキナです、よろしく……」



メロくんが手を差し出してきたので、僕もその手を掴み、つよーく力を込め握手した。



「……闇の力を感じる。うんうん、これをボクは求めていたんだよ」


「……え? 闇の力って……知ってるの!?」


「そうさ、僕がここに転校してきた理由。それは#闇の力を持ったキミに会うため__・__#だからね」



頭が真っ白になった。闇の力を認知している人なんて、今まで誰もいなかったからだ。


──てかこれってさ、出会って早々話す事じゃなくない? 大体10話くらい経ったら「実は俺、こういう目的だったのさ!」的な事言うんじゃないの?



「ああ、驚かせちゃったね。大丈夫、他の子には言うつもりはないからさ」


「ぜっっったいに言わないでください!! ただえさえおかしい日常がもっとおかしくなりますから!!」


「わかってるって……あと、もうボクらは秘密を持った関係なんだからさ、敬語はやめようよ、ね?」



メロくんは僕の顎に手を当て、クイッと上にあげた。あ、顎クイしてくるとか……BL小説じゃないんだから……。ら



「おい6番、7番! 真面目にやれ!」


「名前で呼んでください先生! 受刑者じゃないんですから!」



──モヤモヤした気持ちが残ったまま、またラムネ菓子を袋に詰めていくのだった。……あ、不良品……。





放課後。



「カキナー! 今日は焼肉屋行って、一人焼肉アピールしたいから、一緒に行こー!」


「それ一人焼肉じゃないじゃん……いちご、今日は用事があって行けないんだ……ごめん……」


「あら、闇の力の事ですの?」


「うん……って、なんでびわその事知ってるの!?」


「何をおっしゃっているのですか? 偶にあなたがその闇の力を解放しているのを見ますわよ。家で」



びわがスマホを俺の目の前に差し出してきた。画面には僕の部屋が映し出されていた。



「私、本当にカキナが男の子なのか確かめたくて、この前お邪魔させて貰った時に、設置させて頂きましたの。もちろん親には了承済みですわ」


「普通に盗撮だよ! 僕のプライバシー全くないじゃない! ていうか男だよ!」


「じゃあ、(コンプラ)見せてもらえます? それなら一目瞭然ですわ」


「やだ! プライバシーだっつってんだろ! ていうか約束に遅れるからもう行くね!」



僕は二人を教室に残し、工場の裏の待ち合わせ場所へと急いだ。


……てか、普通に闇の力とか信じてくれるんだ。まあ、この学校じゃあそんな事どうって事ないよな……。





工場裏に着くと、青じその天ぷらを揚げているメロくんの姿があった。



「やあ、随分と遅かったじゃないか。時間は待ってくれないんだよ? お、そろそろ出来たかな?」


「暇潰しに天ぷら揚げるの……? 」


「昔からの趣味なんだ。さて、君が闇の力を使えるようになった頃の話をして貰おうか」



用意された椅子に座ると、差し出された青じその天ぷらを膝に置かれた。しょうゆ欲しい……。



「…… 簡単な事しか話せませんよ。確か僕が中学二年生の頃だったかな。とあるマンガ読んでて、そのキャラが漆黒魔法を使っていて、僕も真似してやってみたら……出来ちゃったんです、僕も……」


「なるほど。確かによくあるケースだね。実は闇の力を使えるようになった人の特徴として、そういう厨二病的な物を脳に刺激させ、闇の力を解放する、という事例があるんだ」



──なんだよ、中学生の黒歴史ノートみたいじゃん……恥ずかしい……。



「そして、ボクも同じく闇の力を持っているのさ。この力を運命と感じ、ネットでその闇の力を集めた集会を作ったんだ。名付けて「エイトダークパワー」さ」


「改名考えて! めっちゃ痛いから! せめて「闇の力連盟」とかにしてよ!!」


「それダサくない?」


「君よりはマシだよ!!」



……変な人しかいないんだな、この能力持った人って……。



「そして、僕らエイトダークパワーはとある技を使える。怒りの沸点に達すると、脳から闇の力を分泌させ、それを手に集中させる事で、漆黒の手を生み出すことか出来るのだ。相手に放つと、光を飲み込むビームを撃てる。この技、実は名前がないんだ。よかったら、カキナが付けてくれないかな?」



この作者は、人に名付けてもらうシチュが好きだからね。なろうでそういうの書いてるのよ。


で、名前か…… ふと目に入ったのは、メロくんがさっき揚げたばかりのいも天。サクサクした感触と柔らかい芋の感触がたまらない事で有名。



「……いも天ビーム」


「よし、いも天ビームだね! 掲示板にみんなに言ってみるね!」



しまった! つい美味しそうだから口に出しちゃった!!



「うんうん。 みんないい名前だって言ってるよ」



メロくんのスマホには、ネット掲示板の人達の書き込みが書いてあった。



「──もういいんじゃない、いも天ビームで……」



僕は諦めを感じ、漆黒には似合わない「いも天ビーム」という名前に命名したのでありましたとさ。

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