メインストリート、雪 (短文詩作)
春嵐
メインストリート、雪
何事もなく、穏やかな1日。その最後の、帰り道。こういう日が続けば続くほど、なにか、心が錆びついていくような感じになる。
何もない。
わたしの日々には。何も。こんなことがありましたとか、こんな人間ですとか、そういうものが。なにひとつ存在しない。どこまでいっても、普通が続くだけ。この道と同じ。ただまっすぐなだけで。普通がずっと。これからも。
いやになりそう。
「そんなに真っ直ぐな道がきらいか?」
彼。
「仕事終わり?」
「うん。俺のおかげで今日も街は平和ですよ」
「何言ってるのよ」
「正義の味方ですから」
彼が笑う。
「このメインストリートだって、ほら、両脇にビルがあってさ、ネオンの灯りがあって、信号があって。色々あるじゃん。普通といっても、その普通を維持してる何かがあるんだよ」
「そんなものしらない」
「普通ってのが、いちばんだよ」
「あなたは普通じゃないもんね?」
「普通だよ。普通の正義の味方」
「その、正義の味方ってやつ。やめて」
「じゃあ、悪役でもいいよ」
「悪役もいやだ」
「じゃ、普通で」
彼が笑う。
いつも通り。
普通に、とりころされそうになると。彼が来て。笑いながらわたしの普通をぶっこわしてくれる。
「おっ。雪だ」
彼が隣にいるだけで、普通をきれいさっぱり拭い去った、わたしの街に。雪が降る。
メインストリート、雪 (短文詩作) 春嵐 @aiot3110
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