第17話

 小綺麗にされた家だった。

 ダイニングキッチンにある対面キッチンの先にはアンティーク調のテーブルセットが置かれ、リビングは五十インチの壁掛けテレビとソファが向かい側に置かれていた。

 置物も収納も置いておらず、スッキリしすぎているとも思えた。

 住人は潔癖ともいえる相当な綺麗好きなのだろう。

 ここの部屋には何もないと思い今度は二階を探索する為階段室へ向かう。


 そもそも僕は今何を探しているのだろう?

 手紙に記載された住所に来れば何かがあると思ったのだが、その何かが分からない。

 全く見当違いの捜索をしていることも充分あり得るのだ。

 今は、木村ユリナに繋がる何かを探すしかない。


 二階に上がると扉が四つあり、三つは個人の部屋、一つはトイレだった。

 開き戸を片っ端から開いて室内の状態を確認していく。

 ユリナっぽい部屋が見つかればそこを重点的に調べてみようと思った。

 僕の思うユリナの部屋のイメージはアイドルのポスターが壁に何枚も貼られていたり友達とのプリクラ写真を学習机に置いていたり大きな人形が置かれていたりと、そんなイメージだ。

 一つ目の扉を開けた時は空振りだった。

 大きなデスクトップパソコンが机に置かれ、本棚には難しそうな本が並べられている。

 開いたウォークインクローゼットには瓶のお酒が沢山並べられていた。

 恐らくは父親の部屋だろう。


 二つ目の部屋の扉を開けるとふわっとした甘い香りが鼻孔をくすぐった。

 化粧台に置かれたフレグランスから漂ってきた匂いだろう。

 机の上にはオレンジ色の花と木製の写真立てが置かれている。

 清潔感のある真っ白なクロスが天井と壁に貼られ、電気のスイッチを入れるとシーリングライトが白い光を放ち始めた。

 模様の入った出窓にはバルーンシェードがフリフリのスカートの様に窓の半分まで上がっていて、左右の房掛けにはドレープカーテンが収められていた。

 綿あめのようにふわふわで寝心地の良さそうなベッドがあり、ベッドの下にはピンク色の絨毯が敷かれていた。

 本棚には小説や漫画やDVDがそれぞれ並べられており、それらの共通点はジャンルが恋愛ものに限るというところだ。

 若い女性の部屋であることは間違いなさそうだが、これがあのユリナの部屋なのかと言われれば微妙な所だった。

 化粧台の引き出しを開けると美容関係の道具が入っており、最近の女子は小学生の内に化粧も覚えてしまうのだろうかと疑問に思ったが、ユリナは顔にコーティングを施すより陽の出た外を走り回って不純物を排出していくアクティブな子だから違うと思った。

 お母さんにしては若すぎる部屋だし、ユリナにしては大人っぽい。

 もしかしたら彼女にはお姉さんがいてその人の部屋なのかもしれないなと勝手に想像した。


 ここも違う、と部屋を後にしようとした時、化粧台に置かれた一枚の写真に目がとまった。

 長くきめ細かな黒髪が背中に隠れ、ぱっちりとした目に華やかな笑みを浮かべる女性がこちらを見て映っていた。

 写真越しでも上品そうな女性だなと感じたが、その目はユリナとそっくりだった。

 特に白い歯を出して屈託のなく笑う表情が、彼女そのものだった。


 この写真に写っていたのがユリナのお姉さんらしき女性だけだったなら何とも思わなかっただろう。

 僕は視線を逸らして次の部屋に向かっていたと思う。


 問題は女性の隣に映っていたもう一人の人物にあった。

 トップは横流しにされ側頭部は刈り上げられた髪、奥二重の目、カサカサに乾燥した薄い唇。


 そこで満面の笑みを浮かべる男性、落ちぶれた今では別人のように思えるが、それは紛れもない僕自身だった。

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