8話 クソメディアたち
(……にしてもヒドイな……)
あまりにクソ過ぎるワイドショーに怒りが抑えきれず、思わずテレビの電源を切った。
しばらく経って冷静になってから振り返ってもヒドイ内容だった。
まず一つ目は『週刊門川』の記事が疑う余地のない事実であるかのような前提で、番組が構成されていたという点だ。
テレビ番組というそれなりに視聴者も多く、老人たちを中心に影響力も未だにそれなりに強い(若者たちは流石にあんなもの目に入らないだろう)メディアで、たかが一ゴシップ週刊誌の報道がさも事実である前提に立って番組を構成するなんて、普通の神経では出来ないことだ。
メディアというものの責任の大きさを考えれば、どの程度報道が事実なのか、事実だとしてそれをテレビで取り上げることで各方面への影響の大きさはどれほどのものなのか……流石にもうちょっと慎重になるのが普通だろう。
あれじゃあまるで井戸端会議だ。
「怖いわねぇ~!」と言って、自分たちが安全圏にいることを確認しながら、流れてきた噂を面白おかしく共有するおばちゃんたちの井戸端会議だ。
まあ逆に言えばそういった井戸端会議的なレベルだから、あの番組は視聴者にウケているのだろう。
視聴者層に近い……視聴者に内容のレベル合わせていると思っているうちに、番組制作側の人間の頭脳自体が本当に劣化しているのでなければ良いが……のがワイドショーに求められる特色だということだ。
同番組は平日毎日2時間近く放送されている。
当然製作側も番組内容を綿密に検討するような時間的余裕はないだろう。週刊誌の内容をそのまま出して、コメンテーターに適当に感想を言わせる(もちろんそこに彼ら自身の主体的な意志などはない。ただただ彼らも番組の空気を読んで、表情を作り、それに沿ったコメントをしているだけだ)だけの構成になってしまうのだろう。
そして恐らくこれは番組の保険でもあるのだ。
万が一、後になって「週刊誌が間違っていたのではないか?」という意見が優勢になったとしても、番組としては「いやウチはあくまで週刊門川さんの記事をそのまま紹介しただけですので! 内容が事実だという前提に立ってウチの番組で扱ったわけではなく、あくまでこういった報道がありましたと紹介しただけですので!」と逃げを打つことも出来る。
あれだけコメンテーターも司会者も、記事が事実だという前提に立ったうえでコメントをしておいて「ウチはあくまで記事を紹介しただけですから、その真偽はウチの責任ではありませんので!」なんていう姿勢が通用するとは常識的には思えないのだが……なぜかワイドショーというものはそういうものだと、皆が受け入れてしまっている。
そして何より問題とされるべきは、コメンテーターと司会者のコメントがあまりに的外れであることだ。
アイドル文化に対する理解がまるでないということだ。
最後の「滝本さんももう一生分儲けたでしょうから、P活などをしないで済むようメンバーに還元してあげて下さい!」という冗談がそもそも現状のアイドル文化に対する凄まじい無理解を証明している。
つまり実質的な運営権はすでにレコード会社の幹部スタッフが握っていることは、オタクたちの間では常識なのだ。
そして「国民的アイドルでありながら普通のOL程度の給料という薄給のためにP活組織に出入りせざるを得なかった」というような論理が展開されていたが、これもまた大きく的外れだ。
「普通のOL程度の給料」というのは恐らくある程度事実だ。もちろんタレントとしての人気が高いメンバーはCMや個人の仕事も多く、給料もそれを上回るだろうが、そこまで人気だったわけでもない鹿島真子の給料は恐らくその程度だろう。
だが幸か不幸かアイドルとしてこれは比較的ホワイトな待遇なのだ。もっと酷いグループの話は山ほど聞く。
薄給ゆえにP活をしなければならないのなら、大半のアイドルがP活女子になってしまうではないか!
そしてこれが番組が愚かで的外れであることの最たる証拠なのだが、番組は当の鹿島真子という人間に1ミリも触れていなかったという点だ!
『みなさか』での真子の活動を多少なりとも見てきたオタクならば、報道が如何に馬鹿げたものであるかは同意してくれるだろう。アイドルとしていつも誠実に活動し続けた真子にそんな後ろ暗さはまるで似合わない。
鹿島真子の人柄を知っている人間が、どれほどこの週刊門川の報道を鼻で笑い、腹を立てているのか……そうした情報に触れもしないなんて、中立が建前であるはずの報道機関としてまるで失格だ。
そしてコメンテーターも司会者も軽薄短慮なコメントをすることによって、芸能界を代表したコメントとして視聴者に捉えられかねないというリスクにあまりに無自覚だった。自らが芸能界の一員であるにも関わらずだ。
あるいは彼らこそ、本当にそうした後ろ暗い組織の恩恵に与っているとでもいうのだろうか?
何もかもがあまりに馬鹿馬鹿しかった。
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