のこされし子供達 田篠吾郎の勘違い

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 俺の名前は田篠吾郎。

 漫画やゲームが好きだ。

 ネットサーフィンなんかも良くする。

 ちょっと厨二にかぶれているが、これぐらい許容範囲だよな?


 そんな俺には妹がいる。

 田篠由香。

 容量が悪くて、おっちょこちょいで、甘え上手で、俺が面倒みてやらなくちゃって思うような妹。


 俺はもう、その妹の事をすんごい溺愛していた。


 できれば、お嫁さんにもらいたいくらいだ!


 でも、悲しい事に兄と妹じゃ結婚できないんだよなぁ。


 がっくり。


 でも、それならそれで仕方ない。


 俺は妹に幸せな人生を送ってもらうために、頑張るのみだ。







「えーっ、おほんっ。ゆーか、彼氏を作る時は、まずお兄ちゃんに相談するんだぞ。お兄ちゃんより弱いやつは許さんからな!」


 ある日、将来のことについて話をしていると、妹が理想の彼氏なるものを教えてくれたので、俺は忠告してやったのだ。


「お兄ちゃん、何言ってるの? そんなの私の自由でしょ?」


 だが、妹は不満げな顔。


 たっ、確かに。


 心配が大きすぎるあまり、ちょっとあれだったか。


 でも、妹をください、なんていう空想の野郎の顔を思い浮かべたら、今にも脳内で殴り殺しそうになったんだよ。


 いかんいかん。


「お兄ちゃん、私に彼氏ができても、変な事言わないでよね!」


 ふくれっ面になる妹も可愛いが、これはちょっとまずいかもな。


「すっ、すまん。代わりに美味しい者おごってやるから」

「えっ、ほんと?」


 俺は妹のご機嫌取りをするために、大好きなアイスをおごってやることにした。


 妹は単純だからな。


 これで、すぐに機嫌を直してくれるはずだ。


 実際。


「わーい、ありがとうお兄ちゃん。やったぁ。えへへっ」


 コンビニで買ってきたアイス一つででこんな具合だ。


 現金なやつめ。


 でも、その笑顔が可愛いから幸せ。


 アイスにぱくついている妹を眺めながら、俺は物思いに沈んでいった。


 もし、本当に妹に彼氏ができたら、俺はそいつに最愛の人を託せるのだろうか。








 なんて、考え事をしていたら、それがフラグになってしまったのか。


 後日妹は、たっくんなるものを連れてきた。


 たっくん?


 誰だよ、それ。


 そんな奴に一言で教えてやる。


 彼氏だよ。


 くそぉぉぉぉ!


「お兄ちゃん、私、たっくんと付き合う事にしたからねっ。たっくんは良い人だから、意地悪しちゃだめだよっ!」

「のおおおおおおおおおお!」


 no!


 俺はその場で崩れ落ち、絶望に打ちひしがれた。


 あんなにも可愛い妹が、将来この家を出て、人の妻になる。


 そして、俺の知らない時間を過ごし、新しい家庭を気づいて、幸せになっちゃうのだという現実を突きつけられて、ショック死しそうだった。


 もしかして、俺は妹の事が本気で好きだったのか?


 そう錯覚してしまうほどに。


 でも、俺のわがままで、妹の幸せを邪魔する事はできない。


 俺は涙をのんで、妹とたっくんとやらの付き合いを祝福してあげた。


「おっ、おべでどうっ!」

「お兄ちゃん。涙めちゃくちゃ出てるよ」






 これで、そのたっくんとやらが、ただの普通の人間か、いい奴だったらよかった。


 でも、そうはいかなかたらしい。


 心配性だった俺は、たっくんとやらがどんな人間なのか調査する事にしたのだ。


 妹がくれた顔写真を見せながら、地道に聞き込みだ!


 そしたら、出るわ出るわ。


 不良の冒険譚が山ほど出るわ。


 あいつは、今は大人しいが、昔は相当なやんちゃをしていたらしい。


 窃盗や暴行事件を何度も起こしていた。


 結果、俺は別れさせることにした。


 だってあいつは、妹にふさわしくない。


 悪い影響が及んで、妹がグレたら、どうしてくれるというのだ。


 だから俺はたっくんとやらを呼び出した。


「由香と、俺の妹と別れてくれ! いや、別れろ! お前なんかと付き合っていると、妹が迷惑するんだ」

「はぁ、何いってんだよてめぇ。俺達の関係に口出ししてんじゃねーよ」


 実際に会ったたっくんはマジ、不良だった。


 どうして妹は、こんな奴と付き合おうとしたのか不思議なくらいに。


 妹は、とてもいい奴だっていってたけど、いい要素が微塵も感じられない。


 おかしいな。


「これだから、兄ってやつは嫌いなんだ。善人ぶって、自分の物差しをおしつけやがって、てめぇらみたいな人間がいるから俺はっ」


 別れないと、許さないからな、って連呼していたら。

 不良はいきなりキレて、俺を殴りはじめた。


 やばい、威力が洒落にならない。

 ふらついてきた。


「兄貴だって、しょせんはお前だって同じ人間なんだ。周りの人間だってそうだ、どうせ俺は、同じ顔しているくせに、できそこないなんだよっ!」


 そして、気が付いた時には、頭を殴られていた。


 俺はばたりと倒れてしまう。


 意識が遠のいていく。


 かすむ視界の中で、不良がナイフを取り出すのが見えた。


「どうせ、どんなに頑張っても報われないんだ。ならもう、終わりにしてやる全部!」


 次の瞬間、俺は激しい痛みに襲われた。







 お兄ちゃんが、通りすがりの不良に刺されて、怪我を負ったらしい。


 病院に運ばれて治療されたけれど、容体は不安定のようだ。


 私はたっくんと並んで、病院で待つしかない。


「たっくん、お兄ちゃん大丈夫かな?」

「きっと大丈夫さ。お兄さんの為に、一緒に祈ろう」


 私は、たっくんの手を握りしめて、必死に神様に祈った。


 たっくんは本当にいい人だ。


 そんなたっくんには双子の弟がいるけれど、まるで全然違う。


 この間だって、たっくんと間違えて声をかけたら、怒鳴られたし。


 どうしてそんな風なんだろう。


 ろくに学校にも登校しないで、お兄さんであるたっくんに心配させて。


 そういえば、お兄ちゃんに言うの忘れてたな。


 たっくんには、双子の弟がいるんだって事。


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のこされし子供達 田篠吾郎の勘違い 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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