第9話対峙する『もの』後編
バッシャーンと叩き付けるように、お手水を塚田さんがぶっかけた。
そして俺は結界の中へと三角剣を両手に持ち入っていった、女の子にまとわりつく『それ』を切り払っていく。
良い感じに弱っていく『それ』から女の子への纏わりついている部分が弱まるのを確認して、女の子を見る既にミイラの状態ではない、普通に寝間着姿へと戻っている。良しこれならばと思い、俺は彼女の胸ぐらを掴み結界の外へと思いっ切り突き飛ばす!
塚田さんが彼女を抱きとめる
「一応、御神酒かお手水飲ませてください!」
俺がそう言うと塚田さんは、彼女を車へと運んでいる。
彼が私の方に彼女を突き飛ばしてきた、それを抱き止める。病院で見たミイラの状態ではなく、普通の女の子の姿だ。
「一応、御神酒かお手水飲ませてください!」
彼がそう叫んだ、彼女を車へと運び荷物から御神酒とお手水を出す。ふと未成年飲酒になるかもと疑問を感じたが、今は緊急事態だそう思い、御神酒を口元に運び口の中へと少し流し込む。コクリと飲み込む音が聞こえた、そのままゆっくりと全て流し込む。そして彼女の全身がほのかに一瞬光った、胸に手を当てて見る鼓動がある。もう大丈夫だと思い、彼の方を向く。
そこには『呪い』に取り込まれていく彼の姿が見えた。依代を失った『呪い』が彼を新たな依代にしようというのだろうか。
「八神さん!!!」
そう叫ぶが彼は私に向け親指を立てていた。
「本当にきりがない!」
彼女を結界の外へと出した事で、狂ったように結界内で暴れている。俺は切り払い続けたが、俺の方も体力の疲れが見え始めた『これ』が放つ禍々しさに心も傷つく、三角剣も何面か割れている。
どうする?きっと『これ』は今依代を失っている、俺に取り憑こうとでも言うのだろうか。まぁ『これ』の気持ちなんて分からんし興味もない、だが『これ』は俺を取り込もうと大きく被さる様に一回り大きくなり頭上から、被さってきた。
その一瞬、身体の力を抜きそして思った、『これ』に感情や意思は有るのか?もともとこれはどちらかの女神の『呪い』と言う推測で有る、もし呑み込まれたら根源が解るかもと余計な事を閃いてしまう、もうそこまで来ている。
俺は決心し三角剣を降ろす、そして呑み込まれる瞬間塚田さんに向けて親指を立てた。
街が少しづつ動き始める、彼は『あれ』に呑み込まれた。そしてそのまま動きを止める、じっと見つめて見るが変化が無い。
市役所の職員が騒ぎに気付いたのか、何人かやって来る。もうそんな時間かと時計を見た8:45
彼等にも『これ』が見えているようだ腰を抜かしている職員もいる、私は
「この駐車場付近を閉鎖して下さい!後は野次馬が近付かないよう警察にも協力を!」
と指示を出す、直ぐ様電話を掛ける職員もいる。
「人が近寄らないように!」
まだ『これ』は存在している、『それ』を睨みつける後は彼次第な状況がもどかしい。
連絡を聞きつけたのか市長がやって来た
「やったのかね塚田君!おお茉希無事で!!」
そう言うと、私から彼女を引ったくる
「もう大丈夫だ、お前が無事で本当に良かった!」
「さあ早く孫を病院へ!」
随分とおめでたい市長である
「すみません、まだ終わっていませんお孫さんを病院へ運ぶのは早計です」
「何を言う孫はここにおる、綺麗な身体に戻っているではないか!」
「ですが!まだあそこで『呪い』が存在しているんです」
「そう言えば君が選んだ男が居ないな、死んだか?」
「いえ『そこ』に」
と指をさす
「使えない人間だったか、所詮は【生活保護受給者】のクズだったか、そんな事より孫を早く!」
「ッつ!?」
確かに彼は【生活保護受給者】だ私が選んだ。
私の所属部署は健康福祉課、生活保護受給者から選んだのだ別に死んでも家族以外気にする事が無いから。
あの日市長から告げられた言葉を思いだす
「どうせ生活保護受給者なんてものは減った方が良いだろう?『呪い』で死ぬなんて勤勉に働いている人間よりも良いだろう?」
「保護費を給料だと思って、精々働いて貰おうじゃないか。受給者を減らす事にもつながるかもな!」
今思い返してみれば内輪の話ではあるが、随分酷い話である。無論彼を選んだ私にも責任はある。
だが彼はここ迄事態を進めてくれ、私の呪いも解いてくれた、そして今もきっと何かをしているのだろう感謝しかない。
そんな彼に対して放たれた言葉に激しい怒りを感じる、基本的に職員として市民と会話をする時私は、確かに冷たい人間だったかもしれない。だがそれはあくまでも職員としてだったからだ。
いや今は、そんな事で言い争う場ではない。いつもの様に私は
「市長どの道、病院に運ぼうがどうしようが全て彼に掛かっています、彼が負ければ恐らくこれ迄のとは比べものにならない『呪い』が発生します」
「市長、貴方にその時の覚悟は出来ていますか?」
俺は闇の中にいた地面がない、どうやら『あれ』の腹の中と言ったところか。三角剣が光っている、これが俺を守ってくれてるのか?
不意に引き寄せられる、どうやらお待ちのようだ俺は引き寄せられるままにしていた。もうここまで来てしまったのだから、それにしても
「お前は恨んでいないのか裏切った人間を」
「お前は憎くないのかお前を利用してきた人間を」
「お前は裏切られ続けた信じていた人間を」
「お前は」
さっきからこれの繰り返しばかり聞こえてくる、いい加減ウザい俺は『それ』の方に対しての方の怒りが溜まっていた。
そして、『それ』である彼女と御対面となった。
どす黒い気の様なもので身体を覆っている
、彼女が語りかけてきた。
「お前は何故人間を憎まない?心の中では憎悪が溢れそうになっているではないか」
「私には分かるお前の無念さや恨み憎しみの心を…」
そこまで聞いて俺は、黒い気に向けて三角剣を振り下ろす。
「ぐがっ!?」
「ああそうさ俺は憎んでいるこの世を人を、でもな」
「そんな俺でも助けてくれる人がいる、呆れながらも笑って迎えてくれる人がいる、それで充分だ。そんな気持ちがひと欠片でもあれば別に何てことはない」
「だからあんたもそんな殻に閉じこもってないで出て来やがれ!」
『それ』を切り裂く、弱々しい光が放たれる。そこにはもう動かない彼女を抱き締めている彼女が居た。
「私達は元々二人で一つの存在だった」
語り出したが概ね聞いた話だ、別に何とも思わない。
「で?」
もう神様扱いするつもりは無い。
「えっ!?」
「だから呪ったんでしょ?」
「私の話を聞いてくれるの?」
「まず話し合いましょうか!」
まぁ神様の怒りを買った人間が居る、彼女は外の様子を見せてくれた。
「後はあの男の家族もろとも」
そう言うとまた黒い気が纏わりつき始めるので、三角剣で切り裂く
「ぐはっ!?」
「流石に今の男には俺も腹が立ちました、バッチリ話し声も聞こえましたから」
「でもねそんなのどうでもいいんだよ、今生きてるから俺は、確かに彼奴等の言うことも分かる。」
「俺は昔心を壊した、人を世を恨んで自殺しようとした、でもさ何でか分からないけど俺は助けられた不思議なもんだよな、絶対に見つからない所に居たはずなのに」
「俺は助けられた命を無駄にしたくない、それは助けてくれた両親や救ってくれた恩人がいるから、だから死ねない」
「あんたの恨みの深さは分からないけど、もうやめにしないか?」
「でも私達は、戦わされた!強制力によって!!こんなにも愛している彼女と!」
「人間が疎かにしたせいで!!神の座を用意されていれば彼女と何時まで見守り続けて行けたのに!」
「彼女が居なければ私は、神の座なんてどうでも良いだから蹴った!そこにいる人間や土地なんてどうでも良い!」
「私達を戦わせたあの人間は一番苦しませて殺す所だったのに!」
おっと!また纏わりついて来たので切り裂く
「きゃぁ!」
「でもさぁもう充分殺したでしょう?あの男なら個人的にも恨みが湧いたから、俺がやっれおきますよ?」
「彼女はもう復活しない!私のここ迄の恨みをどう晴らすと言うのだ!!」
彼女気付いてないのか?
「あのすみません、あんたが抱いてる最愛の人とやら良く見てくれませんか?」
「ああ私の大好きなヤエ」
彼女は抱きしめた彼女を見ている
「どこも変わってなどいないではないか!」
おっと!切り裂く
「ぐへっ!?」
今ので三角剣が一本壊れた。
「だから」
そう言って彼女に手を伸ばす、バチッ!っと弾かれた
「私のヤエに触らないで」
「そうですかじゃあ遅くなりましたが俺は、八神健と言います、あんたにも名前ぐらいあったんだろ」
ぼそっと
「ヒエ」
そう言った、ヒエさんね
「ヒエさんあんた、怒りと憎しみで覆われ過ぎて見えないんだね」
「ヤエさん死んで?いやそう云う概念があるか分からないけど、死んでないよ?」
「はぁ!!?気安くヤエの名前呼ばないで」
そこかよ!?おっと切り裂いておく
「いやぁ!?」
「さっきからよくも!」
「やっかましいわ!!」
「いい加減にしろよ、本当に15年間こんなとこに引き籠もってるから見えないんだよ!」
「そこ動くなよ!?」
俺は最後の三角剣を彼女に向けた。
「ちょっと!?」
黒い靄が急速に集まり始めるが、躊躇なく『そこ』に突き立てた。
「ぬぅうああああああああああ!!!!」
物凄い衝撃に襲われる、だが引くつもりはない!
「きゃぁああああ!」
向こうも必死か
「抵抗すんな!ヤエさんが大切なんだろ!?」
「だから気安く呼ばないで!」
一枚また一枚と割れていく三角、保ってくれよ!
少しずつ近付いて行く、あと一歩
最後の面だけになった三角剣を靄の先にある光に突き刺して靄を祓った
「ほらよ愛しのヤエさんをよく見てみな?」
「あっ」
どうやら見えたようである
「ヒエさん、ヤエさんがうっすら光っているのがわかるかい?」
「そんな今まで!?」
彼女は、泣いているボロボロと大粒の涙を溢しながら。
「あんだけ、怒り狂ってたら見えるもんも見えないって事だね。うん」
「どうする?助かるんじゃないの?」
涙を拭いながら
「えぇ微かに神気を感じる」
「神核に神気を満たせばヤエは…」
「良かったじゃん?」
「でも今の私では…どうにもならない」
「私ではでしょう?今ここに俺もいますよ?」
「だけど!ここには私が引き寄せた呪いで充満しているの!人間に何ができるというの!」
本当にこの神様は
「どうにか出来たら。悔い改めてこの土地を二人で納めていただけますか?」
「出来るの?人間に」
「どうでしょうね?でもあんたの元に俺が居るんだ、それだけで充分じゃないですか?」
確かにこんな所まで来たのだ、彼女達も救うべきだろう、そして哀れなこの呪い達も。
「ヒエさんにも神核ってあるの?」
「あるわよ!もう光は失ってしまったけど」
「じゃあ満たしたら二人共元に戻れるって事?」
ふと思いつく
「おふた方の神核ってそれなりに高いんですか?」
「馬鹿にしてんの?わたしとヤエの神核が満たされていたとき、この土地を隅から隅まで繁栄をもたらして来たのよ!」
「じゃあここの呪いを一旦その神核とやらに入れてもいいですか?」
バッチーン
ビンタされた、とうとう神様にまでされたか、最近ビンタされまくってる気がする。
「あんたは私達を何だと思っているの!?」
「まぁまぁここから出なきゃいけないんでしょう」
「上手く行けば、呪いを祓いながら神気を満たせるかもしれないんです」
思いついた作戦をヒエに話す、まず二人の神核をとりだす其処へ呪いを封じる、後は霊峰白山へと運び祓って貰う、その後それぞれの社にて祭事を行ない新たに神の座を用意するというものだ。
ヒエは
「白山程の霊場であればね、あそこは我々神々にとっても特別な場所でね」
「私達も元を辿れば白山を通じてからこの土地に降りて来たのよ」
じゃあ決まりだ
「神核をとりだすのはどうするの?」
俺は三角剣をとりだす。
「それもう限界よ?多分あと一振りが限度でしょうね」
うーんどうするか?何か持ってきてなかったかな?もう一振り持ってくるんだった。
どうも詰めが甘い、まぁ俺だしな!
「あら?あんたの首元から力を感じるけど」
あぁそう言えばお守りで貰ってたっけ、それを取り出す。
小さな三角剣を手に握り締める、熱い力を感じる結構強力だな?
「じゃあ忠告しておくわよ、神核に呪いを封じるとそれは呪物となるわ良い?恐らく想像もつかない苦痛を受ける事になる。それでも良いの?」
「だってそうしないと出れないでしょう?」
「あのねぇ!?まぁここまで来た人間だしねぇ、そうだ!どうしても許せない奴がいるの」
「殺しは無しで、どうせアイツでしょ?」
「大丈夫!手加減するから一年ぐらい寝込んで貰う位で勘弁してあげるから、ね!」
まぁ俺もアイツには頭にきてるからな
「了解それじゃ始めましょうか?」
ヒエがヤエの横に並ぶ
「三角剣を私とヤエに突き立てなさい、それで私達は神核へと変化するわ、呪いの大半は私の神核が受け持つだから先に私の神核を掲げなさい」
「いい?まず私、ヤエの順番いいわね?ヤエの方はそんなに神気がないから無理させたくないのいいわね!」
「最後に私の神核を持った手でアイツを」
「ぶん殴れば良いんだな?」
そう言ってヒエのそばに三角剣を持ち立つ
「わかってるじゃない」
ニヤリと笑う、こいつちゃんと神様に戻ってくれるのかなぁ?
「行くぞ!」
ヒエの胸元に突き立てる、さっき迄とは違う光を放ち三角剣は消滅し手にはヒエの神核があった、それを掲げる
呪いが急激に収束してくる、ヒエの声が聞こえる
「この量なら私の神核で受け止めきれる、だからヤエはお願い!」
「あとヤエの変なところに触ったら呪うわよ」
「はいはい」
右手でヒエを掲げたまま、今度はヤエのおでこにお守りの三角剣を突き立てた。
今度は三角剣は消滅しなかったが、左手に神核が宿った事を確認する。
『呪い』と言われたそれは俺の右手に収束された。
そして世界が広がる。
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