第8話対峙する『もの』前編

彼が買い物に出かけた、私は立ち上がると部屋を隅々まで見通し、カヤさんから貰った五円玉を5つ取り出し部屋の四隅に置いていき、最後に部屋の中心点に置くすると


「ぅおおおウゥゥ」


と言う声とともに『それ』が叫び声を上げながら部屋を飛び出して行った、どうやら彼女に教わっていて正解だったらしい。

『それ』は何処へ向かうのか目で追って行く、飛び出されて何処かの家にでも取り憑かれたら大変な事になる、窓の外を見ると『それ』が向かう先には彼が居た。

どうやら襲い掛かろうとした瞬間、それは真っ二つに裂け、ふた周り程小さくなりまた1つの影となるが、彼が三角剣を振るいとどめを刺した。

対抗策は出来た様だ、後は『あれ』との決着を付けなければならない。

デスクに向かい彼が帰ってくるまで、資料を眺め待つ事にした。


「早く娘に会いたいな」


1人愚痴を言いながら資料に目を通す、確かに死亡者、衰弱者色々といるが全て女性だ子供が産める年頃で死亡者が多いのは20〜30代全般、衰弱状態は10代が多い。


ちなみに中央病院の病床はもう限界らしい、只でさえ『あれ』があるのにも関わらず、現状を知らない救急隊員が搬送しているのだろう、更に釣られて『呪い』が広がっていっている、最早中央病院は色々な意味で末期癌状態、時間はもう無いようだ。


他に1つ気になる事があった、もし市外の病院に搬送された場合どうなるのだろう?


何件かあった、目を通すどうやら死者は出ていないらしいが昏睡状態の模様との事だった。


やっぱり時間がない明日には『あれ』と対峙しなければならないと告げなくては、思案していると彼が戻ってきた。



やっと帰ってきた、この市役所の近くには意外とコンビニがなかった、全く往復20分もかかったやっぱり田舎だなぁ、どんなに『市』何て付いていても田舎は田舎である。

俺はそそくさと部屋へと向かう


「ただいま戻りました!」


「聞いてくださいさっき『あれ』襲われたんです!」


俺は弁当を並べながら話した。


「その様ですね、見ていましたから。三角剣、使えるようですね」


おお彼女にも『あれ』の気配が感じられるのかと感心していると


「まあ私が、この部屋で試しに張った結界に反応して飛び出して行きましたからね」


「嘘でしょ?じゃあ塚田さんの…」


キッと睨まれ言葉を飲み込む

話を変えよう


「結界が張れるって事はもう?」


「恐らくこの部屋は安心でしょう」


それを聞いて部屋の空気感を感じてみる、

部屋から出てみる、意識を集中させると分かる明らかに違う


「塚田さんすげぇな」


もう全部塚田さん一人で良いんじゃないかな?だが言えばきっと怒りのビンタを食らうだろう、俺は部屋に戻った。


弁当を食べながら、塚田さんが調べた事の報告を聞く思った以上に逼迫した事態のようだ。『呪い』の伝播早すぎである、そして彼女の口から


「明日『あれ』に向かいます良いですか?」


「俺も賛成です」


「では今日は此処で泊まって下さい、寝袋を用意してあります」


「まぁ少しでも力を残しておかないとですしね」


「作戦は?」


「ありません、もうここまで来たなら出たとこ勝負で行きましょう!」


塚田さんは呆れているが


「よろしくおねがいします私がフォローします」


とだけ言った。


その日はもう休む事にした、塚田さんは何処かに電話を掛けているようだった、恐らく家族にかけているのだろう。

家族の元に返してあげたいなと思い俺もスマホを取り出すが、かける事はしなかった。全て終わらせ、ちゃんと顔を出しに行くと決めたからだ!

明日は朝5時に『あれ』の所に向かうと決めた早朝決戦だ。


俺は静かに眠った。






そして朝が来た


塚田さんに起こされるそして


「おはよう御座います、覚悟は?」


「俺はできています」


手短に身支度を済ませる、今日『彼女』と決着を着ける。右手が震えるいや全身が震えている、それでも三角剣手に持ち眺めると心が落ち着いた。


「これを」


そう言って塚田さんから、昨日いつの間にか作ってあった小さい三角剣を渡された紐が通されている。


「お守りです、効果は保証できるそうですよ」


笑いながら言う、俺はその時始めて塚田さんの笑顔を見た。


「それじゃ有り難く頂戴します」


受け取りそれを首にかけた。


「さあ行きますか!」


病院は隣にあるが荷物を積んだ軽バンで向かった。いくつか手に持ち『彼女』の部屋へと向かう、明らかに空気が違う例えて言うなれば空間が捻じ曲げられている、そんな錯覚に感じる


「来ルな」「タチサレ」「シね」


色々言われている、来る時は勝手に来るくせに。責められると弱いタイプか?


そして『彼女』の部屋へと入る、俺の目に見えるその姿は最早醜悪な『化け物』だった。


俺はバケツを構える、そこに塚田さんが水を足す。白山のお手水だ、そしてそれを『彼女』におもむろにぶっ掛けた。


「おっはよーございまーす!!!」


少しの静寂の後、地鳴りと共に凄まじい絶叫が聞こてきた。


「おかわりはいりまーす!!!」


二度三度とぶっかける、もうコッチは色々鬱憤が溜まってんだ覚悟しやがれ!


「生一丁!!!はいりまーす!!!」


最後の水をぶっかけると、地鳴りとうめき声はどんどん強くなってくる。『彼女』の身体がビクッと動いた、そして周囲に何かが集まってくる。

恐らくは伝播させていた『呪い』が『彼女』の元に戻って来ているのだろう、俺は塚田さんの手を取りその場から逃げ出した!


「!?」


「あんな場所でどうこう出来ないでしょう、怒りの矛先がこっちに向けばそれでいいんです!」


外に飛び出す!まだ薄暗い、俺は塚田さんに指示を出す


「『あれ』を少しの間惹きつけます、塚田さんはこの先のショッピングセンターの駐車場にとびっきりの結界を張る直前の状態で待機して下さい!」


「わかりました!」


塚田さんは車に乗り込むとすぐさま走り出した


来るな!?気配が伝わってくる


「おおおぅデケェ」


そのまま道路で迎え討つ、大きさは建物で言ったら3階位か、それがズルリと病院から出てくる。空を見る


「まだ集まるのかよ!」


そう『呪い』が集まってくる、そして『それ』は立上り。俺を見つけたようだ


「おらおら掛かってきやがれ」


強がってそう言う、後は俺の身体と体力勝負か!


『それ』が向かってくる俺を踏み潰そうとしてくるが、その場所に清めの塩をぶちまけ走って逃げる

案の定それを踏んで、苦悶の叫びが響き渡る


いやぁご利益ありますな。


動きが止まったそれを三角剣で斬りつける、切口がガッパリと開くすると更に苦悶の叫びが響く


「いい声で泣くねぇ!それが聞きたかった!」


そう言いながら脱兎のごとくその場所から離れる


怒りの気配を感じる、そうだもっと怒れどうせ理性なんてものは無いんだろうが

今、目の前の俺を殺そうと思ってくれるだけで充分だ!


『それ』が起き上がる、どうやらしっかりと俺をロックオンしてくれた様だ。


『それ』が上体を反らし腕?を叩きつけてくる、その腕に向かって塩を巻き更に三角剣で迎え討った。


「ぐっ」


重い!質量迄も持ち始めやがった、俺は剣を刺した場所からそのまま駆け抜けた、今度は腕を真っ二つにした様だが様子が違う


「あれ?」


苦悶の叫びが聞こえない、だが『それ』に対して言うのも変だが手応えはあった。だが直ぐに集まってくる『もの』で補修される


「きったねぇ!そんなのありかよどんだけ呪ってんだ!」


更に三角剣からバキッと聞こえてきた、見てみると


「げっ!」


表面の三角の一面がヒビ割れ落ちていく、嘘だろまだ2回ぐらいしか斬りつけて無いぞ!?


「ちっ!だったら」


背中の鞄からあるものを取りだす、そして倒れ込んだ『それ』のおそらく頭部と思われる場所目掛けて勢い良く叩きつけた。


「ヴァアアアアアアアアアア!!!」


良し今度は効いただろう、今使ったのは御神酒の入った一升瓶を叩き付けたのだった。良い絶叫も聞こえたし効果は抜群だったらしい。『それ』はデカい図体でのたうち回ってる、掛けられた御神酒を吹き飛ばそうと躍起になっている様に見えた。


チャンス到来!

俺は御神酒が1番掛かっている場所を三角剣で縦に横に滅多斬りしにした、ついでに清めの塩を振りまく


「あはは!なにこれちょー気持ちいい!」


苦しげな苦悶の声がひときわ大きくなる


「まだまだぁ!!」


『それ』に集まってくる『もの』が少しでも早く無くなることを願いながら


「だああああああああ!」


声を出して自分自身を発奮させる、斬りつけていると今度は三角剣からバキンバキンと壊れる音が聞こえてくる。3回壊れた後は4面だ、

俺は一本目の剣に心の中でゴメンと思いながら『それ』の頭に突き刺しめり込ませた。


少し小さくなって来ているか?

さっき突き刺した三角剣のおかげかビクンビクンしている。もう『もの』は集って来ない、よっしここから次の段階だ一先ず距離を取り様子を見る、するとより人の形に変化する、そしてこっちを見たゾクリとする。


『キサマコノヨウナモノデワタシヲトメラレルトオモウナ』


喋ったー!?


「あの〜俺の言ってる事解ります?」


『コロスコロスコロスコロス』


意思の疎通は無理か、でも苦しんでは居るなさっき突き刺した三角剣様々だ、ビルの一階ぐらいの大きさにはなった、その体内の中に女の子が見える。市長の孫か!ここまでの大きさになれば行ける


「おらよ!」


さいごの清めの塩をぶっかける、それはもう効果があったのだろう、立ち上がりながら俺に向かって来る。良し!付いて来い!俺は、塚田さんが待つ駐車場へと逃げ出した。


『マテキサマユルサナイコロスノロウ…』


色々呪詛の様に言っているが俺を追いかけて来る、逃げていると後ろから何かが頭をかすめる、振り返ると俺を追いながら『なに』かを打ち出している。


「ちょ」


紙一重で躱す、あんなの当たったらどうなるんだ?とっとりあえずあの場所まで行かなければ!振り返りながら走り出す、あと少しなのに!しかし左腕と右足に当たって吹き飛ばされる。


「ぐへっ?」


かなりの勢いで吹き飛ばされる、俺は道路に叩きつけられた。今度は『それ』のターンか


身体が痛い、撃たれたところは痺れて思う様に動かせない、だが這いつくばる俺を見て『それ』は俺へと向かって来る。


『モウウゴケナイダロソコデマッテイロイマスグワガイカリトノロイデキサマヲコロス』


「結構です!お構いなく!」


俺は何とか身体を起こし、脚を引きずるようにその場所を目指す


『ムダナコトヲココマデワタシヲコケニシテオイテソノノママシネ』


彼女が見えた!あと少し、そう思い油断した瞬間背中を撃たれた。そのまま吹き飛ばされる。


「いっでぇええええ」


だがこれで良い距離は稼げた、そのまま転がりながらその中心点を目指す。そして振り返り『それ』に向かい罵詈雑言を浴びせ倒す。

理解してるかどうか分からんが、だが歩みが早くなった。


更に少し後ろに下がる、『それ』は目前へと迫って来た、目と鼻の先程の近くに来た瞬間。

塚田さんは飛び出して来て地面に何かを置いた、その瞬間俺の身体は幾分楽になり『それ』は絶叫していた。

俺は塚田さんが作った結界から這い出し、『それ』を見る、『それ』は形状を変えながら苦悶の叫びを上げていた。


「随分と強力な結界作れるんですね」


「えぇこれで作りましたから」


そう言うと、小さい三角剣を見せた。


「なるほど良かった」


そして俺は結界内を見た、良し女の子から離れ始めてる。俺は深呼吸を1つして三角剣をとりだす、流石に結界だけで浄化は無理か


「塚田さんお手水まだ有りますよね?『あれ』にぶっかけてください」


「後は俺が」


「わかりました」


塚田さんが用意する、その間も俺は『それ』から目を離さなかった。なかなか浄化されないそれでも…と考え事をしていると


「ぶっかけますよ?」


「どんといってみましょう!」


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