第7話切裂く「もの」
頑張って頑張って本当に頑張って、神木を神社迄運んだ。宮司様はお年寄りだ手を貸してもらえるなど期待してはいなかったが!
もう既に日も暮れている、境内へと神木を運びヘトヘトになっていると宮司様が
「今日は泊まって行きなさい、三角剣も制作しなければなりませんしな!」
そう言って鋸を持ちながら言ってきた。
まだやるのかと冷や汗が出てきた、だがいつ自分の家族にまで、影響が出るやもしれん事を考えると不思議と身体が動いた。
どうやら塚田さんも泊まるらしい、今しがた巫女さんが宮司様に話していた。
その間俺は一心不乱に鋸を引いていた、掌の皮が向けるが気にしてはいられない俺は宮司様の指示に従い、神木を切っていく。
途中おにぎりの差し入れがあった、それを頬張り黙々と作業を続ける、それでも時間があっという間に過ぎていき気が付けば22時を過ぎていた。
「今日はここまでにしましょう、続きはまた明日朝7時でよろしいな?」
「はい!ありがとうございました!」
神木は、かなりの数の四角い木材へと切り分け鉋がけまでの工程を終えていた。
宮司様は
「しっかりと風呂に浸かり身も心も清めて、今日はぐっすりと眠りなさい」
そう言うと母屋へと入って行った、入れ替わりにやって来た巫女さんに部屋へと案内される
「あら掌の傷酷いですね、少しお待ち下さい」
そう言って巫女さんはパタパタと部屋を出ていき、やがてパタパタと救急箱を持って来てくれた。
「お風呂上がりにそれで治療して下さい」
と言い部屋から去っていった、ちょっとだけ治療してくれるかと思った自分がバカらしい。
「ッッッッツツ痛いいいぃ」
風呂場で悶絶しながら上から下まで洗う、掌の皮剥けてるんだもんなぁ、そりゃこうなるとは予想出来たがやっぱり痛い、洗い終えて湯舟に浸かるとどっと疲れが出てきた。
だけども悪い気がしない、だいぶ昔にこんな疲労感と充実感を感じていた頃があったなと思いながらゆっくりと浸かり、風呂を出た。
部屋へと戻ると、何故か塚田さんが居た
「どうしたんですか?」
「掌を見せてください」
俺は何も考えず掌を差し出した瞬間消毒薬をぶっかけられた!
「〜〜っぐぅぅううあああ〜〜!」
「静かに!もうこんな時間ですよ!」
治療するにしてももっと他にあるだろう、この人容赦ないな!?
悶絶しながらうめき声を上げていたが、治療が段々と優しくなっていくテキパキと手当をしてくれた右手が終わり、左手の手当をしながら
「今日はありがとうございます」
などと言ってきた
「2度も救ってくれて本当に助かり…」
「そう言うのは!全てが終わってからにしましょう!」
そう言って俺は塚田さんの言葉を遮った、だってまだ問題解決のスタートラインにも立っていないのだから。
「そうですね」
と一言だけ呟く様に聞こえた。
「はい!終わりです、また明日頑張って下さい」
手当を終えるとそう言って塚田さんは部屋へと戻って行った、頑張ってくださいねぇ最初に依頼してきた時とは随分変わったような気がするな。しかしどうにも眠い、そういや昨日はあんまり寝てなかった……俺は深い眠りに落ちて行った。
翌日早朝
俺は時間より早めに作業場へと向かった、そこでは宮司様が既に作業を始めていた。
「おはようございます、ずいぶん早いですな?」
「いやぁ性分で、どうにも作業の15分前とかには作業場入りしてないと落ち着かなくて」
「難儀な性分ですな、ははは」
と笑っていた、しかし手は休めていない
「俺の作業はどれですか?」
「そこに」
顔を向けた先に昨日頑張って切り分けた神木の板に線が引いてある
その線に沿って糸鋸で切って下さいとの事だった、そんなに複雑な線ではなかったので少し時間はかかったが綺麗に切り抜けたと思う。
「おお意外と器用ですな!では」
満面の笑みを浮かべ、おかわりが来たそれも6枚と来たもんだ。
「こんなに必要ですか!?」
「必要なのですよ、八神さん達が向かう『もの』に対しては足りないかもしれませんが」
そこまで聞いて俺は、糸鋸を黙って引き始めた。やるしかないもんなうん
一枚一枚と終わっていく度に、宮司様はその板に更に線を引いていた、そしてその線に沿って彫刻刀で丁寧に削っていく
「八神さん手が止まってますよ?」
鮮やかな手さばきに魅入ってしまっていたのだった、俺は手を動かす、慌てず急がず慎重に俺はそそっかしいからな。
そうしてる内に残りの板を終わらせると
「次はこれに紙ヤスリを掛けてください、
なるべく丁寧に」
それを手に取る、奥で見た三角剣と同じ形の物だった違う点があるとすれば色ぐらいのものだった。
俺は黙って一本ずつ丁寧にヤスリがけを行っていった。
昼過ぎには7本の三角剣と何故か小さいアクセサリーサイズの三角剣が10個あった、あれそんなのあったけ?
まあいいや、これから三角剣を祓ってくれるらしい、俺と塚田さんもついでに祓ってくれるとの事だ霊峰白山の神様だ御利益ある筈だ!
お祓いが終わり、じっくりと三角剣を手に取ってみる。何故だろうとても馴染む、そしてこの形だ、三角剣の表面裏面に更に三角が3つずつ彫られている。じっと見つめていると
「全部で7つの三角になるんですわ」
「ひぃいっ!」
後ろから宮司様に話しかけられた
「どうですか握り心地は?」
「何故かとてもしっくりします」
「それはそうでしょう、何せ八神さんの魂もこもっていますからな!」
「何せ自分で切ってヤスリがけ、勿論あなたが選ばれた神木を使っていますからな!」
「そりゃどうも」
「それでは三角剣の使用についての説明をば」
三角剣には中央に一番大きな三角が有る、そして両面に外側に向かい三角が3つ彫られている、『呪い』に対抗し続けると三角が一つ一つ消えていくらしい、中央の三角が壊れたらその時点でその剣は使えなくなるとの事
「以上ですな」
「念の為2本ほど預かって欲しいんですが?」
「分かりましたお預かり致しましょう」
俺は三角剣を2本預けた。自分に何かあったときの為にも、いざという時の為にも
街に戻る時が来た、宮司様は餞別と言って慈光寺のお手水を18リットルタンク3個分、更に御神酒を4本、清め用の塩を5キロ持たせてくれた。
「それではお気を付けて、私共はここで祈っております」
「では行ってきます」
車に乗り込む、塚田さんはまだ乗り込む気配がないバックミラー越しに見ていると、巫女さんと真剣に何やら話し込んでいたようだ。
そしてお辞儀をし車に乗り込んでくる。
「覚悟は良いですか?」
そんな事を聞いてくる、勿論返事は決まってる。
「良いですよ俺は出来てる!」
エンジンをかけ走り出す、一日半も離れていたのだ変化が無いわけがない。街へ向かう道中俺達は無口だった。
街が見えて来た、一度車を止め街の方を良く見ると淀んで見えている。
それは塚田さんも同じだったのか街の空を見ていた
「俺ら見える様になったみたいですね?」
「遺憾ですが」
「ですがこれからの事を考えれば逆に良いのでは?」
「確かに見えるって言うのは便利かもしれませんね」
「急ぎましょう」
そう言って塚田さんは車を走らせる。
市役所につく頃には薄暗くなっていた、荷物は三角剣以外は一先ず車に載せておいた。
駐車場から市役所向かう途中、中央病院の方へ視線を送るハッキリと見える『それ』が
「塚田さんあっち」
「これ程だったんですね」
『それ』は憎悪や悪意、怨念の塊だった病室側の壁にベットリとくっついている
「どうします?」
「先ずは情報収集が先ですね『あれ』は危険過ぎます」
「分かりました」
市役所に入り小会議室に向かうと不審死の情報が入った資料を渡される、かなり分厚いもう嫌な予感しかしない。それよりも
「塚田さん帰らなくて良いんですか?もう『呪い』は解けたんだし」
「そうですね資料に目を通したら帰って見ます、手伝ってくれますね?」
「お安い御用で」
そう言うやいなや早速資料に目を通す、やはり女性ばかりだそれも14歳からだ、中学生か学校で変な噂が流れて広まってる可能性もあるか。
好奇心の塊の様な歳頃だ、もしそうならばどんな噂が広がっている?後で聞いてみるか…
それよりも目に入ってきた些細な情報があった、男性看護師の妻が変死したという報告書があった。基本的には俺みたいに自分から『呪い』に向かって行かなければ、掛からないはずだ女性以外は。
彼は特に『あれ』には触れていない、何故なら別の病室の担当と報告書に書いてある。
妻帯者、女性それも14歳以上。
繋がりといえば女性だ、そう言えばスマホで調べていた事に興味深い話があったっけ。
それは、触れたものを呪うという呪物の話だ。それには確か…!?
「塚田さん!もしかしたら『呪い』についてヒントになる様な話が有るんです!」
そして二人でパソコンで『その』呪物にまつわる話のサイトを見ていく。
多少の細部の違いはあるが概ね合致する
「もしこんな事が本当なら」
「塚田さん、『これ』はもう本当の事なんです」
「なら女性が呪われるのは、子供が産めるから?」
「でしょうね、それにこのサイトの話では呪物を作るとき儀式を行うと書いてあります。ですが俺達の『それ』はもう強い『怨念』とも言える物です影響力はそれ以上かと」
「ではこの男性看護師の妻は何故変死したのでしょう、直接的な接触は無かったはずです」
「もう『呪い』は既に次の段階に入っているのかもしれません」
「『呪い』で亡くなった方達はさぞ理不尽な思いをしたでしょう、そしてその無念さが更に『呪い』の糧となり更に強く伝播して行ったのではないでしょうか?」
「もしそうなら救いがない話ですね」
「恐らくは『呪い』はもう触れる必要がなくなった、ウィルスの様なものへと変化し少しずつ、『あの』部屋から侵食を始めたと」
「そういう事であってると思います」
塚田さんの推察に同意する。
「では、男性看護師も既に『呪い』に掛かっていたという事ですが、奥さん以外無事なようです」
「奥さんだからこそですよ」
そうして俺は一言だけ行った
「言わせんで下さいよ恥ずかしい」
「あっ!」
と言って俺を睨みつけ思いっ切りビンタする、だって他にこれ程迄に確実に『呪い』を植え付ける方法が見当たらない。
「帰宅するのはもう少し後にします」
「それが賢明かと」
涙目でそう答えた。
「とっとりあえず俺、夕飯買ってきますコンビニ弁当で良いですか?」
「ではお金を渡します」
俺はお金を受け取り少し離れたコンビニへ向かう、念の為三角剣を一本懐にしまっている。
歩いていると後ろから付けられている気配を感じる、どうも慈光寺の出来事から『そういうもの』に関して敏感になっている様だ。
ゆっくりと振り返る、『それ』はもう見えていた。どうも『呪い』のお怒りに触れたらしいこちらに憎悪と殺気を向けているのがわかる、肌が粟立つ震える手で三角剣を取り出す。
丁度いい試し斬りだ、今駄目なら明日はないもんな。
『それ』は一直線に向かって来た、それに向けて三角剣を真っ直ぐ付き出す。
「ぐっ」
刀身はほのかに白い光を放っている。確かに『それ』を何の抵抗感を感じる事なく切り裂いていく。
だが俺の心には憎悪が生み出す悪意が刺さる感触を感じる。
「くっつそ」
良く考えてみれば相手に攻撃が可能な手段は見つけたが、守る手段を得て無いことを今更思いだす。
「あばばばばっ」
ほらね俺なんてこんなもん。
だが耐える耐えて見せる、やってやる負けるか!
切り裂き後ろを振り返ると、『それ』は苦悶の声を発しながら蠢いていた。俺はそれに向かい三角剣を振り下ろす
真っ二つに切り裂かれ白い光となって消えていく『それ』を確認し剣を病院に向けて言った。
「宣戦布告だ!この野郎!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます