第6話そして見えた『もの』
夢を見ていた、二人の女の子がお互いをかばい合い切磋琢磨している様だ。だが場面は移り変わり今度は、二人がお互い三角形の形をした剣の様なものを持ち二人共泣きながら向き合って居る。そして決着が着くどちらか一人の勝者しか選ばれなかったのだろう、だが勝った方の女の子は負けた女の子を泣きながら抱きしめ涙を流し一言震える声で
『ユルサナイ』
そこで目が覚めた、辺りを見渡すここは居間の様だった。
あの場にいた全員がここに居る珍しく心配顔な塚田さんの顔が見えた、起き上がると巫女の一人が近づいてきて水を飲ませてくれた。
「気がついたようですな、いやぁ死んだかと思いましたわい良かった良かった!」
宮司さんはサラッと言う、ああそういや何か飲んだあたりで意識がなくなったんだっけ。
「あの俺何を飲んだんですか?」
「御神酒ですこの神社秘蔵のものですよ、効果はてきめんでしたな!」
「それにしてもおふた方無事で何よりです」
そう言われて塚田さんの方を見る、彼女は袖を捲り右腕を見せた、そこには痣の跡が消えていた。
「見ての通り『呪い』は消えたようです、まだ疑わしいですが」
「それならば心配には及びません、この神社の中に立ち入れたという事が何よりの証拠ですな!」
「この地は霊峰白山につらなる神格も高き神社ですゆえ、先程までのお二人の様な身で入ろうものならば『呪い』より強力な神の力によって既に亡くなっていますよ?」
「なるほど」
塚田さんは元のクールフェイスに戻っていると言うかこの現状を普通に受け入れている事にビックリした。そんな事を思いながら俺は
「この『呪い』について何か心当たりはあるんですか?」
「まぁ麓の土地に関しては大体の事は把握しております」
「「はい!?」」
俺と塚田さんは同時に声を上げた
「じゃあ何で現状を把握しながら何もしなかったのですか!」
「言ったところで誰も伽話としてしか聞かないでしょう、こと現状に至る迄違いますかな?」
塚田さんは黙り込む
それはそうだろう俺だって信じていなかったんだから、だがもう知ってしまっている。この現状をどうにかしなければ、今も街には『呪い』が蔓延っているのだろう。
俺はいくつかの質問をする事にした。
「宮司さん、貴方はこうなる事が予見出来たのですか?」
「まあそうですな、きちんと取決められた祭事を行ない新しく神の座を整えることで二人の神の元繁栄したでしょうな」
「ちなみに今から祭事を…」
「無理でしょうな既に神の座は無くなっています、少なくとも今からではもう無理です」
「分かりました、では別の質問ですが良いですか?」
「答えられることならどうぞ」
「何故この白山は無事なのですか?」
「ここは元々霊峰と呼ばれそれを司る神がいらっしゃいます、この慈光寺はそのご加護がございます。神々の力関係で言えばこちらの神様の方が上と言う事になります」
「そもそもの二人の土地神に関しても干渉せずその繁栄を見守っておりました」
「干渉せずですか…『呪い』を解くことはできませんか?」
「一人二人ならともかく事が大きくなり過ぎてもうどうしようもないですね、15年分の『怨み』『憎悪』それにこの街に渦巻く悪感情すら飲み込み今の『呪い』ですから」
塚田さんは黙って聞いている
「この『呪い』の根源について宮司さんもしかして心当たりは?」
「ありますがそれこそ伽話になりますよ?」
「聞かせてください、何でもいいんです少しでも何とかなるなら」
「分かりました伽話として聞いてください」
そこから宮司さんの話が始まった
昔その地には仲の良い二人の女神がいたらしい、何年かの後人間が新たにやって来て土地を耕し村を作り育っていく事を見守っていたそうだ。
時には語りかけ時には乞われ人々と共に発展させて行った、しかし人が増え時が過ぎ去るに連れ領土を分断する事になり、その時は盛大な祭りを行い、今迄の感謝の気持と二人の神のために新たなる神の座を用意したと言う。
二人の女神はお互いに用意された神の座に収まり土地神として見守って来た、それが八幡神社と日枝神社だそうだ。
それから毎年秋には大きな祭りを行い、二人の女神は祭りの度に競い合いその年の祭りの日の天気を決めるなど楽しみ、人間との共存共栄の道を歩んできた。
それは過疎化が進む最近まで続いていたと言う。
「ざっくりとですがこの様な話です、現に15年前以降、祭りを行っても何方も大雨もしくは季節外れの気温上昇になる事になりました」
「それこそですがそれまでは不思議なぐらい晴れと雨と、祭りの時は別れていたんですよ」
とここまで聞いて、さっきの夢を思い出し話してみた。
「二人の女の子が泣きながら、三角形の剣の様な物を持ちながら向かい合い、そしてどちらかが彼女を殺した。その亡骸を強く抱きしめ『ユルサナイ』と言ったような夢を見たんですけど…」
「そうですか、一度呪われた貴方だからこそ見えたのかも知れませんね」
そこまで話して分かりかけてきた『彼女』の正体を
「宮司さん『彼女』が根源何ですね?どちらか分かりませんが」
「私はここを離れるわけには行きません、八神さん塚田さん此方へ」
俺たちを連れて神社の奥迄案内をしてくれた。そこには色々な物がお供えされていた。その奥には夢で見た三角形の剣があった
「恐らくは二人の女神のどちらかが『呪い』と化したのでしょう、あちらの剣に見覚えは?」
「あります、夢で見た物に間違いありません」
そう答えた
「あれは三角剣と言います、厄から護って下さる有り難い剣です」
「あれがあればもしかして?」
「はい、貴方達に付き纏っていた『それ』から護って下さるでしょう」
「ですが現在、現存するのはあれだけなのです」
がくりと項垂れる、宮司さんもここを離れるわけにはいかない。詰んだ、街には『呪い』がある。このまま帰ってもどうなるものか
「…がみさん!八神さん!」
宮司さんの声に我に返った
「すみません考え事をしてまして」
「困りますよ、もう一度聞きますか?」
「あぁ三角剣があれしかないんでしたっけ?」
「その後ですよ」
「へっ!?」
「なんか言ってましたっけ?」
「なければ作ればいいと宮司さんが仰ってらしたでしょう?しっかりして下さい八神さん」
「作る?」
三角剣を?自分が考え事している間にそんな話しになっていた事に驚く
「作れるんですか三角剣!」
「はい、もっとも作っていただくのは八神さん自身ですが」
「何で!?」
「私はお手伝い出来ますが後は女性しかおりませんで、それに時間も無いのでしょう?」
そりゃそうだと思ったでも希望があるなら活かしたい、今悩んでいるこの時さえも勿体ない俺は二つ返事で答えた
「良いでしょう!やりますとも」
時計を見る15時過ぎか、今日はもう間に合わない、でも作って明日へ繋ごうそして少しでも『呪い』の被害者が出ない事を願った。
宮司さんが塚田さんに簡単な結界の作り方を教えるというので
「カヤさん、彼女に教えて上げてください」
巫女の鈴城カヤさんを紹介された、将来ここの宮司になれるほどの人らしい
「鈴城カヤです宜しくお願いします」
俺は簡単によろしくとだけ挨拶をして宮司さんについていった。
彼は宮司さんと共に出て行った、私の方は鈴城カヤさんに改めて挨拶をした。
「五泉市市役所の塚田と申しますよろしくお願いします」
彼女はふっと笑って
「私の方が年下なんで敬語なんて使わないで下さいよ〜」
「何か疲れちゃうんですよね〜敬語って」
あれ?何かさっきと雰囲気が違う
「あの、すみませんこう言う性格なもので」
「わっかりました〜私の方は失礼ですかねぇ?」
「いえ大丈夫です」
「了解です〜じゃあさっきの居間に戻りましょうか」
「それにしてもあのオジサンはないですよね〜いくら『呪い』掛かっているからって御神酒1合で気絶するなんて」
「はぁ、まあ私も年甲斐もなく取り乱しましたので」
「それにここに着くまで危険な目にあってますし」
「女の人はしょうがないですよ〜」
そんな話をしつつ居間に着く
「それでは改めて結界について説明しますね!」
なにか嬉しそうね?
「基本は三角形です」
そう言えば、八神さんも何かそんなことを言って興奮してましたっけ
「その三角形を結ぶのは3つの繋がりがある物に分けられます!例えば〜」
彼女は箪笥をあさり始めた
「え〜っとこれで良いかな?」
彼女は綺麗な五円玉を3つ出した
「はい!これです、ちなみにこれにはある繋がりがあります!それは何でしょうか?」
と言われても五円玉である、随分きれいな事と穴が空いていること、何だろう?
「もしかして製造年が同じとか?」
「あっ!正解です、こういった感じで何かしら繋がりがある物を利用します」
「これが分かれば後は、三角形になる様に置いておけば完成です」
「後は応用編もあるんで一応教えておきますね!」
「例えば今度は先程の五円玉を5個使います!そして例えば、この居間の四隅に1個置いていき最後に部屋の真ん中に1個置きます」
「そうするとこの部屋に結界が4つできた事になります!如何ですか?」
凄く誉められたい顔をして来る
「すっ凄いです流石ですね!これなら色々守れそうですね!」
「いえいえ!どう致しまして!」
御満悦の様子だ、何だか可愛らしく見えてきてしまう。
「後これ見てください!」
そう言うと彼女は胸元から小さな三角剣のペンダントを取り出した
「これさえあれば無病息災間違いなしですよ!」
「へっへえ〜御利益ありそうですね!売っているんですか?」
「残念ながらこれは、先代の巫女から受け継いだ物なんです。ですが今三角剣を作ろうとしているという事は、このお守りも作って貰えるかもしれないです!」
「という訳で結界講座も終わりましたし宮司様の所へ行ってお願いして見ましょう!」
何とも元気な娘だ、こちらの気持ちが少し楽になった様な気がする
「分かりましたお願いしにいきましょう!」
何時もより元気な声を出してそう言った。
「ヒィヒィ」
俺は息切れを起こしていた。
「ほらもうひと踏ん張りですから頑張って!」
まさかこうなるとは思ってもいなかった、三角剣を作るとは言った
「それではこれから素材を取りに行きます」
「えっ!?素材って何ですか?」
「この慈光寺にある神木を一本使います」
「三角剣って木刀だったんですか!?」
「はい先程見た三角剣は、霊峰白山の中にある特別な神木を使って作られたと言います」
そうだったのか、軽い気持ちで行って良い作業では無さそうである。
すると納屋に案内され宮司さんから、斧を渡された。まさか…
「あの〜もしかしてこの斧を使うんですか?」
「えぇ勿論です神木を切るんです、もう作業は始まっているんですよ!」
まさかの手作業!これじゃ日が暮れる、と言うかいつできるか分からない。
「焦る気持ちは分かります」
俺の気持ちを読んだかのように優しい言葉をかけてくれた
「今のまま戻っても、遅かれ早かれでは無く確実にまた『呪い』に掛かります」
「ですから準備をここで整えて行ってください」
「私も勿論お手伝いいたしますよ、ですから心を落ち着かせて周りを見渡す位の余裕を持って下さい」
そう言われて俺は、深呼吸を1つして一言
「行きましょう!」
そう言い宮司様と一緒に林の中へと向かって行った。
沢山の樹々がある、どれでもいいのかと言うとどうやらそうではないらしい、宮司様が言うには
「神木が選ぶ」
らしい俺達が選ぶんじゃなくて神木の方が選ぶらしい、そして呼び掛けて来るとも言った
「目を閉じ神木の呼び声に答えなさい」
そう言われて俺は目を閉じ思いっ切り地面の上に寝転んだ、そんな声が聞こえるものか俺は只のオッサンだ、何処かのゲームや漫画の主人公よりもふた周り以上も年上なんだぞ。
選ばれし勇者とかじゃ無い、市役所に選ばれし者だ!全く自分の立場が嫌になる、だが良く考えて見よう俺の『呪い』は解けたじゃあもう何処か別の街へ行くのも悪くない、でもそれはそれで色々と今の市役所で手続きしてくれるとも限らない。
でも…でも…家族は守らなきゃな…俺を見捨てないでくれる大事な家族、口煩い妹たちとその子供たち
目から涙が溢れる、ああ俺がやらなきゃ必ず!
その時俺は、一本の木の前に立っていた。
「どうやら呼ばれた様ですな?」
「ですね」
そう言い俺は斧を振るい始めた。
それからどれ位振っただろうか中々上手く斧が扱えない
「ヒィヒィ腰がぁ腰がぁ!」
「もう少しですよ!ほら頑張って!」
「神木様には恨みはないが、『呪い』の糞ったれめー」
さらに斧を振る
「ちくしょうめー!!!」
スッカーンといい音がしたと同時に木が倒れ始め、俺と宮司様はその場から少し離れた。
ドスンと神木が倒れる。
「やった!」
「お疲れ様です、良い神木ですね」
「そうですかぁ」
少し踏ん反り返る、が次の言葉でどん底に突き落とされる。
「では神木を神社迄運んで下さい」
にっこりと宮司様は言った。
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