第5話見えてきた『もの』
俺は塚田さんの奢りの朝食を黙々と食べていた。すると彼女の方から
「八神さん昨日何故田辺さんとの録音した会話、特に何度も聞き直していた箇所があったのは何故ですか?」
そんな事を聞いてきた、そう言えばその時『呪い』に掛かったんだっけ。
「あ~あれ気になったんですか?」
「えぇ繰り返してましたから」
「ちょっと気になる言い方をしている部分があったので、其処を改めてよく聞き直していたんですよ」
「まぁこのザマですがね」
「確か、今この市には厄を退ける程の力を持っている土地神様とかだったと思うんですが。これ以上は俺の推測ですが…」
そこまで言って俺は言い淀んだ、変に希望を持つのは危険な気がしてきて。
「まっまぁ行きましょう、まずは八幡神社からです」
「そうですか、分かりました」
席を立ち会計を済ませる、自動支払機のおかげで人に触れる事なく店を後にした。
車を走らせ約10分程で最初の目的地、八幡神社へと着いた、ここは五泉市でも最も有名な神社であり夏と秋には大きな祭りが行われている。車を降りる、何故だろう『呪い』のせいかこの神社からは気の様な物が感じられない、それは塚田さんも同じようだった。
境内を歩き社務所に向かう宮司に会えるよう話をつけてもらう、それまでの間俺は境内の中を見渡してみた、やっぱりおかしい。普通の神社などに行けば、俺みたいな人間でも身が引き締まる様な感覚になるがそれが無い。
嫌な予感がする、すると塚田さんに呼ばれた準備が出来たらしい。
部屋へと通される、そこには宮司である杵渕という人物が居た。
「時間が無いので率直に伺います」
挨拶など無駄だと思い俺はそう思い話を切り出した。
「今この市には始まっている『呪い』についての見解が聴きたいのですが?」
「それに関しましては私の先代の宮司が、合併に付き土地神様に関する祭事を一切行なっていなかった事が、調べた結果分かりました」
「その先代の宮司は?」
「既に亡くなっています去年の事です、確か夏が過ぎたぐらいでしょうか」
そこまで聞いて俺は塚田さんに
「塚田さん今すぐに調べて欲しい事が有ります、『彼女』の誕生日を調べて下さい」
俺の言った事に何か勘付いたようで
「直ぐに確認します」
と言いスマホを手に部屋を出て行った
「それでは話の続きを伺わせてもらいます、良いですね?」
宮司は頷く
「この神社の境内には、何というかこうピリッと身が引き締まる様な物を感じないのですが?」
「恐らく神社に奉ぜられていた、土地神様がいらっしゃらなくなったせいでしょう。私が継いだとき既に貴方の言う感覚の様なものはありませんでした、しいて言うならば空っぽの状態です。」
「それがいつからそうなったかは、私には分かりません。恐らくはそう合併した時には既に」
どうやら碌でもない先代様だった様だ、一応聞いてみる。昨日ネットで調べた情報だが確認しておきたい。
「宮司さんこの神社には結界は無いんですか?それと貴方には『呪い』は無いんですか?」
「私には今の所異常はありません、それに結界と言われましても心当たりはありません」
「すみませんどうしても確認しておきたいんです!地図帳無いですか?」
「それならばある筈です、少々お待ち下さい」
宮司と入れ替わるように、塚田さんが戻ってきた
「分かりましたか?」
「はい、8月18日でした」
「恐らくは当たりですね、『彼女』に顕現した頃に発動したのかと思います」
塚田さんはそう言った。
合併に関わった者には特に強烈な『呪い』が発動している様だ。
となるともう1つの神社も似たような可能性が高い。
宮司が地図帳を持ってくる、早速作業に取り掛かる。こればっかりはスマホの地図アプリでは出来ないからである。
俺は定規と鉛筆を借りた、ネットの情報通りであれば有るはずだ。現在地を確認する其処から近くにある筈の名前を探す…1つ2つ3つ、あった!其処には、熊野神社と記されていた、他には同じ名前の神社は無く近辺にはこれしか神社が無い事も確認しておく。
俺は見つけた神社を定規と鉛筆で線で繋ぎ合わせる、すると八幡神社を中心に三角形が出来上がった。
良し!ネットでの情報通りだ、ついでにもう1つの神社も調べる、すると同じ様に三角形が出来上がった。
日本古来より伝わる結界と言われる物がある、其れはある物どうしを繋げ三角形にする事で出来るものであると言う。何故三角形なのかは其処までは書かれてはいなかった、恐らくは何かしらの意味を持つのだろう。
「それで何か?」
彼女は訪ねてきた、宮司も不思議そうな顔で見ている。この神社を中心に三角形の結界が張られていることを地図を見せながら説明した、つまりは
「俺達は力こそ弱いけれど今結界内にいるという事です、塚田さん腕を見せてください」
彼女が袖を捲くる、そこには今朝付けられたと思われる跡がぼやけていた。
どうやら効果は有るらしい。
「これは驚きですね」
物凄く冷静に言われた、さっき迄の俺の興奮を返して欲しい。
宮司も
「では私に『呪い』が無いのも?」
「恐らくは、それに貴方は当事者ではありませんし結界の中に居ることで護られているのだと思います」
「八神さん貴方の主張だとこの範囲内にいる住人は『呪い』に対しては無事という事ですか?」
「いえ持ち込まれたらアウトでしょうね、今の所は、そもそもの『呪い』の根源が解りませんですし」
「ではここに来た意味は?」
「自分の目で八幡神社の様子と、調べていた事の情報の確認ですね」
「宮司さん?もしかして日枝神社の内情も似たようなものではありませんか?」
「はい代替わりしております」
やっぱりね、それならばそっちに向かう必要はなくなった。そして何より眉唾だった情報にも信憑性が増した、ならば次の場所へ急ぐべきだろう
「宮司さん有難うございました!」
「八神さんもう行くのですか?」
「えぇ!」
二人でお礼を言い部屋を後にする、車に向かう間彼女は右腕を見ている、確かに痣はボヤけているだが
「先に行っておきます、次に行く場所は結界の外になります、また『呪い』が進行する可能性があります。貴女さえ許可してくれれば俺ひとりで向かいますが?」
「余計な心配は結構です、どちらにせよ遅かれ早かれ『あれ』の『呪い』が完全に消えなければ明日があるかも分からないのですから…」
「だから私も行きます」
彼女の覚悟はしっかりとしていて前を向いている、強い人だと思った。それに比べて俺は、まだ覚悟が足りなかった様だ彼女に発奮され車に乗り込む、次の目的地を彼女に伝えた。
「かなり山奥ですね?」
「えぇだから4WDをお願いしたんです、万が一の為に。ガソリンは?」
「ほぼ満タンです、先方には連絡は?」
「多分連絡しなくとも大丈夫だと思いますよ、本物ならね」
「はぁ?」
彼女は気の抜けた用な返事をすると、目的地に向かい走り出した。
大雪の影響から町中は渋滞だ横道に入り広域農道へと向かう、除雪の心配をしていたが流石に素晴らしい除雪技能の持ち主が居る市だけあり、道路は綺麗に慣らされている。
目的地には順調に向かっている筈だった、何だか息苦しい首元に違和感を感じる。俺は嫌な予感がして真っ暗なスマホの画面の反射を利用して自分を見てみる。
何てこった『あれ』の手が俺の首に回っている、通りで息苦しい訳だ。これはもしかして目的地に近付かせない為の…其処まで考えて
「塚田さん、身体に異常とかありませんか?俺何か息苦しいんですが」
「奇遇ですね私も先程から右手が痺れて感覚が無くなり始めてます」
やばい現地につく前に下手すりゃ交通事故そして俺は窒息死ってか?スマホの画面を彼女に向けて見る、右手の部分に黒い靄が見える。不味いな
「塚田さん、動いたらでいいので右手をハンドルから離して下さい。なにかヤバいです」
彼女は何とか右手をハンドルから離す、これで取り敢えず彼女の右手が暴走して交通事故の心配は減ったと思う。問題は俺の方か先程より苦しくなりつつある
「八神さん大丈夫ですか?」
「そりゃ辛いですよ、今も絞まって来てます」
「もう直ぐ目的地です!このまま向かいますよ」
彼女はそう言うとスピードを上げた、彼女だって右腕が辛いだろうに。どうしてこんなにも強いのだろうか?兎にも角にも俺だけ弱音を吐く訳にはいかない、何とか呼吸を整えてみるが更に絞まりつつある。
目的地まで後1キロの看板が見えたと同時に車が蛇行運転をし始める彼女も苦しいのだろう、それでも彼女は賢明に運転を立て直し目的地を目指す。
そして、看板が見えるこれより先
『霊峰白山慈光寺』
看板を通り過ぎると不意に首の締め付けが弱くなって行く、それは彼女も同じだったのか目的地に近づくにつれて顔に生気が戻ってくる。
駐車場に入る頃には、もう苦しさはなくなっていた。
車を降り辺りを見渡す、そこは大雪と迄はいかないが明らかに市街地よりも少なく見えた。やっぱりかと一人呟く、空気はピンと張り詰めている何だか背筋を伸ばす身が引き締まる様だ。この感覚八幡神社では感じられなかった感覚だ。
塚田さんも感じ取ったらしい、自分の首元を確認する跡が残っているが苦しくは無い。
二人でお互いに無事である事を確認しておく。
「良し!行きますか」
これから向かおうとすると境内の向こうから3人組が近づいて来る、一人は宮司かそうするとあとの二人は巫女さんてところか、手になにか持っている様だが?
宮司と思われる人が口を開ける。
「随分と禍々しい気配が近づいて来たと思えば、あなた方穢れておりますね。話したいことが沢山お有りのようですがそのまま境内の中には入れませんな」
「当たりだな」
一人呟く
「何故入れて貰えないのですか?」
塚田さんが聞く
「そのまま境内の中に入れば、あなた方に取り憑いている者とは別の力によって死にかねません」
「ですので此方へ」
俺達は鳥居の近くにある手水舎へと案内された、ああそうか神社に入る際には身を清めなくてはならない事を思い出した。
「先ずはそちらの女性の…」
「塚田と申します」
彼女はどんな時でも強い
「それでは塚田さんこちらのお手水で手を洗ってみて下さい特に右手を」
何だこの宮司さん見てもいないのに彼女の『あれ』に気付いたのか?やっぱり本物だと確信する。
そして彼女が水に手を付けた瞬間
「ぎゃあああああっっさっさああああああ!!!!」
とんでもない悲鳴を上げた、あんなに強い人が物凄い悲鳴と言うか絶叫である。
「ちょっと待って下さい!何ですかこれは、あっちょっと腕を掴まないでください危ないっっああああああああああああああああ!!!」
二人の巫女に押さえつけられ腕をさらに水に付けられる
「腕が焼けるううううううう!!」
「大丈夫ですそれは貴女の腕の痛みではありません穢れが、浄化されるのをあらがいがって貴女に与える幻覚症状の一種ですな」
「ぐああああああああああああっ!?」
ちょっと面白いけど、あれ次に俺がやるのかと思うと少し憂鬱になる
「はぁはぁ」
と肩で息をしているどうやら、お清めは終わった様だとなると
「それでは貴方は」
「八神と言います」
お手水の手前まで来て躊躇すると塚田さんの方を見る、巫女から何か渡されそれを飲みまた絶叫を上げていた。
おぅ何だろう今朝体験したのとは別の恐怖を感じるだが!ここで躊躇している暇は無い思い切って手を突っ込む!
「あれ?」
恐らくは井戸水なのだろう少しひんやりする程度で何ともない、安心しきって口をすすいだ瞬間首元から焼けるような痛みに襲われる
「がっっぐっうううううううううう!!!!!」
「八神さんあと2回口の中をすすいで下さい」
宮司さんに押さえつけられ巫女さんに杓子で水を口元に運ばれる、そして
「〜〜〜〜っ!!!!!!!」
問答無用で3回目を行わされる
「ぐっへっっ!!」
膝から崩れ落ちた、そこへもう一人の巫女さんが
「さあ此方をお飲み下さい」
と器を差し出した、よく頭が回らなくなった俺はそれを受け取り一気に飲み干した瞬間俺は意識を失った。
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