第4話始まる『もの』

その日は閉庁となり、俺は帰宅する事にした。

塚田さんはこのまま泊まり続けるらしい、まぁ家族に迷惑どころか命までかかってるのでしょうがないのだが。また明日今度は開庁の前よりも来てもいいとの事だった。


俺は独身の独り身だ、守り失うべき家庭は居ないだが、大切な両親がいる妹夫婦がいる。家族はいるのだしかも妹夫婦には双子の姪っ子までいる年齢も14歳『呪い』に最も近い年齢だ。


しばらく実家には顔を出せない、俺もまた『呪い』にかかっている。解呪何て方法があるのだろうか?


アパートに帰り、恐る恐る鏡を覗く幸いな事に首にあった女の手は今は見えない。溜息が出た、スマホに録音した音声は全て雑音混じりになっており使えないと判断し消した。


風呂に入り冷えた心と体を温めてみる、心は温かくはならなかったが体はしっかりと温めた。対策だ対策を取らなければ遅かれ早かれ『呪い』に俺までやられてしまう、スマホを取り出し調べ始めた、何でも良い眉唾でも何でも良い。


いくつかのサイトを巡り色々試してみたいことが見つかる、やらないよりなんでもやって見ることにする駄目ならまた調べれば良い。


途中、暫く実家には近づけないと連絡しなければならないと思い、電話を掛ける


「もしもし八神ですが」


「ああ俺俺」


電話をかけた相手は父親だ


暫く仕事で実家には顔を出せない事を伝えたが


「お前が?」


「うんだから暫く実家には顔を出せない」


「大丈夫なんか?お前は…」


「大丈夫だってちゃんと市役所にも話をしてあるから」


「あんまり無理するなよ、忙しくてどうしようもなくなったら力を抜けよ。そうすれば大体何とかなるから」


「ああアドバイスありがとう」


そんな話をしている時ふと何気なしに何故か昔父と登山した山の事が頭をよぎった。


「あのさ俺が小学生の時一緒に登った山だけど…」




「ありがとう参考になったよ、じゃあまた電話するよ」


父親との電話を切る、そうかあそこがあった、意味のない事かもしれないが行ってみる価値がある場所を聞いて思い出した。

他に試したい事もある、明日朝一番で市役所に向かうと決めて眠りについた。




彼はビクビクしながら帰って行った、彼も『呪い』に掛かった想定内である。どうせ調べて行けばいずれそうなると思っていた。

正直可哀想とも思わない、精々この『呪い』を調べてくれる駒程度と思う事に彼を決めた時にそう決めた。


守衛室に、旦那が何日かぶんの着替えを持ってきてくれた、大分心配をかけている。守衛の人と体が触れる事が無いよう荷物を受け取った、『彼』が『呪い』に憑かれてしまった事で男性にも伝播する事がわかってしまった。


パソコンに今日の変死と思われる人数と名前のリストが届く、私はそれを見て驚いた。私が『それ』の存在を知って2日で20数名になる、その内に何件かは体が半分以上ミイラ化したものであり。他には心臓麻痺によるものがあった、やはり女性ばかり私もそうなるのだろうか背筋に冷たいものが流れる。


しかし気になる何故彼は取り憑かれたのか?

調べようとしたから?あの悍ましい声を聞いたから?

そう言えば、何度か気になる事があった様子で同じ場所を繰り返し聞いていたような気がする。その内にあの悍ましい声が聞こえたのだ、明日朝一番で来ると彼が言っていたその辺りを少し聞いてみよう。何か得られれば良いのだが、今日はもう寝ることにする、旦那と娘におやすみのメールを送りそのままソファーへともぐりこんだ。



翌日

なかなか寝付けず寝不足気味だ、自分の首に『呪い』が取り憑いているのだから


「そりゃあぐっすり眠れる訳ないでしょ」


ボソッと独り言を良い出かける支度をする、朝食何て気分じゃない。コーヒーで済ましアパートを後にする今日もよく降る、せめて空ぐらい晴れて欲しい気分が重くなる。

だが昨日少し収穫があった、今日はその辺りを当たってみようか等考えている内に市役所についた。


守衛室から入り小会議室へと向かう、塚田さんに差入れの缶コーヒーを手に持ちノックする。


返事がない、もう一度ノックするさっきよりも強く叩く。


やはり返事がない、悍っけに襲われる鍵は掛かったままだ、俺は慌てて守衛室へ向い守衛と一緒に小会議室へと戻る。守衛に鍵を開けて貰い守衛には下がって貰った、ここから先は危険だと説明した上で、そっとドアを開け部屋の中を覗く部屋の隅に置かれたソファーに目を向けると彼女の側に黒い『何か』が立っていた。


どうしていいか分からずにとにかく俺は部屋の入口から大声で


「塚田さん!起きてください!塚田さん!」


その声に反応したのか黒い『何か』は俺に向かってきた


「ちょ」


俺の身体を覆い尽くす程膨らみ上がった『何か』は俺を飲み込もうとしていた、身体は金縛りにあったように動かない。もう駄目だと悟った瞬間俺は全身の力を逆に脱いてみた、すると身体がガクリと沈み込んだそして咄嗟に身体をひねり避ける事に成功した。


ラッキー以外の何物でもなかった、避けた先には塚田さんが居る場所だ、塚田さんを背にする形になってしまったが。


「どうしよう」


本気で焦っている、今日は試したい事が沢山あるのに!『呪い』とはこれ程厄介な物だとは思わなかった、物理的に殴ってどうにかなるならやるが恐らく『あれ』に取り込まれる。


逃げる選択肢はない、と言うか逃げ道に『あれ』が居る何より塚田さんが居る。


『あれ』が向かって来る、どうする?どうする?さっきの様な幸運はもう無いと思っていい、どうする?どうする?部屋を見渡すとブラインドから光が指している、俺は思いっきってブラインドを開けた!

冬だが眩しい太陽の光が部屋に広がる『あれ』が少し引き下がる、俺は部屋にあるブラインドを片っ端から開けていく部屋は光に満たされ『それ』は掻き消されるように蠢き怨嗟とも思える音を残しながら消えた。

どうやら幸運は続いていたようだ、胸を撫で下ろす。


取り敢えず今だに眠っている?塚田さんに向かって近づき呼びかけてみる。


「起きてくださーい塚田さん!」


こっちは朝っぱらからこんな目にあっている事もあり、思いいっきり往復ビンタをかましながら


「起きろって言ってんだ!」


「ぐっ」


「いっ痛い!」


お!目が覚めたようだ。


「何をしているんですか八神さん!?」


「そりゃこっちの台詞ですよ、もう少し早く起きてれば『あれ』が見れたのに」


冗談半分に言う


「俺は兎も角塚田さんもうあんまり時間無いかもですよ?」


塚田さんの右手を指しながら言った、彼女の跡は肘部分まで伸びていた。


俺はさっきまでの事を彼女に説明した。


「それはありがとうございます、ですが!」


そう言うと俺の頬に思いいっきりビンタをかました。


「起きなかったんだからしょうがないでしょう!?」


「まったく私も不注意が過ぎました、でも助けて下さったんですね」


「いえ正直に言えば…」


「はい?」


「いえ何でもありません!それより支度してください今日はやる事が沢山あるんです!俺ロビーで待って居るんで!」


「30分で支度しますのでロビーではなく部屋の外で待っていて下さい」


俺は返事をすると部屋を出た。

そしてさっきの出来事を思い出す、何故『あれ』が見えたのか、『呪い』に掛かったからだろうか?取り敢えず窓の外を見る、さっき太陽が出ていたのは本当に幸運だった様だ、今は薄く雲が掛かっている。

まあ一か八かみたいな賭けだったが助かった、俺にはこういう事が割とある。悪運?みたいなものだろうか。まあそれならば『呪い』何て掛かる事も無いんだけどなぁ。


そう言えば『あれ』は太陽の光に弱いのだろうか?さっきの太陽は久しぶりに見たような気がする年明けから多分見ていない。

だがいつまでも晴れることも無い、さっきの『あれ』が『呪い』ならば恐らく塚田さんにはあまり時間が無い事になる、今日中に出来る事はやって置かなければ俺も危ない。


「お待たせしました八神さん」


「待っていましたよ塚田さん!早く行きましょう車出せますか?」


「市役所の軽バンなら用意できますが?」


「なるべく4WDでお願いします!」


「分かりました手配します」


塚田さんは手際よく車を手配してくれた。


「運転は俺出来ないので宜しくお願いします」


「そうですね、ナビゲートお願いします。その前に朝食を取りましょう、私奢りますので」


そう言えばお腹減った様な気がする時間は8:45を指していた。まだ余裕はあるか?とにかく英気を養うのは大切だと自分に言い聞かせ


「すぎ屋でお願いします!」



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