市霊払い

第3話今そこにある『もの』

「この呪いは伝播します」

彼女はそう言った、伝播しますと。つまりそれは…

「まさかとは思いますが既に?」

「はい、彼女のミイラ化が進んで行き。その時手当に当たった看護師それも女性の看護師が、既に衰弱死をしています」

「今の彼女に取り付けられている点滴などを付ける際に、恐らく触れたからでしょう。男性の看護師は今の所問題ないので彼らが点滴の交換などをしております」

部屋を見渡すと、ベッドから少し離れた所に点滴台があった。

「万が一男性看護師にも『呪い』が伝播しないよう、点滴の位置も離してあります」

成程ね『呪い』がある事は理解した。目の前に『それ』は有るのだから、しかし疑問が残る。一番の疑問だ無駄だとは思うが一応聞いてみた。

「呪いなんて物がある事は理解しました、でも何で俺なんですか?」

「それについては先程申し上げた通り、拒否するのであれば今後…」

そこまで聞いて大分理解した。成程ねそういう事か…俺は渋々

「分かりました、でもできる事なんて無いと思いますよ」

「それでも構いません、現状から少しでも何か変化が有れば良いと思っています」

現状ねぇ?どうしろと言うのだろうか、俺にはオカルト的な物は普段からビビりなのでなるべく見ないようにしていたぐらいだ。

それなのに目の前に『これ』がある正直、鼓動が早い足はガクガク震えている胃のものは逆流しそうだ。

「取り敢えず『彼女』から取り掛かれば良いんですか?」

そう聞いてみた、しかし返事は彼女の顔から何となく違うだろうなと思っていた。

「いえまずは『私』からお願いします」

そう言って彼女は服の右手袖を捲り俺に見せた、右手首には手で握られているような跡があった。

やっぱりね、さっき俺が『これ』に引き寄せられそうになったとき、止めてくれた事から何となく気付いてはいたけど。

もう既に塚田さん触れてしまったんだね。

それにしても随分冷静にいられるものだと感心した、ん!?ちょっと待てよ『これ』に触れたら呪われる、触れてしまった人間が更に他の人に触れたらどうなる?

怖気に襲われる。

「塚田さん、貴女触れたんですね」

「はい、昨日触れてしまいました自分でも無意識のうちに一瞬ですが、同席して下さった方にすぐ引き離されましたので、この程度ですみました」

「ですが昨日より右手が重くなって来ています、恐らく『呪い』のせいでしょう」

塚田さんは確か既婚者だ、娘さんが居るって前に聞いたことがある。

「もしかして昨日から帰ってないんですか?」

「はい、私には娘がいます『これ』が万が一娘に向かう事だけは避けたかったので」

「昨日から職場も1人で活動出来る様に、先程の小会議室に閉じこもって居ます、同僚に迄『呪い』が伝播してしまっては更に増えてしまいますから」

「『これ』が解ける迄は私は家に帰れません、ですが解く方法さえ分かれば、他にも救われる人達が居るんです!」

他にも?

「すみません今他にもって言いましたよね?どういう事です?」

「既に伝播してしまっているという事です、まず『彼女』の友人、そして看護師、関わりがあった人達が犠牲になりつつあります。」

そりゃそうなるだろうと思ったが

「確認しますけど、皆女性ですか?」

「はい、女性ばかりです」

「犠牲になりつつあると言っていましたが今その人達はどうしているんですか?」

「分かりません、何処までこの『呪い』は伝播して居るのか把握しきれていません」

「ここ数日の内に何件か緊急搬送中に亡くななった事が確認されています、死因は不明その中には『彼女』の友人がいたことも確認済みです」

『呪い』は既に伝播しつつあるって事か、そして皆が皆塚田さんの様にはっきりと『呪い』の痣のような症状が発現していないと。

「何で塚田さんの右手には、はっきりと痣のような物がついているのに他の人には出ていないんですか?」

「それに付いては分からないとしか言えません」

う〜んどうなんだ?女性ばかり『呪う』何て意味があるのか?

専門知識何て大体この世にあるのかも疑わしい、ネットとかにないかなぁ

「さっきも聞きましたが御祓いとか試したんですよね」

「はい宮司2名による御祓いを行ったのですが効果はなかったとの事です」

「土着神がどうとか言ってましたっけ」

そんな話をしてたっけ、ますます俺に出来る事何て無いぞ?そもそもこの『呪い』は何処から来たんだ?

「何か共通点やら何か無いんですか?」

「それにつきましては、お会いして頂きたい方がいらっしゃいます」

「分かりました会いましょう、と言うか早くこの部屋から出たいです」

そう今だに俺達は『これ』がある部屋に居たのだ、その事を思い出しその場を後にした。

小会議室には、お客さんが来ていた。人当たりの良さそうな60過ぎぐらいか?

こちらに気づくと俺に近づき挨拶してきた

「はじめまして郷土資料館館長の田辺と申します」

「八神さんこちらの方が貴方に合ってもらいたかった方です」

「八神です、宜しくお願いします」

手を差し出されたが状況が状況なので、丁重にお断りした。

すると察してくれたのか、語り始めた

「さて八神さん、貴方はもう見ましたね『あれ』を」

「ええ見ましたよ、正直今も信じられませんよ『彼女』の事は」

「土地神様の話も聞かれましたか?」

「土着神の事ですか?」

「まあ正確には土地神様ですね、今この市には厄を退ける程の力を持っている土地神様は、いらっしゃいません」

「それは聞いています、原因は何ですか?」

「15年前この市は市町村合併によって五泉市となりました、その時あろう事か土地神様への祭事を行わなかったのです」

「私は、その時市長と合併前の町長にも進言しました土地神様を疎かにしてはいけないと、結果として合併による目先の利益にしか興味が無いのか聞き入れても下さいませんでした」

「この土地は江戸時代から連なるものです、それから幾度かの長い年月をかけて併合を繰り返し、その都度培われていた土地神様への祭事を行っていたのです」

「15年前、私は危惧しておりました。結果『呪い』が起きました」

そこまで聞いて俺は考え込んだ、そもそも何で今『呪い』なんてものが起きているんだ?

土地神様がいないって事はもう理解した。

そこで俺は

「何故15年目の今起きているんですか?5年目10年目の時は何も起きなかったんですか?」

「兆候は少なからずありました、日照り、長雨そして大雪、しかし一番の『呪い』は『彼女』から始まりました」

ああ左上半身以外『あれ』か

「『彼女』の体調が崩れたのは、14歳の誕生日を迎えた後からの事だそうです。江戸時代女子は14歳を迎えると成人となるそうです、この『呪い』はそれまでの歳月土地神様のおかげで抑えられていた事になります」

「よってこの地に有る『悪意』『憎悪』など祓って抑え込める存在が居なくなり、江戸時代に成人とされていた14歳になったことで『彼女』を媒介として顕現した事になります」

「以上が私の今回派生している『呪い』の見解です」

改めて塚田さんに確認してみる

「塚田さん、今の市長ってもしかして?」

「はい、合併を推進させた当時からの市長です」

ですよねー、そんな気はしていた

「合併前の町長はその後どうなんですか?」

「合併してから4年後自殺しています、遺書なども残されておりませんでした。その後、遺族は別の街へと移ったそうです」

田辺さんが答えた。

「八神さん、それでは私は失礼致します。何か聞きたいことがあれば連絡を下さい」

連絡先を交換し、田辺さんは小会議室から去っていった。

どうやらやらかした所から発生した『呪い』と言う事になる。

どう考えても市長のせいじゃないのかねぇ、そう思いつつも俺は先程の会話を録音したスマホでもう一度田辺さんの話を聞き直しはじめた。

「八神さん何でも良いんです、何かあればそれだけでも前進する事ができるんです」

そんな事を塚田さんは言って来る、あぁこの人も『あれ』の被害者であり娘を持つ母親だっけ。

外は薄暗くなりつつある、もうすぐ閉庁の時間かなど考えながら録音を聞いていると違和感があった。

「まあ正確には土地神様ですね、今この市には厄をxxxxxxxxxxいる土地神様は、いらっしゃいません」

何だろう、田辺さんとの会話でここだけ雑音が入る。よく聞こえないので音量を上げてみた、この部分だけでなくどんどん雑音が大きくなっていく

それを一緒に聞いていた塚田さんの表情が強張っている、俺は手に持っていたスマホの再生を止めようとするが指が動かない。

そしてスマホから聞いたことがないほど悍ましい声が聞こえてきた。

『ヤメロ』

一言だけだがそれは、警告と言うには余りにも恐ろしい声だった。

何とか指を動かし再生を止め画面を見ると、真っ黒の画面に俺の顔そして首には女の手が回っていた。

「なんてこった俺も『あれ』にやられたのか」