喫茶にて
甘いコーヒーを飲んだあと、僕は唐突に思い出して喫茶に向かうことにした。
瞬に「来い」と言われていたのをすっかり忘れていた。恐らく弾かされるだろうからアコギを持っていこう。
でも、これを背負っていくとなんだか諦めきれずに音楽をやってる社会のゴミみたいに自分が見えてきて嫌になる。
それでもいいと思えるほど僕は心が強くない。
一端の羞恥心くらい持ち合わせてるつもりだ。
それでも隠して歩く気にはならないし、こうするしかないのだけれど。
多分普通の人には分からないような勇気で一歩を踏み出す。
僕にとっての一歩は重いものでしかない。
それでも歩み続けることに意味があるなんて言う人もいるけれど僕にはそんなの分からない。
だってその先に何があるって言うんだ。
何も無いかもしれない場所まで歩くのは無駄遣い。
だから今日はマジックアワーだけを頼りにあそこまで行こう。
そうやって自分に言い聞かせないと何も出来ない。
仕方ない。
そういうものだから。
気がついたら喫茶についていた。
僕が子供の頃からあるこの店は、昔はそうでもなかったのだけれど今ではレトロな店の一つだ。
時間が経つと周りの価値観も変わるから。
それでも僕にとってここはずっと変わらず、僕を支えてくれる店だ。
店長が幼馴染の雑なやつになっても。
それは多分、、、変わらない。
「あれ?秋翔さんじゃないですか。」
丁度店からでてきた光哉が驚いたように僕を見る。
「久しぶり」
僕が片手を上げて応じると、
「相変わらず音楽に身をふってる感じですね」
とにこやかに言われてしまった。
図星だから言い返す気は起きない。
こいつとは小学校から知ってる仲だから、例え2つ歳が違っても無礼講な感じがある。
簡単に言うと、結構笑顔で酷いことを言われる。
僕みたいに道を外れて生きている奴からすると痛いしきつい。
「瞬は居る?」
「中にいると思いますけど、、、」
話を逸らすべく僕が言うとあやふやな答え方をされてしまった。
呼んだくせに居ないとかはないと思うけれど、、。
とりあえず入ってみることにした。
「来たか!秋翔」
ドアを開いた直後の大声に僕はたじろぐ。
こんな大声を聞くことはなかなかないから耳が慣れていない。
「して、呼んだ用は?」
「いやー。特にないんだよね」
思わず呆けてしまった。
そんなことのために僕はあんな頑張って外に出たのか、、、。
「この店の外でさ弾かないかなーと思って」
勿体ぶるように、どこか得意げに言った瞬の顔を、僕は目を見開いて見る。驚きと戸惑いと肯定と否定が同時に押し寄せてきた。
「なんで?」
「なんでって、、、お前外出なさすぎなんだもん」
「図星すぎて何も言葉が出てこない」
「まぁ、こっちだって助かるからやってくんね?」
「それのどこが助かるのか分からないから嫌だ」
「ほら、夜って眠いじゃん?」
「それだけ?」
「おう。それだけ」
なんでそんなにドヤ顔なのかが全く分からない。
どこが素晴らしいアイデアなんだ。
そんなの僕に同意を求められたって困る。
「秋翔さん。面倒くさいので弾いてください」
僕が呆れているといきなり背後から光哉に言われた。振り返って見えたのは表情が無くなった光哉の顔。
2つ下にこんな顔させるって、、、。
「この時間なら客もほぼ来ないんだろ?閉めちゃえばいいんじゃないの?」
「それは無理ですね」
「そうだなー。夜って意外と近所の人が、、、ね」
2人に真面目な顔で言われてしまって劣等感に苛まれる。意外とちゃんとしてるのかよ。
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