第21話
リュックサックの紐を握りながら、さりげない素振りでガラス窓から店内の様子を覗く。
あくまで通りすがっただけだと、興味がなさそうな表情で必死にあの子の姿を探していた。
「あ……」
シンプルなホワイトシャツに黒色のスキニー。腰元にエプロンを巻いた葵の姿がそこにはあった。
スタイルが良いため、シンプルな装いもすっかり着こなしている。
その可愛さに何故か望乃の方が誇らしく思ってしまっていた。
本当はもっと近づいてから間近で見たい所だが、お洒落な雰囲気に圧倒されて中に入ることが出来ずにいた。
「望乃ちゃんなにしてるの」
「こ、小夏ちゃん…!?」
同じく制服姿の小夏が、訝しげな表情で望乃を見下ろしている。
店の前でウロウロしているなんて、側から見たら変に思われて当然だ。
「入らないの……て、あれ?高崎葵…あー…なるほど」
店内で接客をしている葵を見て、小夏は全てを察した様子だ。
好奇心旺盛な彼女によってガシリと手を掴まれて、以前と同じようにカフェの中に引きずり込まれる。
「いらっしゃいま……望乃?」
まさか来るとは思わなかったのか、分かりやすく葵が眉間に皺を寄せてしまう。
しかしお客様を前に失礼な態度は取れないのか、小言は言われぬまま席へと案内されていた。
注文したアイスティーを飲みながら、カウンターの席に小夏と二人で並んでいた。
「望乃ちゃん相変わらずお洒落な店苦手なんだね」
「前の店はキラキラしてたけど、ここは大人っぽいから…」
「出た、謎理論。いかがわしいお店じゃないんだから堂々と入りなって」
小夏は笑っているが、望乃は内心先程の葵の態度が気になって仕方なかった。
見るからに機嫌が悪そうで、もしかしたら迷惑に思われてしまったのかもしれない。
せめて一言入れてからやってくるべきだっただろうか。
急に来てうざがられてはいないかと、不安な気持ちが込み上げてくる。
「葵ちゃん仕事覚えるの本当早いね」
葵の名前を呼ぶ男性の声に顔をあげれば、店内の隅で男性スタッフと話すあの子の姿があった。
「……あの店員イケメンだね」
「そ、そうだね…」
同調しつつも、何故か胸はモヤモヤとした想いに包み込まれていた。
美男美女で、とてもお似合いな2人。
絵になるような光景に、複雑な感情を抱いてしまっているのだ。
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