第11話
葵から直接血液を摂取するようになって、最初の頃に比べれば慣れてきたとはいえ望乃はまだまだひよっこだ。
学校休みの土曜日の朝。
朝ごはんとして葵の血液をチュウチュウと吸っていた望乃は、飲み込むタイミングを誤ってむせてしまったのだ。
「けほっ…くるしいっ…」
「もう、何してんの」
言葉遣いは素っ気ないが、背中をさすってくれる手つきは酷く優しい。
すっかり葵の方がお姉ちゃんらしくて、密かに凹んでしまう。
実家では望乃は妹で、葵は真央のお姉ちゃん。
望乃が必死にお姉さんぶろうとしても、長年染み付いた彼女のお姉さんスキルには到底敵わないのかもしれない。
それでもどうにかして葵の前で大人っぽく振る舞いたくて、チラチラと様子を伺う。
朝ごはんを終えてからは各々好きなことをしているのだが、葵は先ほどからずっと机に向かっていた。
日曜日に遊びに行くため、今日中に宿題を終わらせると息巻いていたのだ。
「……疲れた」
そう言いながら肩を回す様子を見て、ピンとあるアイデアが思いつく。
テレビの前で体育座りをしていた望乃は、さりげなさを装いながら葵の近くで足を止めた。
「いま、マッサージしたい気分なんだけど、良かったらしてあげよっか?」
幼い頃も両親の肩をよく揉んでいたため、マッサージには自信がある。
「望乃に出来るの?」
「マッサージくらいできるよ」
不安そうな葵の肩に両手を置いて、手をニギニギと握ってみせる。
しかしあまり反応は良くなく、続いて拳を作ってからトントンと叩いていた。
「加減はどうですか?」
「微妙……もうちょっと強くていい」
「こう?」
「あー…代わって」
「手本を見せるから」と葵が立ち上がり、代わりに望乃が勉強椅子に座らされる。
長時間勉強していただけあって、葵のノートはビッシリと言葉が書き連ねられていた。
勉強熱心さに感心していれば、そっと両肩を握られる。
指ではなくて手のひらを中心に使ったマッサージが始まった。
「んっ…」
全くと言っていいほど肩が凝っていない望乃には、肩を触られるたびにくすぐったさが勝ってしまう。
我慢ができずに、思わず笑みを浮かべてしまっていた。
「くすぐった…ふふ、葵ちゃんくすぐったいってば」
その反応がおもしろかったのか、更に葵の手つきが激しくなる。
左手が肩から首元に移動した時だった。
「ひっ…ぅ…」
途端にゾワゾワとした未知なる感覚が込み上げてきて、情けない声をあげてしまったのだ。
どこか恥ずかしくて誤魔化そうと焦る望乃をお構いなしに、葵は首元を中心にくすぐり始めてしまう。
「やだっ、葵ちゃん…ん、んぅっ…ァッ」
指の腹で撫で上げられるたびに、ゾクゾクと言いようのない感覚に襲われる。
触れるか触れないかの焦ったい触れ方も、余計に望乃をもどかしくさせるのだ。
「あァッ…ッ!」
一際大きい声が漏れ出る。逃れようと体を丸めれば、ようやく葵の手が離れていった。
恥ずかしさから、葵と目を合わせる事が出来なかった。
「……吸血する時人のうなじ触りまくってるくせによく言うよ」
「え…」
「無意識?あれ本当くすぐったいから」
指摘通り、吸血行為をする直前はよく顔を擦り付けてしまうのだ。
唇を這わせて、どこに吸おうか狙いを定めている間、葵はくすぐったくて仕方なかったのかもしれない。
その仕返しでくすぐって来たのだとすれば、葵の気持ちも分からなくもない。
先ほど葵から触れられるたびに、感じたことのない何かが込み上げて来て、どこか息苦しくて仕方なかったのだ。
「ごめん…もうしないから、葵ちゃんもその…さっきみたいな触り方しないで」
「さっきみたいなって」
「なんかその…えっちな感じの…くすぐったくなるやつ」
返事の代わりに返ってきたのは、首筋への暖かい温もりだった。
生暖かく柔らかい感触は、見ずともそれが何か分かってしまう。
先ほどくすぐられて敏感になったそこを、彼女は舌を使って遠慮なく舐め上げたのだ。
「んっ、んぅっ…」
これ以上恥ずかしい声を聞かれるのが恥ずかしくて、必死に口元を押さえる。
しかし自然と漏れる声は我慢できず、堪えるような情けない声を溢れさせてしまったのだ。
そっと舌が離れていくが、望乃はゆでだこのように顔どころか耳まで赤くさせてしまっている。
「やだ」
どこか色気を滲ませた葵の声色に、ドキッとしてしまう自分がいる。
そっと振り返れば、僅かに頬を紅潮させた葵の姿があって。
至近距離で葵の端正な顔を見つめていると、うっかり彼女の魅力に引き摺り込まれてしまいそうだった。
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