【episodes10】想いの涙


彼の涙が枯れてなくなる頃、処置室の扉が開き、キャニスターに乗せられ点滴の針を腕に刺した娘が運ばれてきた。


「ごめんね。ママごめんね。」


麻酔で混濁している娘が何度も詫びる。


自身が流産した時と同じ…。



一番傷ついているはずなのに謝り続ける娘の腕や頭を撫りながら「謝らなくていいのよ。あなたは悪くないのよ。」そう言葉をかけると、


「二人とも明日仕事あるのにごめんね。」娘は一筋の涙を流しながらそう呟き再び混濁の中へと身を沈めた。




涙には二種類ある。



自分のための涙と人のために流す涙。


自らの涙は『1×1』で、それ以上でもそれ以下でもない。


だが、他者を思って流す涙は、嬉しいことは2倍に悲しいことは半分になる。



人は1人では生きていけない。



想い想われる人がいるからこそ共に浄化の涙を流せるのである。

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