【episodes11】結の時


娘の中に宿った小さな命が天に召されてから数年後のことだ。


世界的に感染症が拡大し、多くの人が想像もしていなかった事態がおきた。


感染者は隔離され、家族ですら容易に会うことは許されない。


ましてや法的な繋がりのない場合など、近くで見守ることすら出来ないのである。



それは、娘の子宮外妊娠の時にも感じたことだった。


どんなに心が通っていても親族でない人は『他人』だと判断されるのが実情である。



非常事態宣言が発令され、不要不急の外出を抑制する声が上がる日々。


今まで会えるのが当たり前だった人との繋がりという色がどんどん薄まっていく。




「ねぇ、ママ。結婚って相手にしてあげられることが増えることだと思うの。」


娘の何気ない言葉に心が揺れる。




好き合っているもの同士、結婚という形を取らなくてもいいのではないだろうか。


多様性が浸透しつつある中でおきた突然の外出自粛。


こうなると多くの時間を過ごせるのは家族のみということだ。



娘と私の元に訪れた死という愛するものとの別れは、いつ誰のもとに訪れても不思議はない。



もしも愛する人が自分よりも早く天に召されるとしたら、手を握り頬を撫で見送ってあげたい。


私が先に最期を迎えるのなら、愛する人の腕に抱かれ、その面影を瞼に焼き付けながら旅立ちたい。


この世で最後に触れ合う人が愛する人であるために家族になるのかもしれない。




『三高』なんかじゃなくて良い。


ただ素直なままに、心と身体、魂が求める人と生きていきたい。


それこそが、三高ならぬ『三幸』なのじゃないかな。


そんなことをフッと思った。




人が生まれ、育ち、出逢い、結のときを迎える。


パーツが、どれひとつとして欠けてもパズルは完成しない。



相手を想い涙し、生涯を共にしたいと思える人との出逢いは奇跡そのものなのである。



人類は今一度、『結婚とは何か』『愛とは』『家族とは』という課題について考えるタイミングにきているのであろう。


不安定な時代だからこそ誰とどのように生きるかが大切なのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る