【episodes5】ボーダーライン
「お母さん、ちょっと宜しいでしょうか。」看護師さんが私の前で傅く。
手に持ったファイルには子宮外妊娠の為、緊急オペを行う旨の同意書があった。
緊張する指先でサインをした頃、仕事を終えた娘の彼が病院に到着した。
顔面蒼白で表情は引き攣っている。私の顔を見ると「申し訳ありません。」深々と頭を下げた。
「お身内の方ですか?」看護師さんの問いかけに一瞬の間が開く。
彼らはまだ入籍していない。いわゆる恋人関係だった。
「あ…いえ。」
全てを悟ったような看護師さんが扉に視線を向ける。「では、外でお待ち下さい。」
「あの!」声をかけた私に視線が集中する。
「あの、娘の…娘の婚約者なんです。間も無く結婚することが決まっていて…その、彼も処置室の近くで、私と一緒に娘を待たせていただいても宜しいでしょうか。」
咄嗟に出た言葉だった。
懇願するような彼の視線を感じ、「お願いします。」もう一度看護師さんに視線を向ける。
「原則的にはご家族以外は入室禁止ですが、間も無くご家族になられると言うことなので。」
穏やかに微笑むとバインダーを手に会釈して処置室に向かっていった。
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