7月6日 相園瑠衣の夜 その2

「やばいっ、あれはまずい」


ひと目でわかったことがある。

それはあいつには関わってはならない。

血まみれの部屋の中でヒトなのか動物なのか

分からないが食べているように見えた。


そんな異質な部屋の中でそれは

笑ってるように見えた。

あれは虚像だ。

見てはならないし存在してはいけない。


頭の中で色々な感情がまるで

前菜のスープのようにぐちゃぐちゃに

混ざっている。

もつれそうな脚を必死に前へ出しながら

廊下をかける。

そしてロビーへ続くドアを開けたときだった。


”ドッゴーン!!”

”バキッバキバキィ!!”


後ろから何かが破壊される音が聞こえる。

瑠衣は後ろを振り返り

今かけてきた廊下を確認する。

書斎からロビーへは一本道だが

途中で一度曲がり角を挟むため

書斎は確認できない。

しかしこのとんでもない音は書斎から

出されたものだ。

瑠衣は確信する。逃げなければならない。

一刻も早くこの館から出て安全な場所に。


”ズリズリズリズリ”


「っ!!」


何かが這い寄って来る音がする。

あまりの恐怖に血液が脈動を停止した

ような感覚がある。

頭は熱いのに身体が凍えるように寒い。

もうダメだ。一度足を止めてしまった。

震えて動けない。定在する音に

体を打ち付けられてしまった。


"ズリズリズリ”

”カツカツカツ”


音が近づいてくる。

おそらくそこの曲がり角まで来てしまっている。

何が来る。何が来るんだ。

頭の中で声が反芻している。


(ニゲロ...コノヤカタ二...イテハイケナイ...)


わかっている。

わかってはいるのだが、それと同時に

一度遭遇しなければならないのではないか

という予感があった。

もはや瑠衣にも分からない感情だったが、

ここを逃すと2度とその機会が訪れない

といった妙な確信があった。


”ズリズリ”

”カツカツカツ”


音はもう近い。

次の瞬間、この虚像と出会うだろう。

そして見定めねばならない。

私が何と相対するのかを。


瑠衣にも分からない感情と決意が

真っ直ぐと彼女を振るい立たせていた。

関わっては行けないと直感はしたものの

それと矛盾する行動をとっている。


”ズリ”


「来たっ」


角から頭を出した巨大な黒色

それはおそらくというか間違いなく

巨大な蛇であった。


”カツ”


その巨大な黒蛇の脇から

先程書斎にいた人影が頭を出す。

そしてニヤリと笑って言葉を発した。


「みぃーつけた...」


与えられる情報と状況に

頭がパンクする。

震える足に活を入れ、

瑠衣は廊下を後にした。

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文月の魔女は夕焼けに謳う 未定 @Zumenoko

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