7月6日 相園瑠衣の夜 その1

嫌な予感がした。

喰いつくされる夢

自分がじゃない周りの全員が

同じものを見ているのに

違うものを見ていた

このひと振りでおそらく全部

この過去に持っていかれるのだろう

そんな予感が…

いや確信がある。


「さて、どうしたものか」


屋敷に来たのはいいものの正直何をすればいいかわからない。

瑠衣は今からどちらに向かうかを思案していた。


屋敷は2階建て、2階は大きく北と南に分かれている。

何部屋もある古いホテルのようなお屋敷だ、

加えて1階の東側には大きなリビングのようになっておりその先にはテラスがある。

北側と南側には2階同様いくつも部屋がある。

南側には書斎がありそこが立ち入りが許可されているエリアだった。

北側には地下室へと続く道があるらしいがそこには立ち入ったことがない。


「そういえば昔二階に行ったとき、怒られたな」


数年前、野良猫が2階にかけていったのを見た瑠衣は

それを追いかけて二階の南側へ入ったことがある。

電気はついておらず昼にしてはすごく暗かったのを覚えている。

野良猫は数回ニャーニャーと泣いた後静かになった。


その時だった。


「こらっ!勝手に入ってはいかんではないか!」


後ろから怒号ともとれる勢いで

アダム爺さんが怒鳴っていた。

その形相は今まで見たことのない顔をしてた。

アダム爺さんは決して起こるタイプの人ではなかった。

人を小ばかにしたような態度をとっている

ひょうきんな爺さんといった人だ。

瑠衣が起こられたのはこのときを除いてほかにない。


「ごめんなさい。でも野良猫が…」


「野良猫?わかった後で捕まえて外に出しておこう。

でも瑠衣それは約束を破る理由にはならんよ。

まず、野良猫を見つけたときに僕を呼ぶべきだった。」


「ごめんなさい…」


「わかってくれればそれでいいんだ瑠衣。でも決して2階に入ってはいけないよ」


「どうして2階に入ってはいけないの?」


「それはな金銀財宝がたーんとあるからだ。

お前に盗まれたらたまったもんじゃぁない」


ニヤニヤと笑いながらアダムの爺さんは言った。

瑠衣は子供ながらにこいつはまた嘘をついてるなと思った。

アダムの爺さんは決して金持ちではないと思う。

見てくれや身の回りに金持ちといったイメージがない。

そもそも金銀財宝を隠すならそれこそ

銀行や地下室に預けて黙っているのが得策だろうに。


「じゃぁ、いつかこっそり盗んじゃうんだからね!」


「やってみろやってみろ、だけどなそいつらはとんでもない怪物で

瑠衣なんかは一口で食べられるんじゃぞ!」


「うっ、わ、わたし怖くなんかないもん!」


がははとアダム爺さんは笑っていた。

あぁそんな日常もあったな

どこに行ったんだろうな彼は

案外実は生きていて訃報も嘘でしたなんて

とんでもないブラックジョークを言ってきそうだな。


そんなことを言いながらまずは書斎へ足を運んだ。

仰々しいドアはほかの部屋とは違う雰囲気を醸し出している。

個々の部屋でもいろいろとあったななんて

想いを馳せながらその重たいドアを開けた。







アケナケレバ よかった



トンデモナイ アクシュウ が する



ヒニチジョウ ガ つづキすぎていて


シコウ が テイシしている


すこしづつ このけしき が

現実に戻る。


ぐしゃっ!!


不快な音を立てて液体交じりの固体がつぶされる

血の海になっている書斎の真ん中に

不気味に嗤う、暗いローブ姿の人影が立っていた。


(ニゲロッ!)


頭の中に声が響く

瑠衣は翻り、もつれそうな足で書斎を後にした。

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