二人の魔女は傍観する

「あれね」


「結局、洋館じゃん!なんでよこの数日の調査は何だったのよ!」


「うるさいわね、舌をかみ切るわよ。」


「どうやって舌をかみ切るのよ。」


「あら、あなたがあなた自身でよ。」


「あれっこれって『なんでやねーん』っていうとこ?

これがJapanese Traditionってやつかしら。」


瑠衣が洋館に入っていくときのことだった

二人の魔女は大本命である洋館を見張っていた。

ここのところ活動的に街を見回ってはいたが

やはりたどり着くならここだろうと確信してのことだった。


「で、どうするの?ここからダーッととっ捕まえに行く?

それが一番手っ取り早いし。」


金髪の長い髪をたなびかせながら

一人の魔女が言った。


「だめよ、目的を忘れたの。」


黒髪の魔女が答える。


「目的って誰の目的よ、あなたの目的なら彼女との接触はマストじゃぁないの」


「いいえ、それは必要条件であるが十分条件ではないわ」


「難しい言葉はんたーい!」


「私の目的にもあなたの目的にも彼女はマストじゃないわ、

彼女が協力してくれるのならば当然私たちは"はじまり"に近づけるのだけれど」


黒髪の魔女は顎に手をつき

うつむき名から静かに話す。

その言葉に嘘はない、ただ瑠衣が協力してくれると

してくれないとでは天と地ほどの差が生じる。

それはわかっているがそうはできない事情が彼女にはあった。


そうそれはわかっているのだけれど。


「あなた忘れたの?師匠との約束を。

かなえられるのであればそれは守らないといけない約束のはずよ。

あの時そう胸に誓ったのではなくて?」


「でもどうするのさ、師匠との約束を守りたいんなら

かかわらないのが一番じゃないの?それなのにこんな極東

まで来ちゃってさ。接触する気満々じゃないの。」


「そうよ。私たちはいずれ彼女と接触する。」


「だったら...」


黒髪の魔女の語気が強くなる。

まっすぐに金髪の魔女を見据えそして言った。


「トビラを開けるのは彼女自身よ、彼女の意思でこちら側に来ないのであれば

こちらから招いてはいけないわ。それが師匠の望みでもある。

いいこと"アリス"。初めの初めは彼女自身が手を出すまで絶対にこちらから

手は差し伸べないこと。わかった?」


はーいと金髪の魔女は不服そうに返事をした。

結局そうなるとはわかっていてもこの子は師匠との約束を守る。

彼女自身が決意するまでこちらからはいかなる接触もしないだろう。

ましてやこちらから無断で接触しようものなら

こいつは殺してでも私を止めるだろう。

まぁ殺されはしないのだけれど。

続けて金髪の魔女少しニヤケながらつづけた。


「でもさぁ、それって一度始めたら何でもありってことだよな?」


黒髪の魔女は目をつむりそして静かにコクンと頷いた。

おそらく傍観は今日限り、日が落ちるとともに

彼女はトビラを拓くだろう。

さぁ準備を始めよう。

穴に落ちたアリスには案内役が必要だから。

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