山の上の屋敷 その2
山の上にある洋館
それがアダム・レッドグローヴの屋敷だ。
日本の山にふさわしくない洋館、
ミステリーやサスペンスの中にだけ許された特権を
これでもかと行使する建物が
今、瑠衣の前にはあった。
「結構久しぶりだなこの館。誰もいないって考えると一人は怖いな...」
アダム曰く、すでに相続者は決まっており
資産の心配に関してはこれっぽちもしなくていい。
そもそも僕が死ぬころには瑠衣は独り立ちしているだろうから、
僕の遺産をもらおうだなんて、ましてや
それで極上の無職生活を過ごそうなんて
甘い考えは持ってはいけないよ。とのこと。
瑠衣はそんなことも言ってたなと思い出した。
皮肉なものだ僕がいなくなったらすぐに館に来い
と言ったり、遺産はやらないと言ったり。
本当に身勝手な爺さんである。
瑠衣にとってアダム爺さんは
要約すると「あしながおじさん」である。
ただ母親のいう通り信用はしていなかった。
それもそのはず、かの爺さんは言っていることが二転三転どころか
七転八転するぐらいの男だった。
もう認知症が始まったのか?と時々瑠衣は問うていたが
「これは君の母親への恨みを瑠衣を使って晴らしているところなのだよ、
老人の戯れだ気にするな。」
と言っていた。そのたび瑠衣はむっとするのだが
アダム爺さんはそれを見て満足げに笑うのであった。
そんなアダム爺さんだが、かねてより瑠衣に強く言い聞かせていたことがある
それは
”私がいなくなったら、必ず館へ顔をだすこと”
であった。瑠衣はそのたびになぜと聞くのだが
その答えは一貫して
"安全であるから"
ということだった。
館の前に立ち瑠衣は母親の手紙を思い出す。
”アダム・レッドグローヴは信用してはいけない”
頭の中でその言葉が反響している。
しかしアダム爺さんには感謝している。
嫌味で信用できない男だったけれど、
お世話になったことも事実だ。
お願いの一つでも聞いてやらないと
化けて出てくる可能性もある。
「あの爺さんならやりかねないな」
訃報とともに届いた館のカギを使い
中に入る。大きな扉はギギギと
嗤うようにその口を開いた。
「おじゃましまーす。」
時刻は夕刻。玄関に入ってきたオレンジ色の
光はゆっくりと館の中を映し出す。
その時、相園瑠衣は確実に
この日本には相応しくない異世界の館へと
足を踏み入れたのであった。
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