昼食談話 その3

「なに言ってんだ河野?頭打ったか?」


稀代の大馬鹿赤池に言われたイルカが

むっとしながら答える。


「足りない頭で考えてみろ大馬鹿。そもそも猫の死骸は

現場には発生していないだろ。あるのは現場付近の道だったり

近くの広場だったりとお前自身が言ってたじゃないか。」


「そうだな。」


「じゃあ波江の殺人事件と野良猫の不審死は完全に別の事件ってこと?」


「いや、そうとも言えないと考えててだな…。実は私も見たんだ事件現場とは

まったく関係な場所だったが猫の死骸をな。なんというかだな…」


言葉を濁しているというか伝え方がわからないような河野イルカの

言動を見て篠木が口をはさんだ。


「つまり河野さんは殺人事件に付随して猫の連続死が起きているのではなくて、

猫の連続死に付随して殺人事件が行われてるって言いたいの?」


顎に手をついて考え込んでいる河野イルカが顔を上げて

うなずきすぐに元の体勢に戻る。


「でもそんな奴いるのか。それがマジってんなら、だいぶまがってんぞ、

猫を殺す場面見られたから、人を殺したってことだろ?」


赤池が話す言葉におおむねこの場の人間は納得していた。

我々が思うにヒトはやはり命の価値に順番をつけている。

それは意識するにしても無意識であるにしても。

例えば蚊を殺すのにためらいはないが人を殺すのはためらう。

家畜の動物を殺すが人は殺さない。

これは良し悪しで考えることではない。

ヒトとして生きる我々はほとんどの人がヒトを一番に考えている。

生存競争を強いられる地球にとっては当然のことだ。

何も他の生物を虐げているわけではない。

どんな動物、植物であれ生きることに意味はなく、

それでも生きたいと思うのが当然のことなのである。


そういった無意識化で動いている優劣において

猫とヒトの命が同等(あるいはそれ以上)と考えられ実行できる

人間は少なくともヒトとしては曲がっているのだろう。


「まぁただ考えすぎだな。たまたまだろう。事実は小説より奇なりというしな。」


「ただ少し気になるよね、ここまで事件が続くと今朝の事件も関係あるんじゃって

思っちゃうよね。」


瑠衣の考えはもっともだ。ここまで事件が続き、そこに付随して

猫の死骸が目撃されている。それが関係しているにしろしていないにしろ

意識してしまうのは致し方ないことだ。

それを励ますように篠木は答えた。


「大丈夫だよ。ここ最近は警察もすごく警戒していてパトロールの数も

尋常じゃないし。夜は戸締りして出かけなければ。」


「そこなんだよなぁ…」


そう。相園瑠衣には本日どうしても出かけねばならない用事があり

あぁどうしようかなと葛藤の最中なのであった。

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