昼食談話 その1

キーン、コーン、カーン、コーン

キーン、コーン、カーン、コーン


4時間目終了の鐘が鳴る。

数人の生徒があわただしく教室を後にする。

弁当ではなく購買のパンやおにぎりを昼食にする生徒は

急いで購買に行かないと目的の商品が売り切れてしまうからだ。


「うおりゃぁぁ、一番乗りだぁぁ」


うるさい男子が廊下をダッシュしている。


「こぅらぁ! 廊下を走るなぁぁ!」


教師もつられてダッシュする。


「毎日毎日、われらの姫は飽きないねぇ。」


そんなことを言いながら遠藤えんどう 美園みその

が慣れた手つきで私の机に隣の机をくっ付ける。

美園は私の親友で昼食三人衆の一人だ。


私も私でカバンから昨日の残り、

もとい本日の昼食を取り出し話始める。


「まぁ平和なことはいいんじゃない。

もし姫が追いかけっこをやめちゃったら、明日には雪が降るからね」


「まぁ、そりゃあたしも否定はせんよ。ただ平和ってのはどうなのかな。

ここ最近、べらぼうに物騒だぜ。」


「美園それは波江の殺人鬼の話かな。」


そう言って声をかけてきたのは昼食三人衆が一人、河野かわのイルカだ。

今日も今日とて戦利品のパンを持ち私たちの席に合流する。


「さすがだなイルカ。今日も難なく昼食戦争に勝利か」


「あぁ、戦とはほら貝が鳴る前に決するのが私の流儀でな。

そもそもまっすぐな戦い方では私は昼食戦争には勝てんよ。」


「違いない。そもそも女子じゃ、あん中に入ることができるのは

私ぐらいだからなぁ」


がははと自信満々に美園は言うがその言葉に嘘はない。

人呼んで"城ケ崎の黒い閃光"遠藤 美園

男子顔負けの水泳部のエースだ。

昼休憩にできる購買前の大渋滞人プール

難無くかき分け戦利品を奪取する。

廊下を走るスピードも人をかき分けるその力も

叶うやつはまずこの波江市には存在しないだろう…


「さて」


河野イルカはつづける。


「今朝の話は知ってるか。噂とは怖いものでな。

そのなんだ波江の殺人鬼は次はうちの学徒を手にかけるそうだ。」


「なんだよそりゃ。ずいぶん急な話だなおい。

それ誰が流した噂なんだ。愉快犯なら承知しないよ。」


美園は運動部だが。波江の殺人が始まってからは運動部は中止。

部活もない状態ですぐに帰宅することが義務付けられている。

そのせいか大会前の運動部は波江の殺人鬼許すまじといった気概だ。


「今朝の話か…」


「何か知ってるのか瑠衣?」


問いかけたイルカの言葉に黒羽先輩の言葉を思い出す。


「なぁ、こんな噂知ってるか?

今、この街に猫を殺す殺人鬼がいるって噂…」


「それって波江市で起きてる連続殺人の話ですが。」


「あぁそうだよ。あくまで噂話なんだが、殺人の起きた現場では

ことごとく猫の死骸が発見されてるらしい。」


「こんな小さい町だ殺人が起きたとなったら現場に野次馬が集まるんだよ。

そこにな、そういうもの好きなうちの生徒が毎回見に行ってるんだって。」


まったく、ご苦労なことだと言いたげな表情で先輩はつづけた。


「そこで毎回見るらしいんだよ猫の死骸を」


「でもそんな話本当なんですか。

本当だとしたらテレビとかで報道されてそうなものですけど…」


「あくまで噂だ。私も信じちゃいない。

ただね実際こんなことがあるとね考えずにはいられないもんだよ。

ほら、嫌な予感ほど当たっちゃうもんだからね。」


「そうですね。早く捕まるといいんですが。

こんなんじゃおちおち外で買い物もできませんからね。」


「そうだな。」


なんて作り笑いをしながら。優しく黒羽先輩は私をみた。

いつも気さくな先輩だが目の奥は笑ってなかった。









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