7月6日 相園瑠衣の朝 その2

坂道を下り市街地を歩いて約5分

少し開いた場所にある都心の学園に比べると

大きい高等学校

それが彼女、相園 瑠衣が通っている高校

城ケ崎学園だ。


朝のホームルーム30分前

相園瑠衣は正門に到着した。

正門を抜けるとすこしだけ庭があり

その先に本校舎がそびえたっている。


庭の隅の花壇の前でゴソゴソと作業をする

見知った女子が一人。気づいた相園は声をかけに

近寄った。


「おはようございます。黒羽先輩」


気づいた女子は少しビクッとした様子で

振り向き、答える。


「なんだ相園女史か。おはよう。」


「先輩今日は早いんですね。まだ30分前ですよ?」


「何言ってるんだ。君だって同じ時間にここにいるじゃないか。

そもそも私はいつも早いんだぞ。なんたって朝練があるからな。」


「なるほど。で朝練さぼってここでどんな悪だくみをしてたんですか?」


「おいおい、私を何だと思ってるんだ君は。」


何を隠そう相園から見た黒羽先輩はおしとやかの対義語である。

天真爛漫、質実剛健元気で絡みやすいいい先輩であり、

時々買い食いをして帰る悪友なのだ。


「何ってちょっとな。あんまり見て気分のいいものじゃないぞ。

さっさと校舎に上がりな。」


「見るなっていうと気になるじゃないですが。」


少し背伸びをして先輩の後ろの花壇を見る。

先輩の陰に隠れていたそれが視界に入った。


「うそ...」


視界に入ったのは猫の死骸だった。

花壇の上でばったりと野犬にでも襲われたのだろうか

血が流れ花壇のレンガ部分が少し赤黒くにじんでいるように思えた。


「知ってるか知らないけど、うちの部活は朝練は自由参加なんだ。

だから朝一番に来なくてもいいし、何なら参加しなくていい。」


「それがある意味仇になっちゃったんだな。先生の誰かが発見する前に

後輩が見つけっちゃったみたいで泣きながら運動場に走ってきたんだよ。」


先輩はつづけた。


「ここにこのままってのは忍びないだろ。だから今どこかに埋めていいかって

許可を取りに行ってるんだ。それでもだめなら寺岡山に埋めに行くかだな。」


「でも珍しいですね。ほら猫ってこういう時、人知れずっていうじゃないですか。

野犬とかに襲われたんですかね。かわいそうに。」


「………」


黒羽先輩は黙っている。こんなことが起こった後だ

気を落としているのだろう。生物の死に触れるということは

それが人間にとって身近になってしまえばしまうほど

帰ってくる反動も大きくなる。

猫や犬なんかはその典型だ。関係なくとも気が重くなるのはわかる。

重い空気の中、先輩が切り出した。


「なぁ、こんな噂知ってるか?」


「どんなですか?」


神妙な面持ちの彼女はつづけた


「今、この街に猫を殺す殺人鬼がいるって噂…」

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