小さな世界2
――――――
朝、アラームの音で目が覚めた。ダブルサイズのベッドに一人で寝ているのに、寝ているうちに私の横には一人分の隙間ができている。その隙間はまるで、私の心の隙間がそのまま形になったようだ。
杏奈がいない朝に、私はまだ慣れない。
歯を磨こうと洗面台に行くと、そこには二本の歯ブラシが並んでいる。私のは水色、杏奈のはピンク。思わず、ピンクの歯ブラシを手に取ろうとして、俯く。やめよう、そんなことしても何の意味も無い。ならばせめて、少しでも杏奈の痕跡を残しておいたほうがマシだ。
支度をして、家を出る。
「……いってきます」
返事など無いとわかっているのに言ってしまう。もしかしたら、返ってくるんじゃないかと期待してしまう。
杏奈が家を出て、三日が経った。
――――――
「はぁ……」
午前の授業が終わり、昼休みに入った。思わず、ため息がもれてしまう。
朱音ちゃんに私のことがバレてから、朱音ちゃんからの攻めが加速している。ある日の登校中なんかは、後ろから突然耳元で囁かれた。
その日はいつも通り、携帯ゲームをしながら電車に乗っていた。すると、いつの間にか朱音ちゃんが後ろに立っていたのだ。
「芽衣先輩」
「……っ!?」
驚きすぎて、倒れそうになった。すると朱音ちゃんの腕が、私を支えた。
「ちょっと、大丈夫ですか?」
「や、うん。大丈夫。ごめん。ありがとう」
顔が近い。何でこんないい匂いするの? 髪型、下ろしてるのもかわいい。目元のメイクいつもと違うけど変えた?
一瞬で様々な思考が駆け巡るが、それは口には出さずなるべく冷静に対応する。しかしその後も、事ある毎に朱音ちゃんは私に攻撃を仕掛けてくる。雪たちを含め皆で行動してるときも、何かあると不意に耳元で「今の、今夜の配信で言いますね」とか囁いてくる。そして本当に言う。ネタバレはやめてほしい。
とにかく、本当に困っている……いや、喜んでない。本当に、困っている。
杏奈のことが好きだったことは関係ないと言いたいけれど、本音を言うとそれも関係ある。もちろんちゃんと考えて整理した気持ちだけれど、かと言ってすぐ次、というわけにはいかない。そもそも、それじゃあ朱音ちゃんにも失礼だ。
やっぱり配信者と視聴者という立場がある以上今のままではいけない。一度しっかり朱音ちゃんと話さないと。
とりあえずお昼を食べようと雪の方を見ると、雪も雪であまり元気が無さそうだ。修学旅行以来、あまり杏奈と話しているのを見ないからそのせいだろう。
「雪、どうかした?」
「芽衣……うん、ちょっとね」
話を聞くと、やはり杏奈のことだった。これは正直、もう見守るだけだろう。きっとこの二人なら大丈夫なのだから。
「ほら、迎えに来たよ」
廊下で杏奈が手を振っているのが見えて、雪を送り出す。とりあえずお昼は一人で食べようかと思っていると入れ違いで来たのか、朱音ちゃんが廊下にいるのが見えた。
芽衣先輩のクラスに行ってみると、ちょうど雪先輩と杏ちゃんが二人で出ていくのを見かけた。見るからにいい雰囲気で、ちょっと羨ましく思った。
案の定、教室では芽衣先輩が一人でいて、すぐに目が合った。私が笑いかけると芽衣先輩は少し迷ってからお弁当を持って私の方に来てくれた。
「どうしたの? わざわざ」
「え? 芽衣先輩とお昼食べたいなって思ったんですよ」
「そ……そう」
赤くなった。かわいい。
学食に移動し、私はオムライスを注文し芽衣先輩の隣に座った。三年生が受験で忙しいからか学食を利用している生徒は少なく、空席が目立った。
「芽衣先輩、オムライス一口どうぞ」
「えっ、いや、それは……」
「どうぞ」
私がぐいっとスプーンを向けると、芽衣先輩は周りを気にしてから渋々食べた。一口が小さくて、それもまたかわいい。
「ふふ、芽衣先輩。ケチャップ付いてますよ」
口の端を指で拭い、そのケチャップを舐めた。それを見た芽衣先輩は真っ赤になって震えている。
「な、な……」
「どうしたんですか? お弁当、食べないんですか?」
ちょっとからかいすぎかな。と思いつつも、芽衣先輩のリアクションを見ているとついついやりすぎてしまう。何なのだろう。この不思議な感覚は。わからないけれど心地よくて、溺れてしまう。
「あ、朱音ちゃん。さすがに、それは……」
芽衣先輩が真っ赤な顔で、私の制服の裾を握ってきた。目は潤んでいて、声も震えている。その表情がたまらなくて、もっと見たくなってしまう。
「……嫌なんですか?」
「嫌、とかじゃなくて……」
「芽衣さん……もっとその顔、見せてください」
どうしたら、もっと見れるだろう。この人の苦しそうな表情を。
「あ、かね、ちゃん……」
直感的に、体が動いていた。気づいたら、芽衣先輩の唇に、自分の唇を重ねていた。柔らかい感触だけがある。それ以外は、何も感じない。
「……はっ、はあ」
唇を離すと同時に、お互い息が漏れた。芽衣先輩の大きな瞳からは今にも涙が落ちそうだ。
なんて、綺麗なんだろう。このまま……
「……っ!」
気づいたら、私は椅子から落ちて床に倒れていた。いや、芽衣先輩に押されたのだ。見上げると、芽衣先輩が立ち上がっている。前髪で隠れて、顔は見えない。
「最低だよ……こんなの……」
「え……?」
一気に、頭が冷えてきて自分がしたことを理解した。私は、何を……
「ご、ごめんなさい。違うんです。私、その……」
「もう、いい……」
芽衣先輩はお弁当を片付けると、さっさと出ていってしまった。
残された私の前には、冷めたオムライスがあるだけだった。
学食から無我夢中で飛び出し、教室に駆け込んだ。唇にはまださっきの感触が残っている。赤くなった目元も洗いたくて、一旦トイレに入った。どんなに洗おうと、唇の感触だけは消えなかった。
あの時、抵抗しなかった自分に腹が立つ。朱音ちゃんに迫られて、喜んでいたのか。私が本気で抵抗しないから、朱音ちゃんもやめ時がわからなくなってしまったのだろう。
本気で抵抗しなかったのは、私が朱音ちゃんに心の隙間を埋めてもらおうとしていたからだ。杏奈の代わりだとでも思っているのか。そんなの、失礼すぎる。先輩としても、視聴者としても、私は最低なことをしてしまった。
――――――
「……うーん」
ここ最近、放課後になると杏奈は図書室で勉強をしている。朱音ちゃんも以前はたまに来ていたのだが、あれ以来姿を見てない。
「……そこ、過去形じゃない?」
「え? ああ、そっか。ありがとう、芽衣」
杏奈は何だかんだ、勉強はやれば出来るタイプだ。今まで真面目にやってなかっただけで、ここ数日の伸びは大したものだと思う。何でも、雪の誕生日を一緒に過ごすために頑張っているらしい。
「あー、あのさ。芽衣」
勉強が一段落着いたのか、杏奈がペンを置いて話しかけてきた。
「えっと……朱音と何かあった?」
「えっ……な、何で?」
「いや、さっきここ来る前に朱音に会って、図書室行こうって誘ったんだけど……何か芽衣に会えない、みたいな事言ってたから」
朱音ちゃんが、そんなことを……
私のせいで、朱音ちゃんに罪悪感を感じさせてしまっている。やっぱり、ちゃんと話したほうが……でも、もう私なんかが話すことなんて……
「あんまり、私がとやかく言うのって良くないとは思うんだけどさ……朱音があんなに誰かと仲良くなろうとするなんて珍しいんだよ」
「そ、そうなの?」
そう言われてみれば、配信の初期の頃は今ほど明るい性格ではなかった気がする。
「うん、だから芽衣のことはかなり気に入ってるみたい。えっと……違ってたらあれなんだけど。芽衣、私と雪に気使ってる?」
「え、いや……そう思う?」
「ちょっと、ね。ごめんね。せっかく、修学旅行で芽衣が頑張って話してくれたのに……私たちに気づかせてくれたみたいに、芽衣も芽衣の気持ちに正直になっていいと思うよ」
本当に、いいのだろうか。こんな私でも、隣にいていいのだろうか。
「いい、のかな……」
「それは、朱音に聞いてみないと」
――――――
その日の夜、久しぶりに朱音ちゃんの初回の配信を聞いた。初期の頃の配信はほとんどアーカイブが残っていないのだが、これだけは朱音ちゃん自身が忘れない為にと消されていない。朱音ちゃんは戒めだと言っていたけれど私にとっては宝物だ。
『あ……えっと、よろしくお願いします。朱音です』
今と比べ、自信の無さそうな声。無音の時間も多く、お世辞にも聞きやすいとは言えない。それでも、私は彼女から大きな勇気を貰った。
『じゃあ……そろそろ、終わります。皆さんに、元気を与えることはできないかもしれないけど、せめて明日は、今日よりちょっと大きな声でおはようって言えたらいいなと、思います』
そう言い、音声は終了した。そうして朱音ちゃんは毎日少しずつ勇気を出して、今ではあんなに明るくなったのだ。
私もその姿を見て、昨日より少しでも前向きになろうと思えた。そうだ。朱音ちゃんから貰った勇気なんだから、朱音ちゃんの為に使おう。
意を決して、朱音ちゃんにメッセージを送った。
『明日の放課後、図書室に来てほしい』
――――――
「ただいま……」
真っ暗な家に、私の声だけが響く。電気を付け、カバンを置く。
つくづく、この家は一人には広すぎると感じる。それにどこを見ても、杏奈との生活の跡があって、余計に杏奈の不在が際立つ。
冷蔵庫には作り置きのおかずが何品か残っている。杏奈が好きなおかずだけは、未だに食べられない。
もう、限界かもしれない。ずっと張り続けていた糸が、切れてしまった気がする。この家は、あまりにも杏奈のことを思い出しすぎてしまう。泣いちゃダメだと思うほど、目頭が熱くなってくる。
何もする気が起きずベッドに倒れ込んでいると、玄関の鍵が開く音がした。
「雪ー、ただいまー」
玄関から声が聞こえた。私は反射的に走り出していて、玄関に立つ杏奈の胸に飛び込んだ。
「杏奈ぁ……」
「ゆ、雪? どうしたの」
「寂しかった……」
杏奈が大学の研修旅行に行って三日間。私は生まれて初めての一人暮らしを経験した。それはもう、寂しかった。
「あー、あんまり連絡もできなかったもんね。ごめんね」
杏奈が頭を撫でてくれるけど、全然足りない。三日間で抜けてしまった何かを補充するにはしばらく離れられそうにない。
「……あの、雪? そろそろ玄関から移動しない?」
「…………」
「雪さーん、すみませーん」
私が黙っていると、杏奈は仕方ないなというふうにため息をついて、私を抱きかかえた。杏奈はそこまで力持ちじゃないけれど、こういう時は頑張ってくれる。それが嬉しくて、私は杏奈に頭を擦り付ける。
「雪、あんま動かないで……きつい……」
杏奈は腕を震わせつつ、私をソファまで運んだ。
「……ベッドじゃないの?」
私が不服そうに言うと、杏奈は顔を赤くした。
「え、いや……雪もお腹すいてるでしょ? 先にご飯……」
「今は、杏奈がいい……」
何よりも、それが満たされないと私はダメらしい。杏奈は少し悩んだ顔をした後、また私を抱えた。
――――――
図書室では数人の生徒が勉強をしていて、シャーペンがノートを走る音だけが静かに流れている。私もその音に混じりながらペンを進める。勉強に集中していると気持ちが落ち着いてきて、冷静になれた。
朱音ちゃんからの返信は『わかりました』の一つだけだった。それでも正直、来てくれるか不安だ。あれ以来朱音ちゃんは配信を行っていない。それも私のせいだと思うと、他の配信を楽しみにしている人たちに申し訳なくなる。
しばらく待っていると、私の横に誰かが立っている気配がした。通りたいのかなと思って椅子を引いたが動く気配が無い。どうしたんだろうと見上げてみると、それは朱音ちゃんだった。
「ど、どうも……」
「あ……ごめん。気づかなくて」
私が立ち上がると、朱音ちゃんは一歩後ろに下がった。常に私と一定距離を保っている。目も合わせようとしない。無理もない。そもそも、来てくれただけで感謝しなくては。
「えっと……ちょっと場所変えていい?」
朱音ちゃんは小さく頷き、私の後ろに着いてきた。図書室の受付の裏に回り、扉を開ける。この奥は図書委員の作業部屋になっていて、他の生徒は入ってこない。図書室内で話すのは迷惑になるので、ここにした。
扉を閉めて、朱音ちゃんに向き直る。朱音ちゃんは依然、離れた場所に立ってこちらを見ない。
すーっと息を吸って、決心して口を開く。
「ごめんなさい」
私と朱音ちゃんの声が重なった。お互い、同時に同じことを言った。朱音ちゃんは驚いた顔で私を見ている。私も、きっと同じ顔をしているだろう。
「え……何で芽衣先輩が謝るんですか?」
「いや、むしろ何で朱音ちゃんが……」
「だって私、芽衣先輩にあんなことして……」
「それは私が抵抗しなかったからで、朱音ちゃんは悪くないよ」
「違います。私が調子に乗って……芽衣先輩の気持ちも考えないで」
何故か、お互い自分が悪いと思いあっているらしい。このままでは埒が明かない。本当はもっと順を追って話そうと思っていたんだけど、もう言うしかない。
「……私は、朱音ちゃんのこと、好きだよ」
「え……え?」
「ごめん。急に……そもそも、私はただ朱音ちゃんの配信が好きだっただけなのに……」
「いや、待ってください。だって、あのとき……最低だって……」
「え? あ、あれは、先輩って立場を利用して朱音ちゃんの近くにいる自分が、ずるいと思って……ごめん。あのときは動揺してて、ちゃんと話せなくて」
「いえ……はあ、よかった……芽衣先輩に嫌われたと思って、私……」
朱音ちゃんは緊張が解けたのか、ペタンと床に座り込んだ。私も屈んで、目線を合わせる。
「……あのね、実は私、ずっと杏奈のことが好きだったの」
「え……そうだったんですか」
「うん。でも杏奈が雪のこと好きだってわかって、雪も杏奈のことが好きで……気を使ったわけじゃないよ。私にとって、杏奈も雪も大切な友達だから、何も後悔はしてない」
朱音ちゃんは少し苦しそうな表情を見せたが、黙って私の話を聞いてくれている。
「けど、まだ整理しきれてなかったみたいで……朱音ちゃんに対する気持ちにすぐに向き合えなかった。私はただのファンで、これは憧れだと思ってたから」
「ごめんなさい。私、そんなこと知らずに。好き勝手なこと……」
「ううん。私が初めからちゃんと朱音ちゃんと向き合えばよかったの。それで、その……朱音ちゃんは?」
朱音ちゃんは少しびくっとしてから一瞬目を逸らして、私に抱きついてきた。あまりの勢いに倒れそうになるが、尻もちをついて受け止めた。
「ありがとうございます……私も……芽衣さんのこと、好きです」
ありがとうは、私の方なんだよ。私に勇気をくれたのは、朱音ちゃんなんだから。
――――――
初めは、からかう気持ちだけだった。自分の配信を聞いてくれてる人が身近にいることが嬉しくて。そのうち芽衣さん自身に興味が湧いてきて、線引きがわからなくなってしまった。
好きなタイプ、深く考えたことは無かったけど同世代にはいないと思っていた。もっと大人で、包容力のある人がいいと思っていた。
けれど今、私の腕の中にいる人は私より小さくて、臆病で、かわいくて、勇敢な人だ。きっと好きなタイプなんて無くて、私には芽衣さんしかいなかったんだ。今はそう思えてしまうほど、この気持ちに溺れていたかった。
「朱音ちゃん、ちょっと苦しい……」
「……離れたくない、です」
芽衣さんが頭を優しく撫でてくれるから、その心地良さから逃れられない。二人して床に座ったままくっついて、結構な時間が経っている。
「その……そこで話すと、耳が……」
「え……?」
言われてみると、芽衣さんの耳が赤くなっている。そういえば、芽衣さんは耳が弱かった。思わずもっと赤くしたくなるけど、そうやって調子に乗って痛い目を見てる。恐る恐る、確認をとってみる。
「嫌、ですか……?」
「い、嫌じゃないけど……なんか、ぞわぞわする」
「……嫌だったら、言ってください」
好奇心の赴くまま、芽衣さんの耳に触れる。
「ひゃっ……あ、朱音ちゃん……」
芽衣さんの身体が跳ねて、私にしがみついてくる。
もう少しだけ……近づくほど、足りなくなって、もっと欲しくなる。
芽衣さんの真っ赤な耳に、唇を当てた。
「ふぁ……っ、」
芽衣さんは自分の口から出た声に驚いたようで、慌てて口を塞いだ。
「だめ。塞がないで」
「な、なんで……」
ゆっくりと芽衣さんを床に寝かせ、口を塞いでいた手を抑えて、露になった唇を頬張る。隙間からどちらからともなく声が漏れて、体温が上がる。
唇を離すと、お互いの唾液が糸を引いていて、それが滴り芽衣さんの口を汚した。
「は、あっ……」
「芽衣さん……かわいい……」
まだ、足りない。溺れるほどに乾いて、もっと欲しくなる。
芽衣さんのブレザーのボタンを外し、リボンを解いた。ワイシャツのボタンを外していくと、芽衣さんの鼓動が伝わってくる。
グレーのキャミソールが見えた頃、頭の中で何かが切れる感覚がした。
その瞬間、静かだった部屋にチャイムの音が響いた。
「……っ!」
下校時刻を知らせる放送が流れる。その音で、一気に現実に引き戻される。
「わ、私また……ごめんなさい、芽衣さん」
「え、あ、うん。いや、えっと……」
芽衣さんは慌ててワイシャツのボタンを閉めている。それを見て名残惜しく思ってしまう。
「ごめんなさい、本当に……」
怖くて、何度も謝ってしまう。芽衣さんの口元と耳をハンカチで拭う。
芽衣さんはその手を握って、伏し目がちに呟いた。
「もっと、したかった……」
「え……」
「びっくりしたけど……その、気持ちよかったから……」
「ほ、本当ですか?」
「で、でも、学校ではだめ。見られたら大変だし……」
「そ、そうですよね」
少し期待してしまった。いやいや、ダメに決まっている。場所は考えないと。
「……でも、ここは、誰も来ないけど……」
「え……ど、どっちですか? いいんですか?」
「だ、だめ! やっぱりだめ! 恥ずかしい……」
「でも、誰にも見られないんですよね?」
「そう、だけど……だめ。あ、朱音ちゃん。だめだって……!」
芽衣さんとの距離をつめる。もうちょっとだけ、この小さな世界を私たちだけの物にさせてもらおう。
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