第6話 転生失敗?3度目の人生

 転生ロードにきた私は閻魔大王に言われたことを無視して配っていた水を飲むふりをしてコッソリ捨てた。


 そしてまた神様が他の赤ちゃんに転生する家族リストを配っている中、私のとこには配られないまま転生していた。これは記憶を残したまま転生しようとした罰なのかとビクビクしていると、また暖かいお母さんの子宮の中へ意識が移っていた。


 今回も暖かくって気持ちいいと余裕をぶっこいていると隣にも赤ちゃんがいた。それも人間ではない。

「犬の吠える声が聞こえる。でも人間の声もする」

でもどう考えても横にいる赤ちゃんは人間ではない。


 落胆した。人間でなければ異世界転生どころかゲームの作成さえできない。どうやら記憶を残したまま転生していたことを閻魔大王にバレていたみたいだ。

「これは罰なのか?」

泣きそうになった。


犬の妊娠期間は約3ヶ月であっという間に出産となった。

「あなた!ラブちゃんが出産体勢にはいったわ」

そういうと次々に子宮の中にいた赤ちゃんは外へと飛び出した。

そしていよいよ私の番だ。

「見て!この子だけ真っ黒よ」

どおやら私だけが真っ黒みたいだ。まだ充分に開かない目を凝らして周りを見るとお母さんも他の仔犬たちも白い色だ。まるで前の人生の時に見た醜いアヒルのこのようだ。でも、そのアヒルは大人になった時に綺麗に羽ばたいて行くから…

 その後出産が続き、無事ラブラドールレトリバーの赤ちゃんが10匹産まれた。私のこれまでの人生の中で初めての兄弟姉妹である。それも10匹も!それからと言うもの、生きるために毎日お母さんのおっぱいミルク争奪戦に明け暮れていた。

 私は真っ黒の女の子で他の子より小さかったため、なかなかお母さんのおっぱいにありつけていなかった。

「またブラちゃんおっぱいにありつけてないわ」

「そうだなぁ、ミルクを作ってあげようか」

 ちなみにこの家族からはブラちゃんと呼ばれて可愛がられている。ブラックのブラと、お母さんの白い毛並みと真反対だからブラだそうだ。ご主人様がミルクを作ってくれて飲ませてくれた。


 徐々に大きく成長した兄弟たちは、違う飼い主たちに引き取らせていったのだが、他の子より小さくって手間のかかる私だけがこのままお母さんのラブちゃんと一緒に暮らせることになった。


 お母さんは優しくっていろいろなことを丁寧に教えてくれた。おしっこの仕方から散歩の仕方も全て。 いらずらをしたらお母さんからもご主人様たちからも相当怒られたが、ご主人様たちもたくさん散歩に連れていってくれて、何ひとつストレスのない毎日を過ごすことができた。そう、人間の時よりもストレスがないのだ。ある意味犬に転生できたことはラッキーだったのかもしれない。


 何年かがたちお母さんの調子が悪くなった。ご主人様たちもすごく悲しんでいる。私も凄く悲しくなって毎日お母さんの横から離れなかった。

「お母さん早く元気になってよ」

「ブラちゃん、もうお母さんは寿命が短いみたい。」

「そんなこと言わないで。お母さんとずっと一緒にいたい。お母さんのことが大好きだよ。離れたくない」

「わがまま言わないの。もしお母さんが亡くなったらご主人様を守るのはブラちゃんなんだから。」

悲しくなってずっと泣いていたら、お母さんの様子がおかしいことに気づいた。

「お母さん、大丈夫。」

「もうダメかもしれない。ブラちゃんやご主人様たちのおかげで幸せな犬人生だったわ」

「お母さん行かないで。」

「…。」

「お母さん何か喋ってよ」

「…。」

お母さんは目を瞑ったまま起きなくなった。

 犬には霊が見えると言うが、それは本当で散歩中に霊を見ることがあった。人間時代は全く霊感が無く、まさかこんな公園の片隅や動物病院の待合室に幽霊がいるだなんて思ったこともなかった。今の私なら、最初の人生で迷惑をかけた両親やその時に産んだ子供たちに会えるかもしれない。お母さんの体から魂が抜けていくのが見えた。普段は誰だかわからない霊的な物が見えているが、こんなに身近な霊は初めてだ。話しかけていいのかな?私のこと覚えているかな?

「ブラちゃん。お母さんは死んだけどいつもみんなの事皆守っているよ」

お母さんが話しかけてくれた!

「お母さん!私、お母さんの分までご主人様たちを守るから!!」

「あら、さっきまであんなに泣いていたのに頼もしい事」

お母さんと喋っているとご主人様たちもこっちに来た。

「えっ!!」

「ラブちゃん!?息してない」

「なんで今なの?お別れもまだ言えていないのに。」

ご主人様たちも号泣しだした。

 どうやら今は夜中の4時でご主人様たちは居眠りしてしまっていたようだ。


「お母さん、もう霊界に行かないと行けないけどご主人様たちが心配だわ」

とお母さんはずっとご主人様たちのそばから離れられずにいた。

「大丈夫だよ。私がしっかり守るから」

お母さんはもう少しだけと言いながら1日中側にいた。


1週間ぐらい暗い雰囲気が続くかと思いきやお母さんが亡くなって次の日に、

「ずっと泣いてたらラブちゃんも心配して天国に行けなくなってしまうから、今日からは泣くのはやめよう。ちゃんとラブちゃんを天国にお見送りしてあげよう。」

「そうね。私たちがずっと泣いていたらラブちゃんも悲しむわ」

やっぱり素敵なご主人様たちだと感心していると

「ブラちゃん。後のことは宜しくね。お母さんはやっと心置きなく霊界に行けるわ」そう言うとお母さんは鏡の中に消えていった。


 お母さんがいなくなってからは、私もご主人様を守らなきゃと頑張るようになり前よりたくましくなった。ご主人様たちもたくましくなった私を自慢なのか、散歩で仲良くなった人に自慢していた。

 5年ぐらい経った時に、お母さんの最後の約束通り、常に散歩中は警戒してご主人様を守っていると、子供が猫を追い掛けて公園から出て道路に出そうになったのが見えた。

 危ないと思って体が勝手に動いていた。

 急に走ったものだから、強い力で引っ張ってご主人様が持っていたリードが手からこぼれ落ちた。


「危ない!!」

前から車が子供とぶつかりそうになり私は気づいたら子供を突き飛ばし車とぶつかっていた。

 相当な痛みが体に走りご主人様たちやその子供の親がこっちに向かってくるのが、ぼんやりと見えた。

「ブラちゃん!今すぐ病院に連れて行くからね」

と涙ぐむご主人様たちを見ながら意識がなくなった。


 気がつくと、またフワフワと体が浮いていた。

「また死んだのか。今回の転生は犬だったけど最高に幸せだったな。」

そう思いながらご主人様たちが泣き止むまで側にいた。





…。

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