第9話

それから月日が流れる。

彼女は辛抱強いようで、俺を急かすこともなかった。

だから俺は来る日も来る日も考え続けた。

そして日に日に、彼女のその告白を受けてもいいかもという気持ちが大きくなってきた。

いや、今はもうその程度にいない。

今の俺は彼女と未来を歩むつもりでもいた。

つまり、彼女と同じように常識を俯瞰するという享楽を棄て、それの中に入り、時には信念とそれの相克に悩みながら生きることに決めたのだ。

しかし、時期はもうとっくに高校三年生の秋へと突入していた。

だから俺はもう彼女は気変わりしてしまったのではないかと心配して、言い出せなかった。

そんな時、俺のスマートフォンに電話が来る。

内容は彼女が病床に伏してしまったからお見舞いに来てほしいとのことだ。

俺はそれを聞いた瞬間すぐに飛んでいった。

何があったのか心配でならなかったからだ。

それほどまでにもう、彼女が俺の心を占める割合は高かったのだろう。

俺は指定された病室へと飛んで入った。

そこには、青白い蛍光灯に照らされて、まるで今までの生涯を振り返るように遠い目をして真っ暗な外を眺める彼女がいた。

俺は彼女の方へ走り寄る。

すると彼女は一瞬驚いたような顔を見せて、すぐにいつも会うような笑顔に戻った。

「あ!瓜生君!こんな夜遅くに——」

「おい美咲!一体どういうことだ!」

「……やっと名前で呼んでくれたね……これが最後なんて……」

そう言って彼女は語りだした。

聞いてみると、彼女には昔から心臓に持病があったらしい。

そして余命も。

今回はその持病が急に悪くなった。

そして余命も……

本当は二十歳ぐらいまでは生きられるはずだったのだが……

「……私の告白の答えは仏壇ででも言ってよ。別にこの世にいるときに聞きたかったわけじゃないからさ……それに……天国での楽しみも増えるでしょ?」

そう言うと彼女は奥にある悲しさを隠すように無理矢理笑った。

俺はそんな彼女を見て泣きそうになる。

どうして寄りにもよって彼女なんだろう。

この時ばかりはこの世を、彼女が大切にしているこの世を呪った。

そして俺はある決心をした。

俺はこう呟く。

「……美咲はいいのか?俺の答えを仏壇で聞くってことで」

「……つまり?」

「俺は良くないと思う。だってこんな俺を支えてくれた、好きになってくれたお前が救われないのは間違っていると思うからだ」

「……好きなのは間違いないけど、いざそうやって言われるとちょっと恥ずかしいよ」

照れている彼女を無視してこう告げた。

「……俺は受けるよ。お前の告白。俺だってお前が好きなことに気が付いたんだ」

すると彼女は驚いたような顔をした。

「それは……余命が短いから……とか?」

「いいや、違う」

「じゃ、じゃあ……私がかわいそうだから……とか?」

「それも違う。俺はお前が好きだから受けるんだ。お前をいろんなところに連れて行ってやって楽しませたいし、お前の驚く顔だって見たい!そしてなにより!この世界がお前を幸せにしてやれないというのなら!俺がお前を幸せにしてやる!」

俺は息を切らしながらこんなことを言った。

「ちょっと、声大きいよ。ここ、病室だよ?」

そう言って頬を赤らめてうつむく彼女が言う通り、ここは病室、しかも周りにはちゃんと人がいるのだった。

俺は照れながら周りを見渡し、会釈する。

「でも……だったら私も頑張ってみるよ。だから君は私の頑張る姿を見ていてくれる?応援してくれる?」

「ああ、応援してやる。安心しろ、俺の応援にはたとえ東京ドームに人がいっぱい集まって応援したって勝てない」

「アハハ!そうなんだ、じゃあ、期待しておこうかな」

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