第6話

俺は今日、彼女から屋上に呼ばれた。

屋上は今まで立ち入ったことのない場所で、その新鮮さからかドキドキしていた。(いや、違う)

ひと気のない階段を上る。

階段の一段一段にはほこりが積もっていて来る人が久しいことを示していた。

しかし、そんな階段にも一つだけ、真新しく上った後があった。

これはたぶん彼女のものだろう。

俺は彼女がまた新しいことでも思いついたのだろうとワクワクしていた。(それも嘘だ)

彼女はいつも俺を楽しませてくれて、俺もそんな彼女が友達として好きだった。

今日、ここに呼び出されたのは何となく察しがついている。

つまり、彼女は俺に告白するつもりなんだろう。

俺も彼女からの告白は嬉しいし、(嘘だ)もちろん受けるつもりだ。(お前は本当はそうは思っていないはずだ)

だから俺は飛び切りの笑顔で屋上の扉を開ける(それは虚勢だ)。

そこには彼女が、消え入りそうにして夕方の校庭を見つめている彼女が、フェンスに手をかけて待っていた。

彼女の表情はいつもと比べると不安げである。

俺は(嘘の)笑顔を浮かべたまま彼女に近づく。

すると彼女は俺に気づいたようで微笑みながらこっち側を向いた。

二人は笑顔で見つめあう。

(気持ち悪い。嘘で塗り固められた顔だ)

「あ、瓜生君、今日は急な呼び出しに応対してもらってごめんね?」

(俺は安堵した。こいつがいつも通りなところに。と同時にこう期待もした。これからもこの関係性を崩さないでくれと)

これは多分告白の前座という奴だろう。

俺はそれに快く返す。

「いや、別にかまわないさ。ところで今日は何の用かな」

「まぁまぁ、そんな急かないでくれたまえ。何せ君の人生はまだ長いんだから」

彼女は、この場に流れる緊張感にいち早く気づいたのだろう、そう言うと胸を突き出し手をグーにして胸をたたいてみせた。

彼女はこの場には到底合わない自信の有りようを見せて、その錯誤に笑いを生み出そうとしたのだろう。

つまり、端的に言うと彼女はおどけてみせた。

(このまま引き下がってくれないかと期待しもした。だが、屋上に呼び出した時点でもう薄々気づいてはいた。後戻りはできないと……)

俺はその次の言葉を待った。

次の言葉に期待(もう後戻りができないという諦念)が募る。


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