take4

1カ所目 無職のおっさん



 平日の昼間から魔法を使い、海の上に座って火を起こすと空いた手から骨付き肉を生み出して焼き始める。穏やかな波の上で、俺はデカい骨付きマンガ肉を回しながら水平線を眺めた。


 無職の俺は特にすることがない。無職だから働いていないし働く気もない。定職に就くのは氷河期世代なので諦めた。もはや取り返しのつかない55歳のおっさんだ。かれこれ30年以上も働いていない。働かないまま、ずっとこうやって一般の人間が立ち寄れない場所に踏み入っては、肉を焼いたりコーヒーをすすったり本を捲ったりインスタントラーメンを鍋で作ったりして一日中、大自然の景色をボーっと眺めるのが今のMy日課マイブームだ。


 今日は洋上でくつろぐことにした。

 海の上に座ったり二本足で立ったりするのは魔法を使えば簡単なことだ。しかし俺の使う魔法は、この世界で唯一人、世界の真相を知っている俺にしか使うことができない。理由は、この世界を創りだした地球の日本に住む挫刹という悪魔が隣にいるからだ。地球では人間として暮らしているらしいがここでは悪魔だと名乗っている。姿形は手の平に治まる小さいドラゴンだったり二頭身の不動明王だったりしている。その挫刹が最近、地球のカクヨムという小説投稿サイトで四作品を二度にわたって利用規約違反の警告を集中的に食らってしまったらしく、ひどく落ち込んでいる。

 この世界は、規約違反で拗ねていじけてやけくそになった挫刹が腹いせに創りだした。それを知っているのは俺だけだが、何も問題はない。

 この世界に住んでいる者でも挫刹という悪魔がこの世界を作り上げたという話は誰もが知っている周知の事実だ。地球から見ると異世界ファンタジーであるこの世界の誰もが、この世界を創ったのは挫刹の悪魔だと既に認識している。しかし、残念なことに挫刹本人と出会った者はこの世界では俺一人しか存在しない。その証拠が、この文章を俺が一人称で語っていることだ。

 俺がこの悪魔と知り合ったのはつい最近のことだ。挫刹のほうは随分前から俺のことを知っていたようだが、俺は今までコイツの存在には全く気が付かなかった。


 ではなぜ、俺がこの世界の創造主である挫刹の存在に気付くことができたのかについては、拠点にしている隠家いえに帰ってから語ることにしよう。それがいつになるかは分からないが、今はとりあえずナマ……じゃなくて、海の上で座ったり二本足で立つ為の力である魔法の話をする。


 海の上に立つ魔法は、挫刹と出会う前から使うことはできた。海の上に立つ魔法といっても海の上に立つため専用の魔法があるわけじゃない。

 説明するなら、目の前で炙られているこの骨付きマンガ肉は俺が魔法で生み出したものだし、肉を焼いている炎も今も常に意識して魔法で発生させ続けているものだ。なので肉については別に動物を屠殺とさつして手に入れたワケじゃない。命は大事だ。殺しはよくない。特に虚構の物語ではだ。腕が切断されても一瞬で腕が元通りに再生してしまうモンスターの肉ならば、切断された腕の肉は殺さずに入手した食料と見なして気兼ねなく食べる事ができる。それと同じ理屈だ。

殺生はいかん。当然植物もだ。植物も生命いのちだ。生命いのちは大事にしろ。

 ちなみに俺は魔法によって腹の減らない身体になっている。腹が減らないのに肉を食べるとどうなるか知っているか?

 腎臓を壊す。地球の人間ではない異世界ファンタジーの人間である俺は腎臓を壊さない。というかそもそも腎臓がないかもな。そんな話は言い。俺が言いたいのは、地球の人間だったら確実に腎臓を壊すということだ。地球の人間が腎臓を一度でも壊すと地球ではもう元には戻らない。治療手段は臓器移植だけだ。だから地球の取り返しのつかない人間は、身体を大事にしろ。


 他にもこの作品では、文章の構成として整合性が取れないおかしいと思った箇所が出てくるかもしれないが、それは挫刹が文章で書きそびれた所で俺が魔法を使って出現させている場合があるので注意されたい。いちいち文で、魔法を使って生みだした。魔法を使って生み出した、などと説明して書くと読みにくいだろう。だから勝手に魔法で生みだして勝手に魔法で消去させていく。俺が使う魔法はそれができるほど便利なのだ。地球で使えないのが残念だな。ざまぁ。申し訳程度のザマァ要素だ。許せ。

 そんな事より、もう少し詳しく説明すると、例えばここで魔法を使い、炭酸水入りの500mlペットボトルを出現させたとする。それを喉も乾いていない俺が海の上でゴクゴクと飲み干すとペットボトルだけが残るわけだ。しかし俺の手にはもうペットボトルは無い。魔法で消したからだ。ドリンクを飲み終えると空のペットボトルが嫌でも残ってしまう地球という世界はとても不便で地獄だな。だから地球の環境は大切にしろ。

 俺は出したゴミを地球のようにポイ捨てする必要さえない。俺が炭酸水を飲み干せばペットボトルも同時に消えて無くなる。便利だろう。俺も便利だと思う。だから俺はこの世界で無職として生きている。羨ましいか? 俺は自慢する。


 無職で生きているとする事が何も無いッ!

 カネは必要ない。なぜなら金は全て魔法で生みだせるからだ。ダイヤモンドでもオリハルコンでもミスリルでも黄金でも惑星でも、俺は全てが魔法で生みだせる。もちろんそれができるのはこの世界で俺だけだ。他の者たちでは完全に無理だ。この世界を創った挫刹が隣にいないからだ。


 この世界を創った挫刹が隣にいる俺だけがいつでも全てを生み出せる。たとえば俺好みの人間をもう一人生み出して話し相手にする事も出来なくはないが、それはしない。この作品の主人公である俺は孤独が好きだからだ。下らない話し相手は隣の挫刹だけで十分だしそれでいいと自覚している。それでも時々、この世界の住人と話すことがあるかもしれない。

 この作品の著者である挫刹がアイデアに行き詰まって書くことが無くなったり、実は誰かと出会う運命プロットでも既に前からあったりすれば他の登場人物たちも登場することがあるだろう。

今のところ、トラックドラゴンと呼ばれる攻撃するだけでトラックに轢かれた時と同じ効果を発揮するスキル『異世界転生』を持つと自分で勝手に設定を作りだして自称している痛いドラゴンを、空から突然登場させる予定だと隣の挫刹がわめいているが、本当にそんな奴が登場するかどうかはわからない。確かにそんな事を言っているドラゴンもこの世界には存在するが、いきなり空から現われるのだけは勘弁願いたい。

 なお一応、言っておくと力関係では当然、俺より挫刹のほうが遥かに上だ。俺の力は微塵も及ばない。俺は魔法で全てが生み出せるがもう一つ惑星を生み出そうとすると、挫刹の表現力キャパシティが追いつかない為、挫刹に拒否される。挫刹の表現力がないと俺も魔法が使えないのだ。まったくこっちも世知辛い世の中だ。すまんな。

 あと、これが一番重要なことなので必ず言い切っておくが、俺は異世界転生や異世界転移は完全にしていない、正真正銘のこの世界で生まれてやっと自我を得て生きている現地の住人だ。お前達、魔法も使えない不便な地球に住んでいるカクヨムの読者たちとは一線を画する存在なのだ。今のは何気に優越感で言った。まあ、完全な氷河期世代の55歳の無職のおっさんだがな。また、この世界にはスキルやレベル、ステータスといったカクヨムの読者たちが期待しているようなものは一切、無(文字数)




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