第6話 銀座ホステスの恋の行方は茨の道

 ホステスが言う。

「いつも思うんだけど、やはり、ホストを彼氏にもつと、いつ浮気されるかひやひやのし通しで、気の休まるヒマがないわ」

 ホストが応答した。

「それは、こっちのセリフだよ。いつも、金持ちのエリートばかりに囲まれ、プロポーズでもされちゃあ、こちらは立つ瀬がないよ」

「そんな、まあ、結婚したという例は、きわめて珍しいわ。だって、私たちホステスは、酒ばかり飲むでしょう。毎日ボトル一本は開けなきゃ、商売にならないわ。

 よほど、意思の強い人でない限り結婚したって、のちの生活はまあうまくいかないのがオチね」

 ペアルックのつもりなのだろうか。

 色違いのトップスにデニムパンツ、お揃いのクロスのネックレス。

 スーツにドレスという仮面の衣裳を脱ぎ捨てて、素顔のままの二人はどこか疲労感が隠せない。

「客のなかに異性はいるか?」

「そうね、客になった途端に、仕事相手、売上相手に変わるのよね。

 客の顔が聖徳太子に見えるなんていうと、モラルに欠けるかな」

 そうはいうものの、いくら仕事相手ということがわかりきっていても、ロボットでもなければ、マネキン人形でもない血の通った人間である。

 ペットさえ、愛着がわくというのに、相手は自分目当てで来てくれ、売上に直結するお客さんだ。

 三回以上来店してくれた指名客に、情がわくのは極めて自然な心理である。

 

 ただし、ホステスが客に惚れるほど、みじめなことはない。

「女房と別れて結婚しよう」

 その甘言にだまされるホステスが、なんと多いことか。

 しかし、ホストが客を好きになる場合もあるのは、男として自然な感情だろう。

 つきあうのは、お互いの自由だが、結婚する覚悟がない限り、間違っても女性客をはらませてはならない。

 そういったことがあれば、女性客はそれを友人にふれてまわる。

 そうすればその友人が、他店のホストに言う。

 そんな噂はホスト業界に広がり、女性客をはらませたホスト個人だけの責任ではなく、その店の責任を問われるというところまでいかなくても、店の評判がいっきに落ち、この店は、女性はらませ専門ホストクラブという噂をたてられかねない。

 このことは、店にとって大きなダメージである。

 だいたい、ホスト業界に限らず水商売というのは、同業者同志が横の関係をもち、非常に狭い世界で、どの店のホストが売掛金を残して飛んだ(行方知らずになった)とかの悪い噂は、すぐ伝わり、その飛んだホストが別のホストクラブに面接にいっても、そんな話はとうに知れ渡っているのである。


 しかし、どういうわけか、中絶男に限って女性に対して度胸があるというか、ものおじせず、誰とでも話し、ときにはギャグを交えたりするが、上っ面だけで真心というものが感じられず、女性に媚びようとする姿勢がかえって上滑りするだけである。

 やはり、女性を傷つけた体験があるので、女性に対する真心や羞恥心などすり減っているのだろう。

 まあ、そういう男は万年ヘルプホストどまりである。

 ヘルプホストの給料はあくまで売上ホストから生じているので、売上を上げられず一人の女性客を獲得できないホストは三か月以内に、退店するしかない。


 女を妊娠中絶させたホストなどというのは、もう最悪のパターンである。

 ホストクラブの女性客の八割は、水商売女性なのであるが、いちばん苦手以上の、針が刺されたような恐怖感に陥らせ、ホステスの心身を傷つけるのは、この中絶男である。ホステスに限らず水商売の女性は、昼間の女性以上に妊娠や中絶という言葉に敏感である。

 

 


 

 


 

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