2、『ユイ』

 守屋は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で少女を見ている。


 困ったな…。何か言い訳しないと…と考えていると、守屋が姿勢を正し、挙手の敬礼をしながら「はっ、自分は、オジカ事務用品、関東営業所所属『守屋もりや浩一こういち二等にとうであります。 たいら殿とは同じ部隊であります」と言った。


 …こいつ、やるな。


 少女は「あたしは衛鬼兵団えいきへいだん 司令官、『たいら ユイ』大将である。 現在は指揮権を兄に移乗いじょうし、サポート業務にいている」と言いながら『兄』の時に、俺を肘で小突こづいた。


 「はっ! おつとめお疲れ様です。」 守屋が再び敬礼した。


 少女も「ふむ。貴官も休暇返上、ご苦労」と、答礼した。



 この、自分から『ユイ』って名乗ってくれた。 俺もこれから、そう呼ぼう。


 …この二人、初対面なのに随分話が合っている。 …が、『あります』だの『貴官』だの、固っ苦しい言葉の応酬に、俺は頭痛がして来た。 腹も減って来たし、盛り上がっている二人をよそに、公園の手すりに腰掛け、洋食弁当を食べ始めた。


 早々に食べ終わってしまい、俺がまた鷹音ようおんさんの動画を観ながらまったりしていると、二人が駆け寄って来た。


 「たいらさん、すみません。すっかり盛り上がっちゃって」…良いよ〜。ユイも楽しそうだったし。


 「それで、実は来週の土曜日なんですが、俺のチームのサバゲ大会があるんです。ユイさんに、是非参加して頂きたいんですが、良いですか?」 …なるほど、サバゲをやってるからユイとも話が合うんだな。などと考えていると、二人のキラキラした視線が突き刺さった。


 「良いよ」こんな目で見られてたら許可しない訳にはいかない。


 守屋はノリノリで、ユイに敬礼し「閣下! では、当日お迎えに上がります」ユイも上機嫌で「うむ、期待する」と、答礼した。


 守屋は俺に「ジュース、ご馳走様でした。じゃ、また明日〜」と言って頭を下げ、別れた。


 ユイは守屋をいつまでも見送り、守屋も度々たびたび振り返り、その度に手を降っている。


 男女の出会いって、こんなにスムーズなんだな〜…と感心させられた。


 『運命の出会い』…良く耳にするけど、そんなの、夢の世界か、遠い出来事だと思っていた。しかし、今この二人をの当たりにして、改めて『運命』について考えさせられた。


 …俺と鷹音ようおんさんは、運命の糸で繋がっているのだろうか…?

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