第六章『駐留』

1、「永久に…」

 「おい、あに


 …俺は敢えて聞こえないフリをした。


 「貴様、返答せんか!」


 ここは、俺のアパート。 先日の一件で、憧れの『鷹音ようおん』さんと同じ小学校の出身になれたのだが、はてさて、そこからどう進めたら良いか見当がつかない。


 いくら出身校が同じとは言え、それはそれ、恋愛どうこうに移行するまでには、まだまだ遠く遥かな道程みちのりが続く…。



 『バッチ〜ン!』


 …軽快な破裂音と共に、痛みが俺の背中を襲った。


 「いててて! 何だよ!」


 「さっきから呼んでおろう! 聴知したなら応答せい! 」


 この、一見中学生に見える司令官…もとい前司令官は、戦闘継続中の為、俺のアパートに駐留しているのだが、少女を連れ込んでいるのが知れたら、下手をすれば警察沙汰だ。


 そこで『妹』と言う名目で同居する事にした…のだが、何せこの『妹』は軍人口調しか使った事が無いので、大仰おおぎょうで不自然極まりない言葉遣いをする。


 この次元に潜伏するなら、もう少し、自然に話して…と言ったが、中々直さない。


 「血中のグルコース濃度が低下した! 食料調達に行くぞ」


 御意ロジャー、行くよ…。


 休日の昼間はそれなりに賑わっている、あの公園の前を過ぎ、コンビニに入る。


 少女は脇目も振らず、おにぎりの陳列棚に向った。 俺は弁当の棚を見る。最近のコンビニは専門店並みに美味い食品を売っている。


 「たいらさん!」


 振り向くと、会社の同僚で後輩の守屋もりやが、背広を着て立っていた。


 「あれ? 出社?」


 …クレーム処理で呼び出され、その帰りだそうだ。 手にはペットボトルの飲料を持っている。


 「お疲れ〜、おごるよ」守屋からペットボトルを受け取り、近くにあった洋食弁当を手にしてカウンターに向かった。


 待ち兼ねていた少女から、おにぎりを受け取って会計を済ませ、コンビニを後にする。


 少女は、見ているこっちが嬉しくなるような笑顔でおにぎりを頬張った。


 その顔に見とれて、俺が差し出したペットボトルにも気付かない守屋が「このは?」と聴いてくる。


 「こいつは、衛鬼兵団えいきへいだんの…」…と言いかけ…


 「えいき…永久えいきゅうに、俺の妹だ」


 「…そ、そうですよね、妹さんは、まあ、永久えいきゅうに妹さんですよね」と言いながら、ペットボトルを受け取った。目は少女にロックオンされたままだ。


 その視線を感じたのか、少女が守屋を睨みながら「何奴なにやつ? …所属と階級を言え…」


 やばっ…始まっちゃった!

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