4、『T・T』

 少女に手を引かれ歩みを進めると、強い光に包まれた。あまりの眩しさに、目を開けられない。


 これが、タイム・トンネル…か?



 …唐突に、少女が繋いだ手を離した。


 「お、おい! どこだ??」


 手探りで探すが、俺の手は虚しく宙を掴むだけだ。


 え? 置いてけぼりかよ…。


 …前に何かで読んだ事がある。タイム・トンネルの中で経路ルートから外れると、目的の『時点』と全く異なる場所に取り残されてしまう。良く言う、『タイム時間スリップ滑落』と言うやつだ。


 時間ときの漂流者となった者は、その漂着した『時点』で、その一生を終える運命が待っている…。


 まばゆい光のロードの中で、俺は、只々ただただ孤独を感じていた…。


 さようなら、鷹音ようおんさん…。


 さようなら、令和…。


 SA・YO・NA・RA…。




 「…貴様、一人で何をしている?」


 薄目を開けると、どデカい顔が目に入った!


 「ひえぇ〜!!」


 驚いた拍子に尻餅をついた…が、痛みは感じない。床を探ると、草むらのような手触りだ。


 徐々に目が慣れてきたのか、視界がはっきりして来た。


 俺を至近距離で覗き込む少女と、それしに、整然と並んだ人影ひとかげえ始めた。



 …あとから判明した事だが、『タイム・トンネル』は俺が勝手に思い込んでいただけで、実はっくのうに、目的の『時点』に到着していたのだ。


 衛鬼兵団えいきへいだん技術参謀によると、次元転移も時間転移も原理は同じで、彼らの技術なら、お散歩気分でタイム・トラベル出来るそうな。 


 ヤケにまぶしかったのは、暗い『衛鬼兵団えいきへいだん前哨基地ぜんしょうきち』から、急激に明るい陽光ひのひかりもとに移動したためだった。


 更に、戦国時代は、大気たいきが澄み切っており、当然、現代と比べると強い日差しが降り注ぐため、余計にまぶしさを感じたのだ。




 …俺達は、小八瀬こやせの国、細河ほそがわ兵六ひょうろくの本陣に、無事、到着していた。


 …いつの間にか、俺は鎧兜よろいかぶとを身に着け、少女は…


 …桃太郎さんのような身なりをしている。


 思わず吹き出してしまった俺が、少女の手にする薙刀なぎなた石突いしづきで、よろいの隙間を素早く正確に射抜かれ、四〜五日ズキズキ痛む羽目はめになったのは、言うまでもない。

 …流石は司令官に昇り詰めただけの事はある。良い突きだったぜぇ。




 「閣下〜、総司令閣下ぁ〜」…聞き慣れた声がした。


 「おい、呼んでるぞ」

 …って、あっ! 俺か!


 「おお、情報参謀ぉ〜」と振り向くと、鎧兜よろいかぶといびつに着こなした、ひょろ長い、あの姿が!


 おいおい、随分タイトロープつなわたりな事してるなあ! 下手したら、怪物呼ばわりされて、新兵のゆみ教練きょうれんまとにされ、一巻の終わりだよ!


 少女が腕を組み、不敵な笑みを浮かべ「彼奴きゃつ見縊みくびるな…。ああ見えて、彼奴きゃつは名うての交渉人ネゴシエーターだ。 あたし達が到着する前に、細河ほそがわ氏との軍事協定は締結してある」と、誇らしげに言った。


 へえ〜、見かけによらないもんだ。


 …協定が結んであるのなら安心だ。俺たちは、細河ほそがわ様に、深々と頭を下げ、初対面の挨拶を交わした。


 細河ほそがわ様は、名前通りのほっそりとした、感じの良さそうな青年だった。周りの家臣の方々も、優しい笑顔をこちらに向けている。


 その時、背中に旗を立てた兵士が飛び込んで来た。


 「物見ものみよりの知らせです! 岩熊いわぐま軍およそ二千、川を越しました!」


 「来たか…。」細河ほそがわ様の横にいた、ご家老の顔から笑みが消え、細河ほそがわ様も、兜の緒を締めた。


 緊張感が伝播でんぱしてきた。いよいよ戦闘開始だ。


 あのぉ、こんな時に何なんですが…


 …俺…作戦を聞き逃してたんですが、大丈夫ですかね…?


 ↑こんな事を、少女に聴いてみよう…と思った瞬間、ご家老が右手を上げた。


 それを合図に兵士達が


 俺たちに襲いかかった?!

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