6、『A』

 …俺はすさまじい圧に耐えながら言った。


 「答えは『自分も、敵と同じ部屋に入る』です」


 作戦参謀が進み出て、「何をバカな事を。死んでしまうではないか!!」と言った。参謀たちも、そのげんに同意しているようだ。


 俺は続けた


 「皆さんは、こうお考えでしょう。『致死性ウィルスに感染した敵』を『閉じこめたり、殺害した』ために『感染した味方』を、抹殺してしまえば、それで解決する…と」


 全員がうなずく。ちょっと可愛い。


 「ところが、その『感染した味方』を抹殺した者は、『致死性ウィルス』に感染してしまい、感染はさらに拡がります。さあ、どうしますか?」


 作戦参謀が、「当然、ウィルスに感染した者共ものどもを皆殺しにすれば、それで終わり……あっ!」


 「お気づきですね。感染者を閉じ込めたり、殺害する度に感染が拡大し、やがて…」


 そう言って、俺は、うながすように、作戦参謀を見上げた。


 作戦参謀は、悔しげに


 「自分らは…絶滅する」…と小声で答えた。


 「そうです。この問題は、『自分だけが生き残れば良い』と考えている限り解けません」


 更に、俺は続けた。「他者を救う為に自分が『犠牲』になる。皆さんには思いもよらない事でしょう」


 情報参謀に向き、「先程さきほど貴方あなたが言っていた『強大マイティ要因ファクター』。それが、この問題を解く重要な鍵になります」…と言うと、情報参謀は身を乗り出した。


 「『自分より大切な人々を守る為に、一番大事な自分の命をも投げ出すことが出来る心』…それこそが、我々人類が持ち、貴方方あなたがたに無い、強大マイティ要因ファクター、『愛』の力です!」


  俺は作戦参謀に向って「人類が、俺のせいで滅亡してしまうような事になるなら、俺は『コイビト』など要りません」と言い、席に戻った。



 しばしの沈黙ののち、情報参謀が手?を叩きながら…


 「素晴らしい。わたくし達には想像もつかなかった!!」と言ってくれた。他の参謀たちも、徐々に賛同し始め、ついには、スタンディングオベーションのようになっていた。


 …今までの人生で、こんなに褒められた事など無い。…褒めてくれたのが、人類では無いのが、やや不服ではあるが、まあ、喜んでおこう。


 …拍手が止むと同時に、少女が、とんでも無い事を口にした!


 「…これにより、今次戦こんじせんいて、我々は、重大な要因ファクターが欠落している事が明らかとなった。 って、今次戦こんじせんは、このものに指揮権をゆだねようと思うが、如何いかがであろう!?」



 再び、拍手が鳴り響き、参謀たちが賛同の言葉を口にした。


 参謀長が「閣下、満場一致です」と報告し、頭を下げた。


 少女が嬉しそうに微笑み、例の装置に何かをつぶやいた。すると…


 俺が着ていた服が消滅し、ぜ、全裸に!


 『全裸司令官(臨時)』…とのキャッチフレーズが脳裏をかすめる。


 慌てて前を隠したが、ふと下に目をやると、すでに、俺は、少女が身に付けていたような軍服(少女はショートパンツタイプだが、俺は長ズボン)を着ていた。


 大丈夫、履いてましたよ。


 少女の軍服を見ると、勲章は変わりないが、胸の徽章きしょうが消えており、それは俺の左胸で、燦然さんぜんと輝きを放っていた!



 鳴り止まぬ拍手と歓声で、議事堂は、えらい盛り上がっているが、


 お気づきだろうか…。


 実は『満場一致』では無い事を…。


 ……


 俺 は 賛 同 し て い な い !!



 …とは言え…今更『イヤだ』とは言えない雰囲気になっている。


 まあ…良いかあ!



 …こうして俺は、『臨時司令官』を襲名したのだった。

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