2、『よるごはん』※閲覧注意(全年齢対象ですが、痛々しい描写があります)

 『たいら 友結ゆい』…妹の名前だ。


 たくさんの人たちと『友』情で『結』ばれ、幸せな人生を送れるように…との願いを込めて両親が命名したそうだ。



 妹は絵を描くのが何より好きだった。とても上手じょうずで、幼稚園で絵を描くと、集まった園児がクラスに戻らず、先生が困ったそうだ。


 妹の病室には、毎日のように、たくさんの友達がお見舞いに来てくれた。担当の看護師さんが「これは、整理券を配る必要があるわね」と、冗談交じりで言っていたくらいだ。


 病院のベッドでも妹はクレヨンで絵を描き続けた。

 右腕に点滴を打つと絵が描けなくなるので、左腕に打つように看護師さんにお願いし、左腕に打つ場所が無くなったら


 「あちに打って」と、お願いしていた…。痛くてつらかったろうに、歯を食いしばって耐えていた…。


 俺達は妹の回復を必死で願い、先生や看護師さんも懸命に治療してくれたが、病魔には勝てず、日に日に弱っていった。


 …そして、ついに…クレヨンも握れなくなり、妹は苦しそうな息の中


 「……友結ゆい、まだにたく…ない…」と言い遺し


 悲しみ嘆く俺達をおいて天国に旅立ってしまった…。


******

 …その日から、本当に長い間、家から笑顔が消えていた。


 遺された俺達がやっと笑い合えるようになったのは、俺が一人暮らしを始めた、つい最近の事だ。実家に帰ると、両親はいつも笑顔で迎えてくれる。



******

 

…俺は、妹の写真と描きかけの家族四人が食卓を囲んで談笑している絵…


 『よるごはん』


…を少女に見せながら「…俺達は誰もが、こんな経験をいのちの大切さを知り、寄り添って生きているんだ。


だから…俺は人のいのちも、もちろん自分のいのちも大切にしたい!」


 …と、涙をぬぐうのも忘れ、少女に語りかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る