4、辛く悲しい思い出…。

 少女は俺が寝かせたままの姿勢で横たわっていた。ほっと胸をで下ろす。


 少女を起こし、おにぎりと麦茶を渡す…が、一向いっこうに食べようとしない。


 不思議に思い「遠慮しなくて良いから食べな」と言ってみたが、その返答に耳を疑った。


 「『タベナ』とは何だ?」


 ん? …笑うとこ?

今時いまどきの若いの『笑いのツボ』…って、こんなんなんか?? …まあ良い。乗ってやるか…。


 少女のくち指差ゆびさしながら…「くちを開けて、少しずつ噛んで飲み込む事だよ」


 少女は、しばらく俺の指を見つめていたが


 「そうか…ここは発声の為だけの器官では無いのか」


 …などと言いながら、ようやく食べ始めた。


 あっと言う間に食べ終わり、お茶を飲み干し、まだ足りなそうにしている。


 そんなに食えるかな? と思いながらも、見かねて、おにぎりと飲料を、さっきのコンビニで再度購入し、


 「もう大分だいぶ暗くなって来たし、これを食べたら、ちゃんと家に帰るんだよ! …じゃあね」


 …と帰る事にして立ち上がった。


 …ところが、なぜか前に進めない。振り返ると、少女が俺の上着うわぎすそつかんで、こちらをにらみ付けている。


 「待て! それで良いのか?」


 俺は想定外の少女の言葉に「へえっ⤴?」と間抜けな声で聞き返した。


 「何が『じゃあね』だ! 戦場では接近する味方以外のものすべてき! 即時抹殺そくじまっさつが鉄則だ! いのちを助けるとは、おろかにもほどがある!」


 『即時抹殺そくじまっさつ』? …いのちを助ける事が『おろか』?


 …おい…ふざけんなよ…。例え冗談でも、言って良い事と悪い事がある…。


 どんなに生きたくても、その願いが叶わなかった人の気持ちや、その家族のつらさを考えた事…あるか?


 …俺の中で『あの』日の事が、鮮明に蘇えった。『友結ゆい』との…別れの日…。


 思わず感情が爆発し…


 「そんな言葉を軽々しく口にするな!! お前、何様だよ!!」…と、少女を怒鳴りつけてしまった。…大人気おとなげ無かったな。


 泣かせちゃったかな?…と心配したが、少女は顔色一つ変えず…


 「あたしはエイキヘイダン シレイ…」


 …ん? さっき怒鳴った声のせいか、耳がキーンと鳴って少女の声が聞き取れなかった。


 「え? …エイキ? …何だって?」

 

 「あたしは『衛鬼兵団えいきへいだん』司令官だ! いのちなんて惜しく無い!!」


 りない娘だ。こっちも更にヒートアップし…


 「これ以上、言うな!」と怒鳴った。


 少女も負けずに「何度でも言う! あたしは『衛鬼兵えいきへい』の誇りにかけて、このいのちなど、いつでも捨てる覚悟だ!」と怒鳴る!


 双方共そうほうとも一歩も引かない。…ふと気が付いてまわりを見渡すと、野次馬が取り囲んでいた!


 俺は少女の手を引き、咄嗟とっさに、「す、すみません、演劇の練習で」などと行きあたりばったりの言い訳をしつつ、急いで公園を立ち去った。


 うしろから野次馬達、拍手しながら


 「がんばれ~!」


 「上手うまかったぞ~!!」


 …そりゃ上手うまいに決まってる! 本当は演技じゃないんだから。

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